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0.入学式前の不安と緊張と


学園生活編スタートです。






 王立学園。

 王都の中心部から少し離れた場所にあり、領地の経営や、国の歴史などをより詳しく学ぶための教育機関。

 社交の小さな縮図のようなところで、本格的に貴族入りを果たす前に、自分の家柄と自分の立ち位置を学び、把握するのも目的の一つだ。

 学園は全寮制で、十六歳になる貴族の令嬢、令息、王族が二年間通うことになっている。


 

 そんな学園寮の一室。

 学園指定の真新しい制服に身を包み、何度も立ち鏡の前で身だしなみをチェックしている少女が一人。


 少女の胸元には、学園の紋章が刺繍された真っ赤なリボンが。

 少女がブルブルと震えると、共鳴するかのようにリボンも小刻みに揺れる。


 学園の入学式を一時間前に控えた、グレイシア王国第二王子の婚約者、フィーネ・クロシェットは不安と緊張、恐怖からガクガクと震えていた。


 フィーネが寮に入るに渡り、フィーネの身の回りの世話をするために一緒にやってきた、フィーネの侍女ロナは、そんな主人を見て、少しでも落ち着くようにと紅茶の用意をしながら、フィーネに問いかけた。


「フィーネ様。シエラ様とお話して前向きになったのでは無かったのですか?」


 フィーネお気に入りの薔薇のデザインが施されたティーセットをテキパキと用意しながら、ロナは考える。

 

 学園入学式の二週間前。フィーネは母であるシエラに背中を押され、前向きになっていた。

 フィーネの美しい赤とピンクが入り交じったような瞳は、やる気や期待に溢れていたのだから。

 シエラと話をして戻ってきたフィーネは、確かに頑張ろうと意気込んでいた。

 ロナはこの目でしっかりとその姿を見ている。

 しかし、そのフィーネは一体どこへ行ったのやら。

 今のフィーネは、入学式に怖気付きガクガクと震えているようにしか見えない。


 少しでも落ち着けるようにと、フィーネの大好きなストロベリーティーを用意し、ソファに備え付けられているテーブルの上へとティーセットを置く。

  

 鏡から目を離し、真っ青な顔をしながらフィーネは、後ろでティーセットを用意してくれたロナの方を向いた。

 

「それはアルベルト様の婚約者のお話で、学園生活のことではないわ。」


 アルベルトとの婚約の話で頭がいっぱいだったフィーネはシエラに言われるまで、学園のことをすっかり忘れていたのである。


 母に言われてからというもの、寮生活の準備で忙しく、ある意味学園生活のことは考えていなかった。否。考える時間がなかった。


 しかし、入学式を直前に控えた現在。

 貴族の準備期間のようなものとはいえ、勉強はついていけるか、友人はできるか、他の貴族と上手くやっていけるか、など言いようのない不安が込み上げる。


 フィーネは、ティーセットの用意がされているソファにそっと腰を下ろす。 

 不安と緊張でカラカラになってしまった口を潤すために、ロナに入れてもらった紅茶を一口飲んだ。

 紅茶からは甘いいちごの香りがする。

 ロナがフィーネのために大好きな紅茶を入れてくれたことは明々白々。

 しかし、緊張のせいか味が全くしなかった。


  

 ティーカップを両手で持ち、紅茶を一口飲んでから固まってしまったフィーネを見て、ロナの眉間にシワが寄る。


 さてどうしたものか。緊張を通り越してガクガクと恐怖に打ち震えている主人の不安をどう和らげ差し上げようかと、ロナは頭を捻る。

 

 しかし、今までの経験上こうなってしまったフィーネの緊張を解くのは至難の業。

 こうなるとフィーネは、入学式が終わるまで安心は出来ず、ずっと緊張していることだろう。

 それでもロナは、少しでもフィーネの緊張を和らげたくて、フィーネの座っているソファにソッと近寄り膝を着いた。


「フィーネ様。手を出してくださいませんか?」


 美しい所作でティーカップを豪華なテーブルの上に置くと、フィーネはロナに左手を差し出した。

 

「手を握ってもよろしいですか?」

「もちろんよ。ロナだったら構わないわ。」


 眉を下げて、引き攣った笑みを浮かべるフィーネの不安や緊張が少しでも和らぐように、ロナは両手で祈るようにフィーネのほんのり冷たい手をぎゅっと握る。


「フィーネ様。初めての学園生活。そして、家族と離れて暮らす初めての寮生活。知り合いも少なく、不安はたくさんあると思います。

 ですが、フィーネ様なら大丈夫です。

 私は、フィーネ様が幼少の頃よりお傍におります。ずっとフィーネ様のことを見てきました。なので、分かるのです。

 フィーネ様はとても、とっても優しいお方だと私は知っております。今まで、たくさん努力をしてきた方だと知っております。

 その優しさが、その努力が、必ず報われると私は信じております。」

「ロナ……。」

「なので、自信をお持ち下さい。胸をお張り下さい。

 私の使えるお姫様は、真っ直ぐでかっこいい方なのですから。」

「ありがとう。ロナ。」


 やんわりとロナの手を解き、フィーネは飛び込むようにしてロナの首に腕を回し抱きついた。


「まだ、緊張はするけれど……。それでも、貴女が誇れる主人であれるように、頑張るわ。」


 そう微笑んだフィーネの瞳には、緊張の色は浮かんでいたが、不安の色は消えていた。

 ロナからゆっくりと離れて、フィーネが立ち上がる。

 先程までは、足がガクガクと震えていたのに、その震えすら消えている。

 釣られるようにロナも立ち上がると、もう大丈夫だと言うように、顔を見合わせてにっこりと微笑んだ。


 丈夫で肌触りがよく、オシャレな学園指定のカバンをロナはフィーネに渡す。


 散々、チェックしていたが念の為、もう一度忘れ物がないか念入りに確認する。

 一通り確認したあと、フィーネはカバンを両手で丁寧に持った。


「ロナ。行ってきます!」

「行ってらっしゃいませ。フィーネ様のお帰りをお待ちしております。」


 それを合図にフィーネは寮から一歩足を踏み出すのだった。




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