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妖彼怪異 第2部 其の二  作者: 日戸 暁
眠らせておけ
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其の五 窪む目玉の見つめるもの

それら、【尸頭川ミイラ群】と総称された物の個々の展示名は

【仔馬の頭部のミイラ】

【大きな猫の前足のミイラ】

【猛禽の爪】

【蛇のミイラ】。


鳥の爪もミイラに含まれてるけど、なぜだろう?一緒に見つかったってことかな。



「これらの獣の死体は、D県の祀三水 しざみ山脈から流れる尸頭しかず川の上流域で見つけたものだ」


どこか得意げな根木司氏の解説を聞きながら、僕はちらっと津田さんを見上げた。


津田さんは今は黙って真面目に話を耳を傾けている。


「北の荒野に獣の死体の呪物が封じられていると多釣村で聞いたワタシは、その獣のミイラを探しに行き、こうして手に入れたというわけだ」




え? この人、呪物をわざわざ掘り起こしてきたの?




「これは、バラバラにされた獣の死骸だ。ミイラになっているものは元よりこの部位だけがそのように加工されている」




こんなに色んな種類の動物をバラバラにして殺すなんて、本当に酷いことをする。動物たちが可哀想だ。


そこまでして誰かを呪いたい、害したいなんて気持ち、僕には分からない。




仔馬の頭に目は嵌っておらず、黒く落ち窪んだ眼窩の周囲には傷がたくさん残っている。


「これは、目を抉り取った痕だ。獣を残虐に殺すことでこの死体は獣の怨念によって強い呪力を持ち、相手の当該部位に傷を負わせることができる。獣の種類の数だけ、呪いが行われたのだ」


根木司氏は自信満々に語る。


「……くじだ」と津田さんがふいに呟いた。


「まだ5時7分だけど」


と二木さんが答える。


「違う、違う違ウチガうチガウ」


津田さんは激しく頭を振り、ある呪物に手を伸ばした。


「キミ、さわ……」


触るなと言いかけて、根木司氏がぎくっとしてそれを見た。仔馬の頭部がカタカタ動いている。その口が小刻みに開閉している。


他のお客さんたちが息を呑み、後ずさりする。


「……やれやれ、顎が緩くなったか。空調機の風ごときで揺れるとは」


と根木司氏が、少し気味悪げにミイラをしげしげ見て、そう結論づける。


「そこのソファをお借りします。頭 あたまがあれこれ言っているので対処します」


津田さんは白い手袋を両手に嵌め、展示室の中央に据えられた背もたれのないソファに、鞄から取り出した黒い大きな布を広げた。


「は? お前の狂った頭が何を言ってると?」


根木司氏の暴言を無視して津田さんは、そっと仔馬の頭を持ち上げた。


「こら、勝手に触るなと言っているだろう!」


根木司氏が見咎めて怒声をあげる。


ぼた、ぼた、ぼたた


床に何かが滴った。


仔馬の眼窩と首の断面から血がじわじわと溢れている。流れた赤黒い血がミイラの首の縁に膨れて玉になり、床へと滴る。


ぼた、ぼた、……ぼたぼたぼた


これはミイラだ。


乾ききった遺物から、どうして。なんで。




そして、仔馬の頭が口を開き、


「眠リヲ妨ゲタ」


と確かに喋った。


他のお客さん達が悲鳴をあげ、出入り口の方へ逃げていく。


「君たちも、早く」


津田さんが僕らを促す。


展示室の出入り口に扉はなく、常に開放された作りになっている。


他の来場者が次々と逃げ出すなか


「ここ、壁、壁があるッ」


半狂乱になって泣き叫ぶ声がした。


振り返ると何故かあのカップルが出られなくなっている。


「兄ちゃん、俺も出られないっ」


どうして幸虎くんまで?


僕と二木さんは一旦出た展示室へ戻った。


二木さんが幸虎くんの手を引いて、もう一度、脱出を試みる。


「うっ!?」


二木さんも、そして僕も。


見えない壁にぶつかった。


壁の向こうで、他の人達が、早く逃げろと僕らに叫んでいる。


その声が遠くなる。


僕らの声も、向こうには聞こえないのだろう。


「結界が出来上がっていくのが見えたから、急げといったのだけど。仕方がないね」


津田さんが困ったように言った。


密室となった展示室に血の臭いが満ちていく。


「キミ、悪ふざけは大概にしろ!ミイラに血糊を仕込んだり、」


根木司氏は的はずれなことを言って怒っている。


この人は、呪いも祟りも信じていないのか。だからこそ、ミイラを盗んでこれるのか。そんな罰当たりなことができるのか。


「コレクター。貴方は起こしてはならないものを起こした。これは仔馬ではない。強いて言うなら駱駝の頭。……つまり、駱駝の頭部、蛇の腹部、鷹の爪を具えた虎の手を持つ、龍だ」


津田さんが断言し、


カタカタカタカタ…………


例の頭が、肯くように上下に揺れた。



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