9話 お菓子な村々
今回の目的地、ザフト連邦についての解説をスカフ王子から受けるアラファ。
「果物ごとの集団……つまりリンゴ町、ミカン町、ブドウ町みたいなのが集まって国として成り立っているってことですか?」
「町ってほどの規模感は無くて村だけど、その理解で構わないよ」
「それって……村同士はどんな関係なんですか?」
転生前の日本の常識も、ハルカネン王国で生きてきた常識も通用しなさそうな世界。
でも無理やり想像するなら……『これは私の村の名産のリンゴです』『いやはやありがたい、お返しのミカンですぞ』みたいな感じで田舎の農家同士みたいな和気藹々とした付き合いが……。
「もちろんそれぞれの村が覇権を巡って争ってバチバチさ」
起こってないようだ。
「争いって……はあもう仲良くすれば良いのに」
「ザフト連邦、としてのまとまりは他の大国に対応するために仕方なく作られたハリボテなのさ。彼らの連帯感は村までで精一杯。本質的には他の村は敵……とまでは行かなくても他人ってわけだ」
にべもないスカフ王子の言葉。
「…………」
日本という国家の中でも争っていた戦国時代みたいな感じってことかしら?
だとしてもアラファの感想は仲良くすれば良いのに、だった。
せっかく色んな果物が存在するのにそれ同士で争ってたらもったいないじゃない。
「今回僕たちはザフト連邦の全ての村から人が集まる年に一度の『精霊祭』。その国外ゲストとして呼ばれたってわけさ。そこでアラファが作ったアップルパイを披露することで……」
「ことで?」
「…………連邦の人たちに喜んでもらおうってわけさ」
「そういうことだったの、祭りが盛り上がるかどうか……責任重大ね」
ふんす、拳を握って意気込むアラファ。
「…………」
しかし、スカフ王子の目にはただただアラファが呑気であるとしか映らなかった。
喜んでもらう? 自分で言っといてなんだがそんな甘くふわふわした目論見はない。
アップルパイ、リンゴ村の名産を使ったお菓子。
この暴力的なおいしさでザフト連邦の勢力争いに終止符を打つ。一口食べれば他の村も分かるだろう、その力、生み出すものの大きさに。
そうしてリンゴ村に他の村を恭順させて一つにまとまったザフト連邦と改めて国交を結ぶ。リンゴ村の長とは既に話は付けてある。その暁には魔女の捜索にも協力してくれるだろう。
これが第一歩だ。あの女を見つけて……必ず殺す。
「…………」
そんな二人の様子を黙って見つめる護衛のマギニス。
「祭りって……なんだあまり堅苦しくないのね」
「まあ裏では事務官同士が細々とした国同士のやりとりや交渉をするみたいだけど、僕たちが出る幕では無いね」
「それで私のアップルパイはいつどこで振る舞われるんですか?」
「明日の昼食会の時だね。各村の代表や国外ゲストの僕が集まって話し合いをする場でね」
「結構重要なところじゃない?」
3時のおやつとかでは無いようだ。
「アラファのお菓子なら大丈夫さ。それに君の仕事はそれで終わり。つまり明後日の『精霊祭』では自由に遊べるってわけだ」
「……それもそっか。うおぉぉぉ! 祭りだ!!」
アラファのテンションが上がる。
それから数時間ほど馬車に揺られて一行は目的地に着いた。
『精霊祭』が行われるザフト連邦の中心地。精霊により気まぐれな気候の中比較的普通で安定している地域。
まず目を引くのが王城ほどでは無いが巨大なホテル。アラファたちはここで寝泊まりをするし、明日の昼食会もここのパーティー会場で行われる。
その奥には広大な広場があった。中央には精霊を模した巨大な像。周囲にはいつもは何も無さそうだが、祭りを目前にして出店やらを特設するために多くの人が行き来して活気付いている。
そんな祭りを目前として盛り上がっている場所に。
「ようやく……辿り着いたのね……」
「長旅ご苦労様」
朝から馬車に揺られ続けたアラファは疲れた様子で降り立つのだった。