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神曲  作者: もてぃまー
16/16

揚介②

(かしわ)揚介(ようすけ)

17歳

高校生

開始13分

2022年6月6日 千葉 午前11時10分

(かしわ)揚介(ようすけ)はショップ内にいた。


やや薄暗い照明に、天井から吊るされた大型のウーファーからズンズンと重く響くEDMが流れている。

気にせずツカツカと歩く揚介に、壁のポスターを張り替えていた店員が気付いた。

「おっ、来たか。んだよ相変わらず悪霊でも殺してきたような(つら)してんな」

やや不穏な、いつもの挨拶と共にドレッド頭の男が揚介に歩み寄る。


「ああ、殺してきた」

「おぉー怖っ」

げらげら笑う男と仏頂面の男は、いつものやり取りをしながら店内の奥へ連れ歩く。


「で、次は」

「あん?気が早えな先週やったばっかりじゃねぇか」

「100%のパフォーマンスが出せなかった。不完全燃焼だ。

 後からやるべきだった動きも浮かんできて、どんどん納得いかない結果だったと」

「相変わらず、見た目に反して真摯だねぇ」

「俺はコレにだけは真摯であると決めている。他は別にどうでもいい」

「あっそ」

連れない返事をしながら、揚介を残しドレッド頭の男は店の片隅にあるスタッフ用の区画に入っていく。

ごそごそと何かを取り出している間、揚介はウーファーから響く音を聞いていた。


「これ、使ってた奴らいたな」

「あー?なんだってー?」

大音量の店内で声の届かなかったドレッド頭の男が、大きな声で適当な返事をした。

揚介は特に気にするでもなく、棒立ち状態で音を聞いていた。


そんな肉体とは対照的に、脳内では音に合わせて体が激しく動いている。

肩、胸、腹、腰、脚とアイソレーションを移していき、コンビネーションへ。

いつの間にかショーケースを意識したカノンやユニゾンへとイメージが移行したあたりで、

ドレッド頭の男が戻ってきた。


「ほれ」

そう言って揚介は1枚の紙を渡された。

「8月・・・バトルじゃなくてコンテストか」

「不満か?」

「いや。誰に声をかけるかな」

「お前もいい加減、うちのチームに正式加入しろよ」


ガシッと気安げにドレッド頭の男が揚介の方に腕を回す。

「ソロもいいけどよ、やっぱチームの方が熱くなるってもんよ」

「お前のとこアングラバトルばかりだろ」

鬱陶しそうにその腕を払いながら揚介は応じる。


「ったりめぇだろ。俺らは踊りたいところで踊るんだよ違うか?」

「いや。それは違わねぇ」

「ならよ」

揚介は二の句を待たずにパシッと受け取った紙を叩いた。

「クランプに出るようなタマじゃないだろ」

「まぁな。そういうお前こそ何で大会にこだわるんだよ」


片耳に指を入れながらドレッド頭の男は首を傾げた。

「決まってる」

揚介は紙を押し付けるように返しながら言い放った。

「俺を見せるためだ」

「はぁーん、かっこいいこった」

返された紙を丸めて、ポンポンと肩を叩きながらまたも適当な返事を返す。


「つかお前、まだ高校行ってんだろ?そっちは大丈夫なのかよ」

「・・・」

「ダンスもいいけどよ、ちゃんと卒業しないと俺みたいな中卒フリーターになるだけだぞ」

「・・・」

「おーい」

「・・・」


丸めた紙で揚介の頭をポンポンと叩くドレッド頭の男は、にやにやと笑いながら反応を待っている。

「・・・問題ない」

「本当にぃ?」

「・・・」

「よ・う・す・け・くーん?」

「・・・っせぇな、問題ねぇよ」

揚介はポンポンと頭を叩く紙をさっとよけながら小声で「たぶん」と呟いたが

ズンズンと鳴り響くEDMの音に隠すように、誰にも聞こえないよう本音を漏らした。


「ったくよぉ、先輩の助言はありがたく頂戴しとけ~?」

だんだんこの絡みが鬱陶しくなってきた揚介は、話題を切り替える。

「なぁ」

「あんだよ」

「さっきエレベーターに変なのがいたんだけど、お前見たことあるか?」

「腰の曲がったジジイと腰の曲がったババアと、腰の曲がってないジジイとババアとお前くらいしか見たことねぇよ」

「そうかよ」

「変なのってどんなのよ」

「いや何でもない。この店がうるせぇと文句の一つも言いに来たやつだったんだろ」

「誰も来やしねぇよ。前に一度、あれ二度・・・三度・・・四度?

 管理会社のスーツの奴が来たけど、ちょっとビビらせてから来なくなったしな」

そう言いながら太腿(ふともも)のような太さに筋肥大(きんひだい)した二の腕を見せびらかす。


「そうかよ」

同じ言葉を繰り返しながら、揚介は店の外に向かって歩き出す。

「帰んのか?ちょっと踊ってけよ。奥にヒコとタイチいるぞ」

「いや・・・」

「んだよ連れねぇなぁ」

「・・・」

「あーあ、皆お前が来たけど、さっさと帰ったって聞いたら文句言うだろうな~」

「・・・」


ジロりとドレッド頭の男を揚介は睨む。

「んだよ」

「補習」

その一言を最後に、揚介はショップを後にした。


チン、と音がしてエレベーターが到着して乗り込む。

中には誰もいない。

1Fのボタンを押して、扉が閉まる。


「・・・」

昇降機が音を立てながら、階を下がっていくエレベーター。

「・・・」

順調に上から下へ、ぼんやりと光るボタンパネル裏のランプが点灯位置を下げていく。

「おい」

それに応答する存在は、金属の箱の中にいない。


誰もいないエレベーターの中で、揚介はやおら口を開いた。

「俺以外の前には出てくるな。いいな」

それに応答する存在は、金属の箱の中にいない。


チン、と音がして扉が開くと。

青果の青臭さと鮮魚の生臭さが先に鼻腔(びくう)へ到達し、続いて視界に先程通り抜けたスーパーの光景が映し出される。


目深(まぶか)にフードを被った男は、ツカツカとやや大股にスーパーを横断して出口へ向かう。

それを見て再び(いぶか)しむ老婆に気付くこともなく、

ガタガタとスムーズに開閉しなくなった自動ドアをくぐって、うだるような暑さの屋外へ出ていく。


以降、このビルは老朽化で解体される3年後まで事故・事件はただ1件を除いて発生していない。




過去42年間でこのビルへ向かうと言い残した行方不明者は30名を超える。




その後の唯一の事件は、エレベーターで発生したものではない。

(かしわ)揚介(ようすけ)

17歳

高校生

開始31分

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