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神曲  作者: もてぃまー
11/16

陰板

幕はまだ開いていない

「やぁ、君と会うなんて何年ぶりだろうね」

虚ろな声がした繁華街の裏路地。


夜中も3時を回っているが、眠らない街から人影は消えない。

ガヤガヤと声のする酒場。酔っ払いが喚く声。どこからともなく聞こえる大声。


街が無意識作りだした死角の中で。

これの周囲にだけは音が届かない。届くのは風のみ。

「・・・ああ。元気そうじゃないか」

「僕は元気だけが取り得だからねぇ」


おちゃらけた物言いで、こちらに近づいてくる赤い影。

音もなく。動きもなく。

段差に腰かけたまま、それを眺めていた。

「・・・それで、今回はなんだ」

「ふふ・・・相変わらず連れないねぇ。でもそうだなぁ・・・勧誘。ってところかな?」

「・・・まだ追っているのか」

「・・・」

分厚い無言が、風のノイズをかき分ける。


人間離れし過ぎている。久しく再会した感想がそれだった。

「・・・あの日、俺たちは決定的に敗北した。あれを止める、手立てもなく、逃走したことを、忘れたか」

「・・・」

それでも影は口を開かない。口角だけを僅かに上げて曖昧な存在が、曖昧な笑みを浮かべている。


「・・・貴様も俺も、あの時ほどの力はもう、ない」

「・・・」

「・・・にも(かかわ)らず、挑むのか」

「・・・」

「・・・何か、手立てでも、見つけたか」

「・・・」

赤いサングラスの奥の瞳は見えない。この存在の真意が見えない。


「・・・」

他に語る言葉はなしと、今度は自身も黙った。


会話が途切れてどの程度経過しただろうか。

音も風もない空間では、時間の間隔がよくわからなくなる。

だが、やがて影は口を開いた。

「あるさ」


そういいながら、わざとらしいオーバーアクションで両手を広げた。

どうやら機嫌がいいらしい。

「・・・どうした。黙っていたかと思えば、随分と、ご機嫌じゃないか」

「うん?そうだね。うふふ。今回、いや次回か。次回の参加者は大分面白い演者になりそうなんだ」

「・・・つい最近、代替わりしたばかりだと、記憶していたんだが」

「うん。でも、もう殆どが舞台を降りちゃった」

「・・・そうか」


煙草に火をつける。

立ち昇る煙は一切揺らぐことなく、天へ昇っていく。

それを眺めながら切り出した。

「・・・それで、すでに接触は、したのか」

「いーや、まだだよ。まだその時じゃない」

「・・・そうか」


タール比率の重たい煙草の煙を、肺いっぱいに吸い込む。

これの真意をぼんやりと考えながら、そして細く煙を吐き出す。

「それ、まだ吸ってたんだね」

「・・・ああ。廃版になる前に、大量に、買い込んだ」

「そうか。ふふ、一本おくれよ」


懐から煙草を1本取り出し、放った。

影はそれを器用に唇で受け止めて、吸い、煙を吐き出した。

どのタイミングで火をつけたかは見ていなかった。


「・・・現状では、まだ、何とも言えんな。今回次回と言っていた、ということは、まだ次代は、全員集まって、いないのだろう?」

「うん。でも予感がある。次の演奏は上手くいく予感がさ」

「・・・前回会った時も、そのセリフを、言っていたぞ」

「あー、いやね。あの時は最初の一人が凄く良くてさ。でもそのあとに集まった演者がダメダメだったよ。完全にワンマンチームって感じ?」

「・・・その最初の一人は、どうなった」

「まだ演奏してるよ。一人で、懸命にさ。泣けるね」


自身が吸っていた煙草を投げ捨て、口を開いた。

「・・・そうか。残りの連中と、その者が合流して、暫く様子をみて考える」

「うふふ・・・まぁそう言うだろうと踏んでたけどさ。まぁいいや」


そういうと、影はゆらりと揺らいで、口にしていた煙草が消えた。

「・・・追って連絡する。では」

それだけ伝えて、その場から立ち去った。


両者が吐き出した煙の余韻だけが残る空間の中で。

「・・・うふふ。あの時ほどの力はもうないだって?」

影は自前の煙草を新たに吸いながら呟いた。


視界を地面に落とせば。

大きな赤黒い球体が複数転がっていた。


ところどころ歪で

かつては指や髪、内臓だったと(おぼ)しき部位が見える。


「相変わらず、化け物じみているじゃないか」

幕が開き始めた

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