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82話 弾劾の雷霆


 何も言い返せないスカフにますます犯人では無いかという雰囲気が強まる中。




「一ついいだろうか」


 帝国のオグネー将軍が挙手して発言する。


「何用でしょうか、帝国の将軍様は」

「今の映像をもう一度見ることは出来るだろうか? 少し気になることがある」

「映像を? ……まあいいでしょう。衝撃的なものでしたからね、一回じゃ把握出来てない方もいるでしょう」


 オトゼが上機嫌で応じると、ソップ大統領も頷いて鏡がまたも寝室を映し出す。




(ずっと黙っていた帝国がここで動いた……? 一体どういうつもりで……)


 スカフは疑問に思いながらも、二度目となる自身の凶行をもう一度見ることとなる。




 映像を見終えて。


「……なるほどな」

「それで気になったところというのは?」

「いや勘違いだったようだ。手間をかけさせてすまない」

「は……?」


 オグネー将軍はあっさりと発言を終えた。




(何をしたかったんだ……? ただいたずらに時間を消費しただけじゃないか? ……よく分からないけどおかげで僕も落ち着くことが出来た)


 オグネー将軍の行動の意味は分からないが、その時間と改めて映像を見たことでスカフも腹をくくることが出来た。


「僕は犯人じゃない!!」

「ですが今の真実の映像を見たでしょう?」

「何が真実だ!! あんなのデタラメだ!!」


 スカフは毅然と主張するが、会場の反応は冷ややかなもので良くない。


「……そうだ、どういうつもりだ!」


 マギニスも同調するがその勢いが微妙に弱い。頭ではスカフが殺したわけないと思っているが、どうにも映像が引っかかっているようだ。




(……まあ、仕方ないのかもしれないね。みんな今まで王子である僕が殺人なんてするわけないと思っていた。でもあんなに真に迫った映像を見せられてはスカフ王子という人は本当にあんなことをするのかという人間性の話になる。

 自分だって自分の価値を信じられないんだ。みんなが僕を信じられなくても仕方が無い)


 ただ。


(アラファ。もし君がこの場にいたらどう言ったのかな。会場の雰囲気をもろともとせずに『スカフ王子が人を殺すなんてありえません!!』って大声で味方してくれたり…………なんてのは都合の良い妄想かな)






「認めないか。……ならばこちらを使うしか無いようだな」


 ソップ大統領が腕を振ると背後に浮かんでいた巨大な鏡が消える。


「雷の精霊魔法『弾劾の雷霆』

 悪をなしたものに降る雷の裁き。一体これが誰に落ちるかで判断しようではないか」


「もう一つの精霊魔法……」


 スカフはソップ大統領の考えを読み解く。


(強引に来たな……こいつらのやり口はよく分かった。

 実際に悪人かどうかの判別を付けて雷が落ちる効果があるのかは知らないけど、そんなの関係無く僕に雷を落とすつもりなんだろう。

 そして『悪人に雷は落ちました』でめでたしめでたしで終わらせる)


 分かってもどうしようもない。雷など避けようが無い。


(僕もここまでか……)


 項垂れてその時を待つスカフ。




「審判よ下れ!! 『弾劾の雷霆』!!」




 そしてソップ大統領が精霊魔法を発動して――――――。




 5秒……10秒……15秒経過。

 会場中が固唾を飲んで見守る中、何も起きなかった。


「…………?」


 顔を上げて周囲を見回すスカフ王子。

 ソップ大統領はスカフに対して腕を振り下ろした姿勢のまま固まっている。

 一体何が……?






「ど、どうしましたか、旦那様!?」


 後はただ雷をスカフ王子に落とすだけ、と目論んでいた側近のオトゼが戸惑いながら声をかける。


「……何をしておる!! 衛兵たちよ!! ナップを殺害した犯人は分かった!! そこのスカフ王子を捕らえよ!!」


 対してソップ大統領はその言葉に答えず、何やら慌てた様子で会場を警備している衛兵たちにそのように命令をした。


 明らかに変なことが起きている。

 それでも確かに悪人を捕らえるのは自分たちの仕事だ。

 そのように判断した衛兵たちがスカフ王子に詰め寄った――そのとき。




「テレビも無い世界で捏造映像はちょっと強すぎませんか? 一瞬信じましたよ」


 颯爽と駆け寄り衛兵たちを一瞬で蹴散らしたのは――帝国の仮面を付けた護衛だった。




「なっ!?」

「……どういうつもりかな?」


 驚くソップ大統領と真意を問うスカフ王子。


「ただ王国に恩を売っておきたいだけです。清算はまたいずれお願いします」


 護衛はそのように言うが……無茶だと思った。

 相手は共和国のトップ。精霊魔法という強大な力と先ほどの衛兵を呼び寄せたように地の利を完全に活かせる。

 味方してくれるのはありがたいが……いや、そもそもどうして味方する? 僕が犯人じゃ無いと思っているのか? テレビだとか、捏造映像だとかよく分からないことを言っていたが……。




「何故、邪魔をする!! ええい、どこの誰か知らんが出しゃばりおって!! ここは大陸全土会議!! 国のトップ同士のやりとりの場だぞ!! 将軍よ、自分のところの護衛を収めて――」

「国のトップ。なら私……いや、余には資格があるな」


 激昂するソップ大統領に対して、その護衛は仮面を取りその正体を明かす。


「っ!? その顔は……ポーディニア帝国のソルト帝か!?」

「以前顔を合わせたことがあったな。話が早い」


 ソルト帝の素顔を知る者は少ないが、ソップ大統領はその内の一人だった。




「全く、派手に正体を表して。私は知らんぞ」

 オグネー将軍は小声で悪態を吐く。




「護衛に扮して……この会議に参加しておったのか!?」

「ああ。色々と知見を得られて有意義だった」

「相変わらず得体が知れないが…………それより一体どういうつもりだ、その殺人犯をかばうつもりなのか!?」


「王子が殺人犯? あの映像が真実だとしたら……寝室が荒らされて物が盗まれていたのはどう説明する? 映像では特にそんな様子は無かったが、実際に部屋は荒れていた。あの後そなたらのどちらかが荒らしたのか?」


