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神曲  作者: もてぃまー
9/13

序曲第二部

カルテッド

「あれ、誰もいないジャン」

目的の場所に到着した4人はゾロゾロと建物に入り込んでいく。

立方体の形状をした石材の建物は、単調なデザインとは裏腹に巨大だ。

現代のビルディングでいえば7階建て相当はあるだろうか。


彼女らの出立(しゅったつ)と共に、建物へ向け本隊の総攻撃が開始され、現場はたちまち爆音と粉塵が立ち昇る戦場と化した。

伊織は乜の背中におぶられながら、遠目でそれを眺めていた。

小野夢は裏口の有無について調査を進言したが、伊織と乜から、探してる間に戦闘になるリスクよりも、敵が一通り出払った今、正面口から突入する方が楽だと押し切られてしまった(正確には伊織が言い出して、乜が賛同した)

乜は伊織を背負いながらその感触を楽しんでいた。

残る1名は相も変わらず口を閉ざしたまま彼らに追従した。


そして現在、正面口から突入した彼らを迎え撃つ敵は見当たらなかった。

建物はどういった光源を利用しているか不明だが、松明(たいまつ)()もなしに煌々(こうこう)と室内を照らしている。

室内は5階まで吹き抜けとなっており、1階中央には5階まで1直線に伸びる巨大な階段が鎮座(ちんざ)している。


「ふぅん・・・なんか明るいね。この世界って電気ないんでしょ?」

乜の背から降りた伊織は室内を見渡して呟いた。

「でも、本当に誰もいないねぇ・・・普通、ある程度は残すっしょ」

同じく見渡していた小野夢が返事を返す。

「で、どこにいるどいつを張っ倒せばいいんだ?」

「んー、なんか偉い人って一番上にいそうだよねぇー」

「そりゃ確かに。他にアテもないし、とりあえず最上階を目指そう。みんな気を付けてね」

「・・・」


4人は中央階段を上り始める。

「でも彼、置いてきちゃってよかったのかねぇ」

小野夢は少し後ろめたそうに口にした。

「必要ない。腰抜けはいても邪魔になるだけだ」

「まーあー、本人がどうしても嫌だっていうんだし仕方ないよねー」

「・・・」

警戒というほどの警戒もせず、彼らはゾロゾロと階段を上っていく。


2階・・・3階・・・4階・・・

階段を上がるにつれて、下からは見えなかったその先が見えてくる。

「んー?んんー?」

タタっと小走りに先行した伊織がその先をうかがう。

「なにこれ・・・?」

程なくして追いついた3人も同様に周囲を見渡した。

先ほどまで灰色の石材だった壁や天井が、赤黒い謎の建材で作られたフロアになっていた。

「うわなんかキモ・・・」

御影石(みかげいし)かな?床も壁も天井もこれっていうのは、あんまりいいセンスとは言えないねぇ」


調度も装飾もない、だだっ広い空間が1フロアまるまる広がっている。

「凄いね、柱が一本もないのにどうやってこんな広い空間を支えているんだろうね」

「広いな」

「っていうか、上に行く道なくない?」

「そのようなものは必要ない。上に行くことはできない」

「・・・?」

3人の会話に、突如として割り込んだ声。

伊織は一瞬、フードの男が声を発したのかとも思った。だが、声は男のものではなく女のものだった。

それに気付いた瞬間に姿勢を低くし、乜の大きな身体の後ろに入った。

乜は振り向き様に声の主を確認する際、容姿よりも先に、腰に帯刀された3本の刀を視認。

「・・・んだテメェ!!」

咄嗟に力を開放した乜は、振り向く勢いのまま突き出した拳から烈風を放った。

突如発生した豪風は建物の床へ激突し、大きな音を上げながら床を次々と剥がし瓦礫となって飛散する。

だが、

チンッ。という金物同士が軽く衝突する音と同時に風がすべて消え去った。

突如無音となった空間で、彼らは時間がゆっくりと経過していく感覚を覚える。

ゆっくりと。

ゆっくりと。


太い右腕が宙を舞って飛んでいくのを、スローモーションの中で見ていた。


「・・・」

次の瞬間、大きく跳躍したフードの男の脚が空中で燃える。

ゴウッという空気の爆ぜる音で、ゆっくりと経過していた時間が元に戻り始める。

跳躍からの後ろ回し蹴り。

空中でしなやかに動く肢体から放たれた蹴りが、帯刀した少女の顔面目掛けて放たれた。

ガンッ!!と物体同士が強くぶつかり合う重い音がした直後、宙を舞っていた腕がドサッと地に落ちた。


「う、うぉぉぉおお!!」

直近2、3秒で発生した事態が呑み込めずにいた小野夢も、ようやく体が動いた。

両手を前に突き出す姿勢を取ると、床がボコボコと変形して亀裂を生む。

そのまま亀裂は一直線に、蹴りを刀の腹で受けた少女の足元へ伸びていく。


刀に脚がぶつかった状態で小野夢の攻撃を確認したフードの男は、小野夢から放たれた亀裂が自身の足元に到達する直前で、少女の刀を足場に宙返りしながら後方へ飛んだ。

その直後、亀裂からスパイク状に変形した床が少女に向かって伸びる。

少女は後方へステップを踏みながら、体を(よじ)ってその攻撃を回避する。

「そう動くよね」

が、いつの間にか乜の後方から回り込んでいた伊織のナイフが少女を捉える。

走ってきた、というより、滑ってきたようにナイフを繰り出すための体勢を維持しながら、少女の背後を取っていた。

そのまま左わき腹背面、京門と呼ばれる人体急所の1つを突いた。

