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第一部

どうもお久しぶりです!蒼榛あおはるです!

少し前に読み切りとして書き始めてみたはいいものの、途中で挫折してしまった作品です。

このままどこにも載せずにいるのはちょっともったいないなと思い投稿します。

要望等あれば、もしかしたら続きを書くかも……??

つたない文章ですが、ぜひ読んでいってくださいまし。

この国……いや、この世界は腐っている。

そう呟く俺に、彼女は言った。歌で世界を変える。変えて見せると。




-レクイエム- 




「今日はどこにいくー?」


健気な顔で私に声をかける少女は、自分と目が合うとニコッと笑った。


「そうだな……今日はもう、次の街へと出かけよう」

「いいけど、それってどこにあるのかな?」

「わからない。わからないからこそ楽しいものだろ?」


 そう、俺たちの旅に目的地などない。放浪者といってもいい。


「じゃあ、この街からもお別れだねー」

「ああ、だからお別れの歌を歌おう」


 彼女は、歌い始める。それを横で見守るのが俺の役目だ。

 そして歌い終わると、そそくさと逃げるようにここを出ていく。


「えへへ……、楽しいね」

「……ああ」


 俺たちはここに留まっていてはいけない。歌を歌ってしまったのだから。


 こうやって、街に来て歌っては逃げ、また次の町で歌っては逃げを繰り返してもう何日経っただろう。数えるのもバカらしくて全く覚えていない。回数などは関係ないのだ。彼女が歌うこと。それに意味がある。


「次の街でも私の歌ちゃんと聞いてくれるかな?」

「大丈夫。君の歌声は人を惹きつけるから」


彼女の目を真っ直ぐに見つめてそう言うと、彼女は軽く顔を逸らす。


「……ありがと」


 少し照れてる彼女の横顔は何よりも美しかった。


 俺たちがこんなことをしている理由。それは単純で、明快で、簡単なことだ。


「取り戻すんだ。この世界から歌を」




 それは、あまりにも突然だった。


『これからは、人前での歌唱、その一切を禁ずる』


 突然の国からの要請。元々、自分の住むところは歌うことがあまりいい行為と見なされていなかった。「音楽に声を合わせるのは、恥じるべき行為でやるべきではない」という主張がまかり通っているのである。だからこうなってしまったのも頷けはする。……だが、自分はそれがどうしても許せなかった。


 なぜなら、彼女の歌がもう聞けなくなるのだから。

 

 彼女と出会ったのは一年前くらいだろうか。彼女は、歌うのが大好きだった。それでよく怒られていたのを今でも覚えている。

 

 彼女の歌は綺麗だ。透き通った声でそれでいて滑らかで、聞いていて幸せな気分になれる。いつしか彼女の歌を聞くのが日課になっていた。そんな時に、こんな……。


「ララ!」

 

俺は彼女の名前を叫ぶ。彼女は泣いていた。


「もう歌えないの……?」


彼女を抱きしめる、その小さな体から湧き上げる絶望をかき消そうと。


……どれだけの間、そうしていたのだろうか。ふと、彼女は言った。


「ねえ、旅に出ない?」

「……いいよ、君と一緒なら」

「そして、歌って歌って歌いまくってやるの」

「……ああ」

「そしてそして、私の歌で世界を変えるの!」

「ああ、君の歌ならきっと出来るよ」

「そしてそしてそして……!!」


 そこまで言うと、また大声で泣き出してしまう。俺は、小さく呟いた。


「こんな世界に救いはあるのだろうか」


 それから、俺たちは逃げるように街を出た。目的地などない旅はここから始まった。





 逃げ込むように入ったその街は、さっきまで住んでいた街と比べるととても静かなところだった。

 

 時間も遅くなっていたので、宿を探す。

 それは思ったよりも直ぐに見つかった。街自体が小さいのもあるが、自分たちがいたところから大きく目立つ看板が見えたことが幸いだった。


「部屋の種類はどのようにいたしますか?」

「ダブルで!」

「いや、ツインでお願いします」


 その時の彼女の不満顔がとてもかわいらしかった。



 次の日の朝、目を開けると目の前に彼女の顔があった。どうやら、自分の上に覆いかぶさるように座っているようだ。


「ねぇ、今日は何をするの?」


 夜這いならぬ、朝這いとでも言っておこうか。街で泣いていたのが嘘のように今の彼女は明るい。


「そうだな……まずは街の様子でも見に行こう」


 行動を起こすためには、まずはこの街について知っておく必要がある。むやみに人に訴えかけたところで、なんの成果も得られない。状況を理解し適切な行動を取ることが大切だ。


「何難しそうな顔してるの?」

「いや、何でもない。準備をするからそこをどいてくれないか」

「……はーい」


 渋々という感じではあったが、直ぐに降りてくれたのはよかった。


 それから、その街を探索していった。そして、街の人たちに色々話を聞いてわかったことが3つほどある。

それは、

1.この街は酒場が名所となっていること

2.特産の酒が有名であること

3.国の介入は少ないこと

である。


 そして、これらの情報を聞いて、まずやるべきことは一つしかない。それは


「いらっしゃいませー!」


 その名所に行ってみることだ。


「ご注文はいかがなさいますか?」

「そうだな、とりあえずこのウイスキーの水割で」

「かしこまりました!」

 

