7:アルカの選択
アルカは神託宣誓することを決めた。
現実問題として『自身の安全確保』はもちろん重要だが、王族としての権を今さら得たところで、何の意味も利もない。というのが彼の意見だった。
「王族となって傀儡として生きるくらいなら、多少なりとも己の意思と意志が反映されるであろう寺院での暮らしを、選びたいと思います」
周囲への憤りは隠せていなかったが、そう言いきる彼の瞳に迷いはなかった。昨晩はずいぶんと遅くまで、ファートと話し込んでいたようだ。何かしら、心境に変化があったのかもしれない。
アトリージュは彼の意を聞き、うなずいた。
「わかりました。では、そのように事を進めます。立ち合いはユタ殿にお願いするということでよろしいですか?」
「はい。もちろんです。ただ、一つお願いがあります」
「なんでしょう?」
「神託宣誓の儀に、アシュレイ殿とファートも同席をお願いできないでしょうか?」
「それは……」
アトリージュは戸惑い、アシュレイとファートは顔を見合わせた。どういうことだろう。
「お願いいたします。聴けば今のユタ殿ですが、ご身分はそのままで、ルンファーリアの国政からは離れていらっしゃるとか。その点をかの一派に突かれてしまうと、神託宣誓自体が効力を失う可能性もあります」
「アルカ殿! 失礼ですよ!」
アトリージュが顔色を変えたが、ユタはさもありなんとうなずいた。
「いや、アトリ。彼の言うとおりだよ。この役を引き受けることはやぶさかでないけれど、その点については私も心配しているんだ。後から物言いがつく方が、絶対に面倒くさい」
「それは、そうかもしれませんが……」
「たしか、ファートもルンファーリアの神殿に在籍していたのですよね? それにアシュレイ殿も、ムルトの地で組織の長をされていたとか。アトリージュ叔母さま。彼らにも同席していただけると、心強いと思うのです」
アルカはそう言い、はっきりと己の意見を述べた。アトリは困ったようにユタたちへ視線を移してくる。
「そうだね。ファートは正式に洗礼を受けた神官ではないけれど、第一神官と同格の条件を持っている。アシュレイもムルトで同盟の長をはっていたわけだし。そこを押せば、なんとかなるんじゃない? 偉い人達の『前例がございません』攻撃には、そもそも前例無いことをやろうとしてるんだから、今さらでしょ。縮小して儀を進めるぶん立会人を増やして、とかなんとか……護衛と兼任でもいい。私たちならハーフェンの権力争いとは、ひとまず切り離されているもの」
「なるほど。護衛と兼任。……それは妙案ですね」
「でも、アルカ殿の望みの『本当のところ』は、そこじゃないんじゃない?」
「ええ。そうですね」
アルカの主張はもっともだが、それが後付けの理由だろうことは知れた。ファートの存在は、彼にとってそれだけ大きくなったのだろう。それはそれで、喜ばしいことだ。
なにより、ユタの『元』ルンファーリア第一神官という肩書きだけでは少々不安だったのも事実だ。神託宣誓をより確実なものにできるのであれば、そのほうがいい。
「あとは二人の意志だね。どう思う? アシュレイ、ファート」
ユタがうかがうと、二人はうなずいた。
「僕は出たい。アルカのこと、近くで見届けたい」
「まあ、護衛兼任ってことなら引き受けるよ」
「アシュレイ。素直じゃない!」
「ええぇ? そこかよ」
「そうだよ!」
いつものじゃれ合いを始めた二人にため息をつき、ユタはアトリージュを見た。
「どう? アトリ」
「大丈夫です。なんとかしてみせます」
アトリージュは甥っ子の肩に手を置き、力強くうなずいたのだった。




