刹那の栄光 その06
「羅睺とは二回対戦して二回負けてる。あまり言いたくはないが……もう戦いたくない相手だったな」
「ひどい奴だ」
大稲デイヤの正直な感想。大稲本人スロースターターっぽいもんね。
序盤に有利を稼いで、中距離から遠距離を走り切るスタイルだし、初期の手札が酷いとそのまま負けそう。
「オレ様は勝てたが戦いたくなかったな……そうか、せっかくだから詫びておこう。
ククク、『運命潮力』に頼るだけで格下を狩ることしかできない雑魚という言葉、撤回させてくれ。すまなかった」
「そ、ソーマが頭を下げている……!」
驚く大稲。え? ソーマって素直に誤りを認めるよね?
「あの時は事実だった」
「しかし今はアミを打倒した。そして、男を見る目もある。何よりこの場の誰よりも早く『呪い』を克服した」
「それこそ、彗さんのお陰だろう」
『呪い』が『運命潮力』の事であると、大稲とアミは理解できないようだった。
健全なゲームには邪魔なんだよね。
「ちなみに出力を下げたり、他人の対戦時にも発動できるようになっている」
「…………では、ら……ラコ? は、ハレイケイを応援しているから……?」
「まさか! そんな事は絶対にしない!
してませんからね彗さん!!」
過剰に動揺する乳母崎さん。大丈夫だよ、そんな事しても不機嫌になるだけ。
「…………き、嫌いになりません?」
「ならないってぱ」
内心がっかりはするかもしれない、でも俺のためでしょ?
「うーん、いろいろ考えたんだが……オレはたぶん、『向こう側』の相手をただの『敵』として見ていた。
話し合える『人間だと』は思っていなかった。もっと早くそう気付けばよかったよ」
「まだ遅くないだろ?」
だから、大稲が乳母崎さんと羅睺が同一人物だと気が付かなかったとしても、それを責められている訳ではない。
相手をよく見て、思い込みだけで物事を判断するなというだけの話だ。
「…………そうかな」
「魚住さんに声かけてみたら?」
「……水泳部の? なんで?」
「ダメダメ! ココちゃん可愛いじゃん! …………なんで?」
あー、二人はいなかったからね。
「『月組』『花組』はうちの生徒です。シヴァが接触しやすいから集めたのだろう」
「知らんかった」「マジかー」
「ちなみに、『虎魚』は彗さんガチ恋勢なので大稲先輩には目もくれないでしょう」
「わはは、モテすぎて困るな……待って、早く嘘だと言って」
ガチ恋勢ってなに!? マジでなんなの!!?
「彗さんでえっちな妄想して、私がいるから無理かなと諦める程度には」
「くわ……」
詳しく知りたいけど……俺には乳母崎さんがいるから……うん。聞かないから。聞かないからな。
学校で見られてた気もするけどスルーしたぞ!
「ちなみに二人きりにならないように気を付けてください」
「うっぴーからのライバルへの牽制がエグ過ぎる件」
「ああ……なるほど」
不意打ちで告られて俺がクラッと来ないように今のうちに情報を与えてるのね。
「ちなみに奴の性癖は首のエラを……」
「かわいそうだからやめたげてよぉ!」
「分かりました」
性癖を読心されて本人の居ない場所で喧伝されるとか地獄なんだけど……。
「女子怖え」「羅睺が怖いだけでは」「ククク」
「とりあえず、ゲームに戻ろうぜ」
「…………ああ、ええと。《子育てするトリケラトプス》で攻撃」
みんな状況を忘れているだろう。今は後攻大稲の三ターン目。一枚セットして、《子育てするトリケラトプス》を表にする。
コストに比べて極めて強力だが、1/1恐竜トークンがいないと戦ってくれない弱点を持つ恐竜だ。
子どもを守る時だけ勇猛になる草食動物の鑑である。そして攻撃先は俺のおっぱいちゃんこと《タピルスの歩き巫女》。おっぱいが潰れちゃう!
「大稲、次の質問やめないか?」
「なんでだよ」
「だって、集中力途切れてるじゃん。《過去からの脅威》」
俺はスペルを表にする。大稲の表情が厳しくなる。
「ソーマに聞いてないのか? 俺のこの『見えざる脅威』がどんなデッキなのか」
「……聞いてない」
「ククク、聞かれていないからな」
ええ……俺は猫魂さんとの対戦を横目で見てたから把握してるぞ??
「だが海賊手札破壊デッキなのは一回戦で見てたぜ」
「おい!! ダメじゃねーかコイツ!!」
「ククク…………すまん」
「俺のデッキは『運命潮力』対策デッキ! さっき『失われた記憶』でキーカードを落とされたろ!?」
《過去からの脅威》はゲームから取り除かれているカードを一枚、表向きで使用できる。
スペルでも、ユニットでも。まあ、ユニットならばそのターン限定だが。
そして、ここで使用するのはもちろん。
「《暴君王龍 トルス=レックス》」
「うう……っ、相棒!?」
《トルス=レックス》は戦闘開始時に同じ戦場のユニットに5点のダメージを割り振れる。
《子育てするトリケラトプス》の防御力は4、恐竜トークンは1。ぴったり焼き払われて大稲は渋い顔だ。
「……確かに、集中力を欠いていたかもな。だがこの後はそうも行かない。《駆け抜けるラプトル》を戦場Bへ移動してエンドだ。
つーか晴井、『花組』の子に告られたり誘われてもちゃんと断れんのか!?」
お、偉いぞ。痛そうな所を狙える程度に冷静で。でも残念だったな。それは俺には刺さらないんだ。
「三人まとめて来たとしても、絶対に罠だね。俺は人に愛されるほど出来のいい人間じゃないし。ラコさん一人いるだけで奇跡だよ」