なぜそれを頼むのかというと、それがその店で一番ポピュラーだと聞いたからである。


「お待たせしましたー」


軽く口を付けてみる。ふむ、俺には少々濃いか。

周りを見渡すと、ドンシャン騒いでいる奴らもいるといえばいるが、店の迷惑にはならない程度だ。それよりも気になるものが一つある。


「あれはなんだ……?」


 店の真ん中の一番奥にある、少しだけ高くなっている場所がある。それはまるで


「ステージですね。あれは」


 近くにいた店員が答える。


「何か演奏でもするんですか?」

「うーん、昔はよくやってたんですが、最近はやってないですね」


 最近やってないというのは、つまり


「先日出された国の要請の影響ですか?」

「まあ、それもあるけど……。元々そんなにちゃんと聞いてる人なんていなかったからなぁ」

「その言い方だと、歌う人もいたって認識いいですよね」


 それを聞いて、一瞬店員は顔をしかめたが直ぐに営業スマイルに戻って、


「そうですね、そういう人もいましたね」


 ……やることは決まったな


「ララ」

「はい、何でしょう?」


 水をすするように飲んでいた彼女が小動物のような動きで顔を上げた。


「ここで歌うぞ」

「はい!……え?」

「てことで、ホテルに一旦戻ろう」

「え、うん、わかったけど。本当にここで歌うの?ってちょっと待って」


 俺は、ホテルに戻って大きなケースに手をかける。開くとそこにはアコースティックギターが入ってる。彼女の歌に合わせるために買ったものだ。


「……ねえ、本当に歌うの?」

「ああ、あの酒場にあったステージの上でな」


 その後の返事がない。どうしたものかと振り返ると、不安そうな顔をした彼女がいた。


「それはちょっと難しいかも」

「なんでだ?」

「だって、周り知らない人ばかりだし。それに、受け入れられるかわからないし」

 

 ここで、「大丈夫だ。君の歌なら」と言いかけたが、その言葉を飲み込んで


「そうもそうだな。じゃあ、何度か通ってからもう一度考えよう」


 と声をかける。すると、彼女の表情が和らいだ。


「うん!」


 そして、次の日もまたその次の日もその酒場に行ったのだが、直ぐにお金は絶えてしまう。どうしようかと悩んでいたところ、ここで働かないかと誘われて、流れるように店員となった。



 一か月ほど経った。


「ビーフステーキ出来たぞー」

「はい!持っていきますね!」


 ララはウェイトレスとして、人気を博すようになってもう立派な店員さんだ。俺は、厨房の方で先輩方から教わりながらなんとかやってる。


「はい、こちらビーフステーキになります!」

「お、ありがとね。お嬢ちゃん、いつも元気いっぱいでこっちも元気になってくるよ」

「ありがとうございます!では、次の注文があるのでお暇しますね」


こういう風に、客のあしらいにもだいぶ慣れた。そして、最近始めたのが、


「では、19時となりましたので、今からララさんによる歌唱を行います」


そう、歌のステージだ。


俺も厨房から出てきて、ステージに元々置いてあったギターを手に取り座る。


ギターを軽く鳴らしてから、彼女に目で合図を送る。


「♪~」


 彼女の歌がこの酒場に響き渡る。一番最初にやった時は、皆それなりに戸惑いが見えたが、今となっては皆ノリノリで聞いてる。合いの手までしてくれる人もいる。そもそもここは、あまり型にはまった人がいない。こういう常識から離れたことをしても、いやしたほうが受け入れられるような、そんなところだ。


「いやー今日も最高だったよ!」


 店を閉めた後に、店長にそう声をかけられる。


「ありがとうございます」

「で、はい。これが今日の給料とチップ代ね」


 自分たちのステージには、良かれと思った人がお金を払ってくれるチップ制を導入しており、ステージの脇にある箱、または店員さんに直接お金を渡すことで、このように俺たちの手元にお金が入ってくる仕組みとなっている。


「君たちのおかげで客足も増えてるし、これからもよろしく頼むよ」


 そう言うと、肩を叩いて店へと戻っていく。手元の渡されたお金を見てみると、10日は遊んで暮らせるんじゃないかというくらいの量があった。いつもより若干多めだ。どうやら、今日のステージは受けが良かったようである。


 このままこの生活を続けていけば、一生お金に困ることはないだろう。そう思ったが、


「警察だ!ここで歌を歌っている奴がいると聞いたが本当か!?」


現実、そんなにうまくいくわけがなかった。



 結局、俺たちがここで働けたのは三か月ほど。どこから嗅ぎ付けたか知らんが突然現れた警官どもから、俺たちは逃げるようにその店を出ていった。


「これは、俺たちのほんの気持ちだ!受け取ってくれ!!」


裏口からこっそりと出た俺たちに、沢山の札束が渡された。


「本当に最後の最後までありがとうございます。……お世話になりました」


 俺は、深々と頭を下げた。


……これが、俺たちが最初に訪れた街でのお話。


 それから俺たちは、いろんな街を巡った。


 サーカスをやってる街、星空がきれいな小さな村、漁業で成り立っている港町。

 そこには、多くの出会いと別れがあった。

 ただ、それももう終わった話。俺たちに過去を振り返る余裕なんてない。


「ねえ、次はどんな出会いが待っているのかな?」

 

 少し急ぎ足で建物が見える方向へと歩いている傍ら、ララは楽しそうにそう問う。


「さあな、それが警察とか帝都の連中じゃなきゃいいんだがな」


 色々なところを廻っている間に、元々いた帝都へと近づいてきていることをなんとなく察していた。もしかしたら、次の町には既に警察の手が回っているかもしれない。


「もー、そんなネガティブなことばっか考えてないで、ポジティブにいきましょ」

「あー、わかったわかった。さーて、次はどんな楽しみが待っているのかなー」


 棒読みで適当なことを言ってみる。それでも笑顔でこっちを見てくるのは、天然なのかそれともわざとなのか。

読んでいただきありがとうございます。

感想等あれば書いていってください~。

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