刹那の栄光 その05
「ターン貰います。三ターン目。ドロー、補充、リソースは青黄色黄色」
状況を確認しよう。
大稲は戦場Aを《駆け抜けるラプトル》で制圧。中央経路に裏1枚。
俺は制圧なし、戦場Cに《タピルスの歩き巫女》。本陣に裏向きの《生き恥晒しのヤオ》。
大稲のデッキは単純火力で攻めるタイプではなく、紫の妨害と小型恐竜の速攻を掛け合わせた形だ。
リソースを残していないが、恐らくあの裏向きはユニット。つまり次のターンに俺の《歩き巫女》は踏み潰される。
おっぱいって踏むとどうなるんだろう??
いや、やらないよ? そんなことしないよ?? ただの学術的興味ですってば。
「黄色を残して2枚セット。1枚は西経路、2枚は中央経路に移動。ターン終わり……の前に」
『猫魂さんをどう思うか』だったな。
さーて、なんて言おうかな?
「んー……『友達』?」
「男女間の友情なんてあるんですかー?」
乳母崎さんはどっちの味方なんですか? あー、猫魂さんの味方で、ついでに俺がどう思ってるかをちゃんと知りたいよね?
「あんまり使いたくない言葉ばかり浮かぶんだけど」
「なんだとぉ!?」
『推し』とか『弟子』とか『相棒』とか。
『推し』は相互ではなく一方的なファンに近い感情だからな。
『弟子』はもう通り過ぎている。『相棒』とこの場で言っても少しそぐわない気がする。
「猫魂は俺のドロシーなんだよ」
「ふぇっ!?」「ああ……」「?」「??」
驚いたのは猫魂さん本人で、納得したのは乳母崎さん。理解できていないのはアミとデイヤだ。ちなみにソーマは相変わらずクールに笑っている。
実はお前も分かってないよな?
「猫魂さんが声をかけてくれなければ、俺は森の中で錆び付いたまま動けずに、きっとそのまま朽ち果てていたよ」
「…………読んだ?」
「まだ最後まで読んでないけど」
でも、猫魂さんが俺を『オズの魔法使い』の『案山子』で『ブリキのきこり』で『ライオン』と呼んだ理由はすぐに分かった。
「『案山子』は最初から思慮深く、『ブリキのきこり』は感謝をし、『ライオン』は立ち向かう勇気を持っている。知らぬは本人ばかりなり」
「最後まで読むと、ケーくんが言っていた『がらくた』の必要性も分かるよ」
いや、それももう分かっている。
俺が自分自身を信じられなかったように、三人も信じられなかった。
だから嘘のペテンの『がらくた』でも、ゴミで作られたうそっこの宝物でも、自分を信じるために必要だったのだ。
俺にとっては乳母崎さんからの信頼がそれに近い。他人から見たらガラクタ同然の言葉が、俺にだけは必要だった。
「猫魂さんは俺のドロシーだ。目的に一途で、でも困った人は見捨てられなくて、無力だけど努力して、本当は誰よりもすごい魔法を扱える」
最初に拾った魔法の靴が、ドロシーの最高の魔法というオチは知っていた。『案山子』『ブリキのきこり』『ライオン』はドロシーの保護者の顔をして、その実ドロシーに導いてもらう。
猫魂さんは俺より高い所に飛べる。俺は猫魂さんにすくい上げてもらい、本当に欲しいものを見つけ出した。
「ケーくんはすごいね……」
「この答えには大稲も納得でしょ?」
「全然わからん……つまり、ケイトの事が好きってこと??」
「仲間として敬意を払っている感じ??」
「でもケイトのこと好きだろ?」
まあ、好きだけど。
「あー、大稲のいう好きとは違うというか……」
「ケイトは春の日差しみたいに柔らかで優しくて暖かい。近くにいて好きにならない方がおかしい!」
「それもっと早く言えよ」「そーだそーだ!」「ノロマ。愚図。レジギガス。カタツムリ以下」
飛び交う非難。ちゃんと言えたんだから偉いって言ってやれよぉ。俺は言わんが。
「俺、猫魂さんが大好きだよ」
「やっぱり?」
「でも、異性愛じゃないんだよ。俺からの質問は『ラコさんをどう思うのか、羅睺をどう思っていたのか』」
「…………ズルくね?」
「同一人物説だし」
そしてサービス質問でもある。だってそうだろ?