突かれた少女はそのまま動きを止めた。


「よしっ!」

歓声を上げる小野夢。


「ふー、ヤバかっt

ナイフを引き抜きながら一歩下がる伊織は、

そのまま後ろ足で床を踏んだつもりだったが

後ろ足がいつの間にか無くなっており

バランスを保てずに倒れ


「・・・!」

燃え盛る脚でもって蹴りを入れたフードの男は

後方宙返りをしながら空中で頭部と手足が胴から離れて

四方に向かってすっ飛んでいったため回転を制御できなくなり

頭部は天井に衝突し


「のやろ・・・俺の右腕を・・・!よくm

激高する乜の顔面の上で、

目と

口元の位置で

3等分するようにぴっしりと横線が入り


ドチャッ


3人同時に倒れ伏した。


「・・・え?」

一人無事だった小野夢は、一切現状を受け入れることが出来ず立ち尽くした。

カランカランカランッと、伊織が右手で握っていたナイフがバラバラになって床に落ちる。


「2名絶命を確認」

「・・・てめぇ!!!」

ぼそりと状況を口にした少女に対し、右脚と右手を失った伊織が、即座に左手で2本目のナイフを抜きながら少女の足元に滑り込んだ。

倒れたまま起き上がる間も脚もない状態だったが、動力を得ているような速度で、半身を起こした状態の背面滑りで少女に迫る。

だが

チンッ

という音と共に、突き出した左手も到達寸前で斬り飛ぶ。

「っ・・・!がぁあああああ!」

それでも伊織は止まらない。

口を大きく開き、両手もない、右脚もない状態で床から飛び上がり少女の喉元に嚙みつきかかった。

手足ではなく胴をくねらせることで地面を泳ぐ様は、まるで海中の鮫のような動きだった。


帰る、帰るんだ・・・!

アタシは帰る!!

こんな世界から!!!

ナオヤのところに!!!!

帰って!!!!!

結婚すr

そこで伊織の意識は途絶えた。

頭部を左右真っ二つにされたことで脳を破損しことが原因だった。


びちゃりと伊織の脳髄が足元に飛散した小野夢は、床に尻もちをついた。

「なんだこれは・・・?」

両手で自身の体を抱いていた。

気を抜いた瞬間、自分の体もバラバラになると思った。

「なんで・・・!」

再び走った亀裂が自身の四方を走り、そこから床がせり上がって己を囲う壁となった。

「美奈子・・・小夜・・・」

娘と孫の名を口にした初老の男は、ガクガクと震えながらも四方を囲った壁の中で、子ヤギのように立ち上がる。

懐から小さな石を取り出し、右手で強く握りこんだ。

「どうか、この化け物に、あの子らが出会わないように。このクソッタレな世界に迷い込まないように。どうか」


いつか、娘家族と行ったどっかの神社。

可愛い孫と一緒にその石を洗って、でっかい石に擦り付けて願った。

変な作法だと首を傾げながらも、この子の幸せと安寧を。


「どうか・・・!」

そのまま右手に力を込めていく。サラサラと音を立てて、防壁として持ち上げた四方の赤黒い壁が、

砂へと分解されながら小野夢の周囲を渦巻いていく。


自身を囲んでいた壁が取っ払われて視界が開けると、

眼前には変わらず、3本の刀を帯刀した少女が睥睨(へいげい)していた。

「クソがよ!!何なんだテメェは!!クソが!!!!」

その声は怨嗟(えんさ)恐慌(きょうこう)によるものではない。

勇気を奮い立たせる声、(とき)の声だ。

その間も床も、壁も、天井も、建物全体の建材がハラハラと砂に分解されて、

男の周囲を取り巻く塵の渦の中へ取り込まれていく。


「私が何者なのか、冥途の土産に」

粉塵の嵐が発する雑音の隙間をスッと通してきた少女の声は、凛としていて鋭いものだったが。

改めて聴くと、まだあどけないものだった。孫とそう変わらない年齢なのかもしれない。

「馬鹿野郎が!!!どこのクソだ!こんな・・・こんな!!!!!」

そう考えた瞬間、この少女ではなく、このイカれた世界への怒りが爆発した。

「こんな世界!!!!!!全部消えちまぇぇぇぇ!!!」

膨れ上がった怒気を乗せて、小野夢は両手を突き出した。

大量の砂塵を無理やり圧縮することで発生した電気が、砂嵐にバチバチと白い可視光線を(まと)わせていく。

「吹っ飛べやぁああああ!」

砂塵竜巻(サンドストーム)が少女目掛けて猛進(もうしん)していく。

「教えるようなことはしない。冥土など有りはしない」


少女が抜き放った斬撃が、今度は見えた。

花弁が舞うように美しく、巨木を真っ二つにするような猛々しい一撃だった。

この異常な世界を滅ぼさんと小野夢が放った特大の砂塵竜巻は、

(おの)が孫とそう変わらない歳の少女が放った極大の斬撃と衝突して

一瞬拮抗(きっこう)した後、真っ二つにされた。

そしてその斬撃はそこで止まらず、小野夢を目掛けて迫る。


砂塵竜巻が押し負けたのを視認した瞬間、小野夢は背を向けて

ぽっかり空いて見える空に向かって、握りこんでいた小石を投げ捨てた。


「家族の皆すまん!俺なりに頑張ったんだけどなぁ」

あの一瞬でどこまで発声出来ていたか、もう分からないけれど。

その一撃で小野夢は木っ端微塵(こっぱみじん)になって死んだ。


チンッと納刀した少女は無表情のままフロアを見渡して言った。

「さて、帰るか」

休憩

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