表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/88

81話 水の御鏡


 精霊魔法『水の御鏡』

 その鏡に映る死体発見現場の寝室に現れたのは殺害されたナップ夫人と――。


 スカフ王子だった。




「やっと会えたね、ハニー」

「…………」


 二人は当然のようにベッドに隣り合って座りながら、スカフ王子はナップ夫人の腰に手を回している。仲睦まじく、そして慣れた様子だ。


「どうしてそんなむすっとした表情なんだい? 怒ってるのかな? 久しぶりに会えたんだし愛しの君の笑顔を僕に見せてくれないかな」

「……怒って当然でしょう。あの女は誰ですの?」

「あの女?」

「今日の舞踏会で一緒に踊っていた女ですわ!!」

「……ああ、アラファか。彼女とは遊びの関係さ。もちろん本命はナップ、君に決まっているだろう」


 スカフはナップの顎に手をクイと当てて顔を近づけようとするが――パシン、とその手を払いのけられてしまう。


「私知ってるんですのよ!! あなたが他にもたくさんの女に手を出しているって!!」

「そんなはずが…………って、あーあ。もうそれは確信してる感じか」


 スカフは柔和な笑みを止めて、つまらなそうに呟く。


「私は共和国大統領夫人という立場を捨てて、あなたが王国の王子という立場を捨てて、一緒に駆け落ちしようと言ってくれたのは嘘だったんですの!?」

「そんなの嘘に決まってるだろう? おばさん相手に本気になるわけない。大統領夫人という立場だたから近づいただけさ」

「そんな……」


 うなだれるナップに対して、スカフは立ち上がって去ろうとする。


「話はそれだけかい? それなら僕は行くよ」

「……そんなの……そんなの認められるわけありませんわ!! だったらあなたを殺して、私も死にますわ!!」


 ナップ夫人は隠し持っていた刃物を取り出すとスカフにそのまま突撃して。


「全く……後始末が面倒なんだけどな」


 対して、スカフは『光魔法』を発動。光を収束させた剣が手に現れ、ナップ夫人の胸元を一刺しで返り討ちにする。




 その場に倒れるナップ夫人。

 ちょうどそのとき部屋の外でガチャっと扉の開く音が鳴った。誰かが帰ってきたのだろう。


「っ……これは逃げるしか無いか!」


 スカフ王子は慌てた様子で窓から逃げる。その際に持っていた剣が窓に当たりガラスを割ってしまう。




 そうしてスカフが逃げた後で。


「奥方、何やら大きな音が――今逃げていったのは……?」

「ナップ!? どうしたんだ、ナップ!?」


 側近のオトゼとソップ大統領が寝室に入ってきて、スカフ王子の後ろ姿とナップ夫人の亡骸を目撃した。






 その様子まで映すと鏡の表面が波立ち元の鏡面へと戻っていく。






 一連の映像を見て。


「何だ……これは……?」


 スカフは言葉を失っていた。


 それもそのはず。

 今しがた再現された光景に全くもって心当たりが無かったからだ。


(確かに映されたのは僕の姿、僕の声だった。勝手知ったる自分が全然身に覚えの無いことをしていた。

 昨夜は自室でずっと寝ていたんだ。あんなこと実際には起きていない。

 大体あり得ないだろう。僕がナップ夫人と恋仲? アラファとは遊びの関係? あんなに冷静に人を殺す? どれも僕らしくない言動だ。

 極めつけにはそもそも夜は呪いのせいで子供になっているのに、映像では大人のままだった。

 今の光景が真実な訳がない。全く……こんなのを見せてどういうつもりなんだ、ソップ大統領は……)


 ようやく落ち着いてきたスカフが目の当たりにしたのは。




「今のって……」

「スカフ王子、信じてたのに……」

「まさか……本当で……」


 自分に猜疑の目を向けてくる人たちだった。


「………………は?」


 スカフは先ほど以上に愕然とする。


(みんな……どうしてそんな目を僕に向けるんだ? ………………まさか今の映像を信じたというのか?)








「今の映像で分かりましたね? 犯人が鍵のかかってたはずの部屋に入れたのは被害者の奥方に招いてもらったから。割ったガラスが部屋の中に残っていなかったのは、外からではなく中から割ったから。全部説明が付きましたねえ」


 側近のオトゼは堂々とのたまいながら内心でほくそ笑む。


(どうやら王子は戸惑っているようですね。ですがそれも無理ないでしょう。旦那様の精霊魔法『水の御鏡』。その力は真実を映すことも可能ですが……任意に想像したことを映すことも可能なのです。

 あなたの言い訳を全部潰す犯行シーンを捏造させてもらいました)


(本当のことを言うと奥方がどのように殺されたのか私も知りません。旦那様から『犯罪をでっちあげてスカフ王子になすりつける』と指示されたから部屋を荒らして何か盗まれたような現場を作っておいたのに、旦那様の方で奥方を殺していたのですから。

 想定外なことででっち上げも拙いものになってしまいましたがどうにか修正も出来ました)


(あなたは真実を言っているのでしょう。私が虚構を主張しているのも理解しています。

 しかし言葉だけのぺらっぺらな真実と映像という実感の伴った虚構。

 果たして皆さんはどちらの方を信じますかねえ)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