「大稲がラコさんを『妹みたいで女の子としては意識してません』て答えるなら、俺も猫魂さんをそう思っているって話。
妹では無いけど、恋愛対象ではない。オーケー?」
「…………なんか納得行かねーけど、それは分かる」
俺のターンが終わり。大稲のターン。
「オレのターン! ドロー!! 補充なし。リソースは赤赤紫!
乳母崎は妹分だ! すべて問題なし! 一枚セットして《子育てするトリケラトプス》を表にするぜ!」
「ククク、全員問題があるという顔をしているぞ」
ソーマの指摘に動きが止まる。いや、問題しかねーだろ?
「なんで毎日昼休みに乳母崎さんに会いに行ってたんですかー」
「デイヤの口からその名前がよく出るから、ボクはガールフレンドだと思っていた」
「二人きりになってたんでしょ? デイヤ」
猫魂さんの状況を知るためだったのは知ってるけど、俺はとりあえず煽っておく。
しかし、アミすら不審に思っていたのか。相当だぞ!
「そもそも羅睺の件には触れないのか。目をそらすな。根性なし。彗さんは私のこれを正面から見てくれるぞ」
いや、見惚れてるだけです。
「いや、乳母崎に会いに行ってたのは……その……」
大稲が困ったように猫魂さんをチラ見する。浮気がバレた亭主みたいな顔をするな。
「その、ケイトが……」
「猫魂が構ってくれないと浮気は正当化されるのか……?」
「猫魂先輩、この男……妊娠中に浮気しかねませんよ」
アミはともかく乳母崎さんは大稲の考えていること分かって言ってるの怖いんだけど……?
「しっ」
「ごめんなさい」
「いや、ケイトがどうしてるのか気になって……」
「私にスパイをさせていた訳だ。最低。ゴミカス。臆病者」
乳母崎さんの叩き方がマウントポジションから必殺の打ち下ろし連打なの、怖い。
「でもうっぴー……」
「嘘を教えてましたね。卑怯者に相応しい疑念を。他の女を選んだクセに猫魂先輩を気にする二股野郎に鉄槌を」
「乳母崎……実はそっちが素なのな」
「素直でいいよね」
「…………」
思ったことをすぐにズバズバ言ってくれると助かる。溜めて溜めて爆発されるよりも絶対にいい。
それにただの罵倒は、最後に「でも好き」が付与される脳内変換できるので実質ノーダメージだ。
「調子に乗るな。馬鹿。都合のいい妄想だ。間抜け面。自分勝手」
「でも?」
「す……避けないで!!」
ここは避けていいビンタだと思う。それより問題は大稲だよ。
「羅睺は……どうというか……」
「エロいよね〜、おっぱいもデッッッかい!」
「見てない見てない!」
「ぐぬぬ」「ククク。猫魂、アミまでダメージを受けているぞ」
アミちゃんはともかく、必死に否定する大稲。我慢ならない、俺は立ち上がった。
「ふざけんな! こんなに魅力的で完璧で芸術的なおっぱいは見ない方が失礼ってもんだぞ!!
その上控えめに言って素直で可愛くて美人で格好いい、付け加えるなら……くけっ」
首にスルリと腕が巻き付き、後頭部に件のおっぱいが押し付けられた。何という圧力。息ができない。このまま死んだら天国に行ける。いや、今が天国か?
「ケーくん死なない?」
「まだ生きてます……はい」
「ぐえぇ……げっほ、ごっほ!」
ちょっと首絞めプレイは激しいと思います。
「死ね」
「……でも?」
「死ね」
「ごめんなさい」
ついつい熱くなりすぎた。乳母崎さんとおっぱい。両方の事となると歯止めが利かなくなるな。
「な、何想像してるんですかっ」
「それより大稲の話だろ?」
「え、えっち!
ええー? 男子としては極めて健全な想像なんですけど??
まあ……ここには書けないけどね。




