86話 空間
最終回まで残り3話!!
『妄執の魔女』ゼラフが発動した精霊魔法によって夜闇に包まれる大陸全土会議の会場、パラク宮殿。
「どうやら内外の空間が闇によって断絶……この宮殿内に閉じ込められたようですね」
「ここまでの規模の事象を起こすか。流石は精霊魔法」
ソルト帝とオグネー将軍が現状を分析する。
そんな中アラファはというと。
「スカフ王子を助けないと……」
ゼラフに連れ去られたスカフ王子の身を案じていた。
今の私には共和国の雷の精霊と水の精霊が力を貸してくれている。闇の精霊の膨大な力を関知したからか、水と雷の精霊が対抗策を脳裏に授けてくれた。
水の盾で防御する魔法、雷の剣で攻撃する魔法、そして二つの精霊の力を融合させた奥義となる魔法。それ以外にも戦うための魔法の使い方が手に取るように分かる。
これならゼラフにも遅れを取らないだろう。
「………………」
だとしても、私は…………。
「アラファ先輩!!」
そのとき後輩のノーナが名前を呼びながら近寄ってきた。
「ノーナ!? あなたどうしてここに!?」
お菓子配りをしていた廃墟に置いてきたはずの後輩の姿を見て驚く。
「あの場はロチュさんに任せて先輩の後を追ってきたんです。そして神殿に入った直後に……何かすごいことになってて」
「状況を説明するわ」
ノーナに一連の騒動を説明する。
「そんなことが……」
「そう。だからスカフ王子を助けに行かないと」
「……どこに行くつもりだ?」
護衛のマギニスが話に加わってくる。
「マギニスさん」
「あの闇夜が一層深まった際に誘拐されていたとは……護衛として不覚」
「大丈夫です、私が連れ帰ってきますから」
「……そうだな。今のステンス殿には精霊が力を貸している、それだけの力はあるか。しかし、その結婚式がどこで行われるのか分かるのか? こうも暗いと探索も難航するし宮殿もかなり広いぞ?」
「え、あー……それは……」
意気込んでいたアラファの出鼻を挫く質問。
「……えっと、それならノーナに一つ心当たりがあるんですけど」
ノーナがおずおずと手を挙げて発言した。
その後、アラファは一つ準備をすませてから三人で宮殿の中庭にやってきた。
「妄執の魔女、ゼラフは聞くところロマンチストです。結婚式をするなら、スカフ王子と初めて出会った場所、この中庭を選ぶと思ったんですが……」
「あの中かしら?」
中庭にやってきた三人が見つけたのは中空に浮かぶ空間の裂け目。中からは濃い闇が渦巻いている。
「そうだろうが……この力の奔流。触れただけで身体がズタズタになりそうだな」
「ど、どうすれば……」
「ええと……これをこうして……よし、これなら入れそうね!」
アラファは精霊魔法を発動。身体が膜のような物に包まれてその身が守られる。これなら裂け目の中にも入って行けそうだ。
「その魔法、私にもかけることは可能か?」
「うーん、一人が限界みたい」
「……そうか。すまない。どうかスカフ王子……いや、あの馬鹿を助けてくれ」
「もちろんです!」
「アラファ先輩、どうかご無事で!!」
二人に見送られながら、アラファは一人その空間の裂け目へと進んでいくのだった。
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ゼラフに連れられた子供状態のスカフ王子。
『さあて結婚式となるとちゃんとお召し替えしないとねぇ。いい子にして待っておくんだよ』
ゼラフはどこかへ去って行く。
そうしてスカフは闇しかない空間に一人取り残された。
「…………」
ここはどこだろうか?
周囲を見回すが、一寸先すら見えない完璧な闇。おそらく精霊魔法によって作られた空間だろう。
呪いによる急激な魔力使用による不具合も治まってきた。どうにかここから抜け出す方法を考えようとして。
「暗い…………怖いよ……」
自然とそのような言葉が自分の口から漏れていることに気付いた。
呪いで幼くなった身体に精神が引っ張られているか……。
スカフはそう自分を分析するが、分かっていても抑えようがない。
夜、闇、恐怖……ゼラフはどこまで行った、もうそろそろ帰ってこないのか…………誰もいない、このまま朽ち果てるのか…………。
思考がどんどん落ちていく。
完全な闇、時間感覚も曖昧となる。
どうしようもなく押し潰されそうになったそのとき。
「ここにいたんですね、スカフ王子」
声が響いた。
最初は幻覚だと思った。……否、幻覚の続きだと思った。
既にいっぱいいっぱいだった精神はその苦痛を和らげるためか色んなパターンの幻覚を幼いスカフに見せていた。
だから目の前の光景も、アラファが自分を助けに来たことも新たな幻覚だと判断した。
「…………」
幻覚に返事をする馬鹿はいない。スカフはそのまま黙ってやりすごそうとして。
「あれ、聞こえてないかしら? 助けに来たんですけど!」
ずいぶんと長く、粘る幻覚のようだ。
「……どっか行け」
しっしっと手で追い払う仕草を取る。
「ど、どういうこと……? ……あ、もしかして呪いの影響かしら。それにしても反抗期の子供みたいね」
ニヤニヤと笑う幻覚が本物のアラファのようで。
「うるさいっ!! どうせおまえも助けてくれないんだろう!!」
この暗闇から抜け出したか……と思ったら幻覚だった。そんなのもう何回も見ている。
「……幻覚でも見てるのかしら。良くない状況ね」
幻覚に幻覚の心配をされる。
「…………」
「私はスカフ王子、あなたを助けに来たの」
「……どうしてそんなことをする。僕が知っているアラファはお菓子のことしか頭にないぞ。ここにはお菓子が無い」
「私、そんなにお菓子馬鹿だと思われてるのかしら……?」
「それに……僕なんか助けてもらう価値も無い……」
「……そんなことないですよ」
「どうして?」
「先に助けられたのは私の方だからです。理不尽な仕事に押し潰されそうになっていた私を、ただのメイドでしかなかった私を先に助けたのはスカフ王子じゃないですか」
「…………」
「自分に価値が無いなんて悲しいこと言わないでください。王子、あなたは自分が思っている以上に、大切に思ってくれてる人がたくさんいますよ」
「…………」
「…………」
二人とも押し黙る。しばらく静寂が続いて、それを破ったのはアラファの方だった。
「ああもうごちゃごちゃ面倒ですね。ほら、さっさと帰りますよ!!」
「お、おいっ、何をする!?」
アラファは王子の身体をひょいと抱き上げる。子供状態、衰弱している王子はそれに抗う力を持たない。
「最初からこうしておけば良かったですね」
「実態がある……本当にアラファなのか!?」
「逆に何だと思ってたんですか?」
「ああもう、離せ! 自分で歩ける!!」
「はい、よーしよし。暴れないでねー」
腕の中で暴れ始めたスカフ王子を子供のようにあやすアラファ。
「私のスカフに何をしているんだい?」
そこに現れたのは豪華なドレスに着飾った皺くちゃの老婆というアンバランスな様子のゼラフ。
その怒気を孕んだ低いしわがれ声に、アラファはスカフをその場に下ろした後。
「こんばんは、お婆さん」
アラファの返した挨拶はどこまでも平坦で込められた感情を察することが出来なかった。
明日も投稿します。




