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神曲  作者: もてぃまー
14/16

淳也①

加治 淳也

20歳

大学生

会場未到着

2022年8月22日 神奈川 午後23時16分

加治 淳也(かじ じゅんや)は机に向かっていた。


ゼミの友人と共同研究をしている課題について、必要な情報の収集を行っている最中である。


カタカタカタと断続的なタイピングの音、次々と移り変わるディスプレイ。

「・・・」


スッスッスッとパッドの上をスライドするマウス、ディスプレイの明滅する光を反射する眼鏡のレンズ。

「・・・」


ふっ、と少しだけ開けてある窓から夜風が吹き込むが、ささやかな力でガラス戸を揺らすこともせず。ただ夜特有のにおいが、わずかに淳也の鼻孔をくすぐる。

「・・・うん」


ディスプレイから目を離すと、先刻風呂上りに淹れて、少しぬるくなったコーヒーで唇を濡らす。

続いて片手で両目を覆い、瞼を閉じて休める。

ここまで進めた作業の振り返りと、これから着手する作業の予定を脳内で組み立てていく。


ふと、共同研究相手のことを思い浮かべた。あいつはちゃんと課題を進めているのだろうか。

この分だと、全力で進めて進捗が順調だったとしても完成は期日ギリギリだと予想される。

自身は勉学以外に日常生活のほとんどを割いていないが、あいつは違う。

友人とも交流するし、アルバイトにも励んでいる。趣味にも(いそ)しんでいることだろう。

作業の分担はほぼ同等なので、自身がこの調子だとあいつは間に合わない気がする。

大学は夏季休暇中だが、週3日から4日ほど課題対応のためにゼミの各メンバーは登校している。

「次会ったら確認するか」


そう結論付けると、覆っていた手を下して再びディスプレイに向かい合った。

その時。

コンコンッと、部屋の扉がノックされた。

立ち上がり扉を開くと、その向こうには父が立っていた。

「どうかされましたか。父様(とうさま)


神経質そうな表情をした細身の中年男性は、淳也の目を見ながら口を開いた。

「明日、鈴木と共に客先へ出向く。お前も同行しろ」

「はい、承知しました。いつ頃のご予定でしょうか」

「10時に出る。玄関まで車が来るので、準備をしておくように」

「承知しました。先方は?」

一文字(いちもんじ)だ。新製品の販売状況と販路、生産状況を現地確認する。必ず3つ以上の問いを投げかける準備をしておくように」

「製造機械メーカーですね。質問については、普段通りなので承知しております」

「そうか。では」

そう残して、親子としてはあまりにも業務的な会話を一方的に切り上げて、父親は去っていた。


「・・・」

再び椅子の上に戻った淳也の表情は動かない。いつものことだからだ。

ちらりと画面(はし)の時刻に目をやり、現時刻を確認する。

そろそろ就寝時間だ。


だが今の会話で、明日の課題進捗に数時間の遅れが出ることが確定した。

今週は普段よりも1時間ずつ就寝時刻を遅らせて、穴埋めをする必要がある。


ディスプレイ上では様々な背景のサイトページが開閉のたびに7色の光を明滅させ、キーボードを叩く度、マウスを動かす度にファイルが、文字が、画像が画面の上に出現し、移動していく。

「・・・」

カチリとクリックの音が1度鳴り、淳也はディスプレイを見ながら動きを止める。

視界内では「procceting(処理中)...」の文字と、進捗を表す簡易的なインタフェースが表示されている。

白い画面の光を反射する眼鏡の奥で、細めた片目がピクリと動く。


表示されたメッセージは「caution(警告)」。

程なくして表示された文言は、淳也があらかじめ計算しておいた結果とは異なっていた。


「・・・」

スッスッスッとパッドの上でマウスをスライドさせ、カチカチと幾度かのクリック音が鳴る。


「・・・」

順次処理結果表示(ステップイン)を眺めながらカタカタとキーボードを叩く。

マウスを動かす度にファイルが、キーボードを叩く度に文字が画面の上に出現・消失していく。


それなりに時間が経過した後、再びカチリとクリックの音が1度鳴り、淳也はディスプレイを見ながら動きを止める。

視界内では「procceting(処理中)...」の文字と、進捗を表す簡易的なインタフェースが表示されている。


「よし」

そう呟くと、白い画面の光を反射する眼鏡の奥で、細めていた目が閉じられた。


作業結果を簡単に整理した淳也は伸びをしてから一息あけて、椅子から立ち上がる。

「・・・」

室内扉を開き、隣室である寝室へ移動しながら部屋着を脱ぐ。

綺麗にメイキングされたベッドの上に置かれた、畳まれた寝間着を見ながら寝室に入っていく。


バタリと閉じられた部屋は窓が少し開いたまま部屋の明かりが消されて無人となったが、ディスプレイは光ったままだった。

その画面には「procceting(処理中)...」の文字が出たまま、簡単なインタフェースが孤独にその進捗を進めていた。


淳也が隣室で寝静まってから暫くして、孤独な進捗を完了させたコンピュータがケーブルを通してディスプレイに結果を吐き出した。

そこに、1枚の画像が出力されていた。


どこともわからない町の、入り口のような場所で

首のない肢体が5人分、転がっている画像が。

加治 淳也

20歳

大学生

開園前日

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