「そ、それは……」

「全くもって拙い策謀だ。……まあ色々と想定外が重なったのだろうが」


「うるさい、うるさい!! この問題は共和国と王国の問題だ!! お主に口を挟む資格は無い!!」

「だったら力で余を排除すればいい……しかし、出来ないのだろう。分かっておるぞ」

「……っ」


 ソルト帝は見透かしたように宣言する。




「ソップ大統領。そなたは今現在――精霊魔法を使うことが出来ないのだろう?」




 精霊魔法。

 共和国の民の支持を受けた者に与えられる力にして、大統領たる拠り所だ。


(もし本当にそうならさっきの不可解な行動にも納得が行く。『弾劾の雷霆』を発動しようとして使えなかったから衛兵に僕を捕らえるように命令したのだろう。

 でもさっき水の精霊魔法『水の御鏡』を使うことが出来ていたのに……この短い時間で使えなくなるなんてことあるのか? そしてどうしてソルト帝はそのことを知っている?)


 スカフは疑問に思う。ソルト帝には何が見えているのか?




「……一体、何をした?」

「余は何も。ただ知っているだけだが……そんなに気になるなら説明しよう」


 歯ぎしりしながら問いかけるソップ大統領に涼しい顔で返すソルト帝。






 目まぐるしく変わる状況から会場の主導権を握ったソルト帝。皆の注目が集まる中、少々もったいぶった後に口を開く。


「そろそろ疲れたので元の口調に戻りますね。さて、事態の説明をするためには前提の共有が必要です。精霊魔法、それと密接にくっついている共和国の大統領の制度について。

 精霊により共和国の住人から一番支持を受けている者にその力が与えられるこの仕組み。

 結論から言うと精霊魔法が使えなくなった理由は、現在ソップ大統領の支持率が一番じゃなくなったからなのです」


「そ、そんなことあるはずが……!」

「ではそれ以外に理由が考えられますか? 精霊魔法は精霊から魔力を借りられるので魔力切れも無いはずです」

「うぐっ……」

「問題はどうしてソップ大統領が一位から落ちたのか、ですが……分かる人いますでしょうか?」


 ソルト帝は会場に呼びかけると、意外にもオブザーバー席から発言があった。




「はい、はーい。帝国がソップ大統領の支持者を殺しまくったから☆ とか?」

「……中々物騒な意見ですね。グズモ党の秘書、サミーさんでしたか」

「あーしも考えたことがあったからね。流石に大変だから断念したけど、帝国なら出来るんじゃ無いのー?」

「サミー……そんなこと考えとったんか」


 自分の秘書の発言に党首のゲンツが若干引いている。


「リアルタイムで内心まで把握している精霊ですからそれも一つの有効な方法ですが、今回帝国は何もしていません。

 そもそもソップ大統領の支持率が落ちた場合、次に一番になるのはあなたの隣、野党の党首であるゲンツさんが精霊魔法を使えるようになってないとおかしいはずですが」

「そうやな、ワイは特に何も変わった様子はあらへん。……ってことはつまり」

「ええ。ソップ大統領の支持率が下がったのでは無く……その支持率を上回る者が現れたのです」




「私の支持を越えただと? そんなことあるはずがない!」


 ソップ大統領が反発する。


「いや、あったからこうなっているんですが……そもそもソップ大統領あなたはどれほどの人数に支持されていたのですか?」

「それは富裕層を中心にたくさんの……」

「本当にそんな大人数に支持されていたのでしょうか? 口でこそ支持していると言っても内心では馬鹿にしている。そんなことがあっても分からないのでは? 何せ選挙と違って票数は出ないですからね」

「それは……」


 ソップ大統領には思い当たるフシがあるようだ。




「もしソップ大統領がそんなに支持されてないんやったら、どうしてワイはそれを上回れなかったんや?」

「それ以上にあなたが支持されていなかったんでしょう。ただただソップ大統領が憎いだとか甘い汁が吸えそうで協力していた人が多かったのでは」

「うーん……言われるとぐうの音も出えへんな」


 ゲンツが己を反省する。




「つまり支持数は実態よりもそう多くなかったため……今日一日だけでも簡単に上回ることが出来たというわけです」

「ええい、私でもそこの若造でもないというのなら、一体誰が支持を集めたっていうんだ!!」


「……はあ。先ほどから思考放棄で叫んでばかり。そのような愚鈍な人物でも支持さえ集めれば力を与えるという精霊の杓子定規さもやはり考え物ですね。

 まあしかしそのおかげとも言えるでしょうか。支持さえ集めれば例え――共和国外の人物でも精霊の力が与えられるのですから」


「国外……!?」


「事件に夢中だった皆さんは知らないでしょうが、現在ここから少し離れた郊外で興味深い動きが起こっているという情報を聞きましてね。狙ってやったことではないでしょうが……いや、狙ってないからこそこうなったのでしょう」


 ソップ大統領のその言葉と同時に、会場『審判の間』の扉がバン! と勢いよく開かれた。

 そして駆け込んできたのは――。




「スカフ王子! 大丈夫ですか!?」


「アラファ……!? どうしてここに!?」




 アラファがスカフに心配の言葉をかけながら近づいてくる。




「良いタイミングでの登場ありがとうございます。

 貧困層からの圧倒的支持を集めて即位した――アラファ・ステンス共和国新大統領殿」


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