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第1章 運命の女神オリーブと黒猫ヤディエル

古代の運命を司る神々の一員であるオリーブは、ここ、時空の狭間に存在する図書館で一人、黙々と歴史の書物に向き合っていた。彼女の目の前には数多くの巻物が並べられ、ひときわ目を引くのは、世界中の悲劇的な恋愛が記された頁であった。

オリーブは深くため息をつき、指をなぞりながら一枚の古びた羊皮紙をめくった。その紙には、クレオパトラとマルクス・アントニウスの悲劇的な恋物語が綴られていた。彼女の目に浮かぶのは、二人が最後に選んだ死の道の姿。その美しさと力強さに、胸が締め付けられるような思いが込み上げてくる。

「また、こんな結末になってしまうんですね…」

その時、肩の上でくつろいでいた黒猫のヤディエルがふわりと飛び降り、オリーブの前に歩み寄った。彼は、オリーブの思考を遮るように、片耳を立てながら言った。

「そんなにため息をついても、何も変わらないぞ、オリーブ。歴史は悲劇的だというのに、君はそれを無理に変えようとするんだから。」

オリーブは少し顔をしかめながらも、ヤディエルを見つめた。その猫の目は、どこか人間のように鋭く、そして皮肉めいた笑みを浮かべている。

「変えるわよ、私は。だって、悲劇が続くのはもう見たくない。私はこの歴史の中で、クレオパトラとアントニウスを、もっと幸せにしてあげたいの。」

ヤディエルは、またもや軽くため息をついて、オリーブの足元に丸まった。

「君が手を出さなくても、あの二人にはきっと何か運命的な力が働くだろうさ。でも、君のその魔法の不発がかえってうまくいくのか心配だよ。」

「だいじょうぶ、ヤディエル。魔法がうまくいかなくても、なんとかなるわ。」

オリーブは決意に満ちた目をし、再び羊皮紙を手に取った。そして、その歴史の中でクレオパトラとアントニウスが迎える運命を変えるため、彼女の作戦が始まろうとしていた。

オリーブの手は、空気を切るように一振りされた。すると、彼女の周りにあふれる空間がほんの少し歪み、微かな光がその中に満ちていく。それはオリーブが使う魔法、ただしまだ制御が難しく、度々不発に終わることが多い代物だった。

「さぁ、見てなさいよ、ヤディエル。」オリーブは自信満々に言ったが、その声に少しの不安が混じる。彼女の魔法が時に失敗に終わることを、ヤディエルはよく知っていた。

だが、黒猫ヤディエルは黙って見守るだけだった。彼はオリーブが試みるすべての「冒険」に付き合う覚悟があったものの、いつも冷静にその結果を予測していた。だからこそ、魔法がどこまでうまくいくのかをよくわかっている。

オリーブは目を閉じ、手のひらを天に向けてゆっくりと動かし始めた。その動きには、古代の神々から受け継がれた力が宿っている。だが、いつも通り、魔法の力はその通りにはいかなかった。

ふいに、突然、魔法の波動が止まり、オリーブの顔に驚きの表情が浮かんだ。手のひらからあふれた光は、少し揺らぎながら消えていった。

「失敗…。」オリーブは軽く肩を落とす。

「ほらな、言っただろ?」ヤディエルが小さく言ったが、どこか心配そうな表情も見え隠れしていた。

オリーブはその言葉を無視し、再び巻物に目を落とした。失敗したからこそ、諦めるわけにはいかない。彼女は何度でも試す覚悟があった。

「でも、少しだけ変化があったかもしれない…」オリーブは続けた。彼女の目が細められ、巻物に書かれた文字が何度も繰り返し、記憶の中で確かなイメージを生み出し始めているようだった。

「このクレオパトラとアントニウスの物語、私はきっと変えられる。」オリーブは決意を込めて呟き、再度魔法の力を集める準備を始めた。

その時、何かがふと頭をよぎった。心の奥から湧き上がる予感のようなもの。それはただの直感でしかなかったが、オリーブの神経が張り詰めた瞬間だった。

「この二人を救うためには…」彼女は声に出さずに心の中で呟いた。「私一人では足りないのかもしれない。」

その言葉に、ヤディエルは無言で、ただじっと彼女の顔を見守っていた。


第1章 運命の女神オリーブと黒猫ヤディエル 終



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