85話 夜
会議会場『審判の間』に現れた『妄執の魔女』ゼラフ。
「殺人犯のお出ましですか。しかし、これは……何やら異常な雰囲気の持ち主ですね」
ソルト帝が警戒度を上げる。
「っ……どうしてナップを殺したんだ!!」
ソップ大統領が怯みながらも臆せずにゼラフに問う。
「そんなの舞踏会でスカフを一番良い席から見るためにちょうど良かったからぞ」
「そ、それだけの理由で……?」
「うーん……しかし噂とは違う様子だねえ。大統領と夫人の仲は冷え切っているという話だったけれど」
「確かにあいつには怒りや恨みを募らせたこともあった。しかし、実際死んでいいわけ無かろう!」
「あらあら意外と妻思いなのねえ。分かるわ、分かるわ。私も夫、スカフ思いなの。だから……妄想だと分かっていてもあんな映像を見せた人は心底憎んでいるわ」
「「ひぃっ!?」」
ソップ大統領と側近のオトゼが震え上がる。会議で『水の御鏡』でスカフとナップ夫人が愛人だったという設定の捏造映像のことを言っているのだろう。
「もちろんお嬢ちゃん……アラファとか言ったかしら、あなたも同罪よ」
「わ、私!?」
急に名指しされて驚くアラファ。
「私のスカフと仲睦まじく踊ったりして……惚れていないなんて言ってたけど嘘だったのね」
「いや、それはもう、本当仕方なくで!!」
舞踏会に出ないといけなかったスカフに頼まれてのことなのにとばっちりが過ぎると全力で否定するアラファ。
「彼女は関係ないだろう。ゼラフ、どうして姿を現したんだ」
アラファを背に庇うようにしながら、問いかけるスカフ王子。
巻き込んだ自負があるため下手にヘイトが向かないようにと思っての行動だったのだが。
「どうしてそのクソ女を庇うのよ……! やっぱり予定を早めて正解だったわねぇ!!」
それがゼラフの神経を逆撫でする。
「予定……?」
「もちろん私とスカフの結婚式のことよ!! もうちょっと待ってからと思ってたけどもう待てないわ!! 私とスカフが出会って記念すべきこの場所で!! 二人の仲を世の中に知らしめて!! おじゃま虫が沸かないようにしないと……!!」
「っ…………」
叫びながら宣言するゼラフ。その狂気の様子にその場にいた全員が気圧される中。
「ようやく姿を現したか、クソババア」
ゼラフの背後から斬りかかったのは……会議でも特に目立った様子の無かった、北のプーナ神国、シエモス教のスルザ従騎士。
「ああ、あんたたちもいたねえ。おじゃま虫二号」
ゼラフはさっと避けて面倒そうに吐き捨てる。
「……面識があるのか?」
護衛のマギニスが問いかける。
「もちろんだ。ずっとこのクソババアを追っていた。我らがシエモス様――闇の精霊を奪っていったこの罪人を……!!」
「闇の精霊が……シエモス教の神……?」
とんでもない情報だったがそれを消化する前に。
「ああもう、私たちの結婚式に参列者はいらないの。愛を誓う場、二人がいれば十分よ。そのための準備もこの会議期間の間にしてきた。
だから……『世界を夜闇に染め上げて……!!』」
ゼラフが莫大な魔力を解放すると同時に視界が薄暗くなった。時刻はまだ昼なのに、光が失われ深夜のようになった。
「っ、何だ!?」
「これは魔法……!?」
「いや、この規模は精霊魔法だ……!!」
辺りがパニックに包まれる中。
「さあ、行くわよ、スカフ」
いつの間にかスカフ王子の目前まで迫ったゼラフがその手を差し伸べる。
「誰がおまえなんかと……ぐっ!?」
スカフがその手を払いのけようとしたそのとき胸が痛み始めた。
胸に刻まれた呪印が作り出された夜に反応してその呪い、時間遡行の魔法を発動させ子供へと姿を変えていく。
そのため抵抗出来ずにその手がゼラフに握られてしまう。
「スカフ王子……!!」
「アラ……ファ……」
近くにいたアラファだけがその様子を見ることが出来た。
助けるために駆け寄ろうとした次の瞬間。
一層濃い闇にゼラフとスカフ王子は包まれて――その場から姿を消した。




