寝言の真相
「んっ……だ、ダメだってそんなトコ」
なまめかしい嬌声に、俺はスマホから目を離して首を90度左に曲げた。
コキャッ、と、北斗神拳継承者にひねられたみたいな音が頚椎からほとばしる。大丈夫、音だけだ。
俺の視線の先には、居眠りしている市塚の姿。……完全に爆睡してるよな。寝言?
「らめ……そこめくっちゃらめだって……」
身をよじりつつ、市塚は声を上げる。ハレンチな夢見てやがる。
こちとら対戦者を求めてボドゲ部室に来たのに、机に突っ伏して寝てるこいつしかいないから、しょうがなくスマホでアプリ版ポケカ(ポストアポカリプス・ケイオスデュエル・カードゲーム)やってたのに。
「あかん……それはあかんて。かんにん、かんにんしてや」
「エセ関西弁であえぐな!」
……あ。ついツッコミを入れてしまった。
「んあ……ケイチじゃん。もうそんな時間?」
「おまえはいったい何時から寝てやがった?」
「五時限目サボっただけ」
「堂々と言うな!」
市塚は立ち上がって「ほわ〜〜」とあくびしながら伸びをする。
「ところでおまえ、どんな夢見てたんだよ?」
俺が訊ねると、市塚はしぱしぱ目をしばたたかせる。ボドゲ部所属というところからお察しいただけるように、こいつはオサレ系女子ではない。でもまつげは長かった。
「寝言聞こえた?」
「ああ。バッチシ」
いじわるな感じで言ってやったのに、市塚は恥ずかしげもなくうなずく。
「そっか。いやね、ちょうど夢の中でもケイチがさ」
「お……俺かよっ!? な、なんにもしてないぞ。起こしちゃ悪いかと思って、ずっとスマホポケカやってたからな!!」
まさかこいつ……俺にやらしいことされる夢であんな声を……?!
市塚は小首をかしげた。
「うちが夢でケイチとしてたんは、対戦だって」
「なんだ、俺に斥候使われて伏せカードめくられたのか? それとも監察官で手札開示?」
だから「そこめくっちゃらめぇ」だったのか、と、ちょっと拍子抜けしながらも納得した俺だったが、市塚は首を左右に振った。
「オセロだよ」
「オセロかよっ!?」
「というわけで、オセロやろう」
戸棚からオセロ盤を取り出して、市塚はにやりと口の端で笑う。
「べつにいいけど。ポケカも付き合えよ」
「これ終わったらね」
夢の中だけじゃなく、現実でもヒィヒィ言わせてやるぜ……と石を(実をいえばオセロの白黒のあれは碁と同じく「石」という)並べはじめた俺だったが……。
「あかん……そこひっくり返すのはやめてくれ……」