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80話 皇帝の洞察/精霊魔法


 アラファのお菓子配りが盛り上がっている同じ頃、大陸全土会議もヒートアップしていた。






「妻、ナップを殺したのは貴様ではないのか!?」

「僕がそんなことするわけないだろう!!」


 議論の中心にいるのは共和国のソップ大統領と王国のスカフ王子。思わず声を荒げるソップ大統領に対して、どこまでも冷静に返すスカフ王子。

 裏事情を知らなければ、妻を殺された被害者とその容疑者という構図に見えるだろう。




(それくらいソップ大統領の演技が上手いということですが。濡れ衣を着せている立場であそこまで真に迫る感情を出せるとは思いませんでしたね)


 ソルト帝はその様子をオグネー将軍の横に立ちながら眺めている。


(数々の証拠、直接話して分かった人柄、そして動機が無いこと。この件帝国は第三者の立場ですが、それでもスカフ王子が殺人をしていないのは明らか。

 それでも犯人だと言い続ければどうにかなると……流石にこの世界の司法もそこまでザルではありませんね)


 ソルト帝にとってこの世界は異世界。もっと人権や法などが進んだ世界を知っている。


(まあただ共和国の選挙システムは違いが大きすぎて比べられませんね。精霊によりその地に住む人間をリアルタイムで支持する人間を判別して、一番多く集めたものに莫大な力を授ける。

 投票という動作がいらず、投票率は100%、リアルタイムで結果を反映とは魔法で無ければなしえないでしょう。

 ただその結果選ばれたのが汚職も厭わない現大統領ということを考えると……選ばれる人間に制限は付けた方がいいと思いますが。まあ精霊もそこまで細かいところは判断出来ないのでしょうか………………ってそう考えてる場合じゃ無いですね)


 思考が脇道に逸れてることを自覚して軌道を修正する。




(状況を引っくり返せるとしたらその大統領たる理由、権能者。精霊の力を行使するのでしょう。スカフ王子に罪を擦り付けるという結果から逆算するとどのようなことが起きるかある程度絞れますが……。

 その場合帝国は……いや、私はどのように動くべきでしょうか?

 アラファ・ステンス。

 同じ世界出身の彼女をどうにか帝国に招くために王国に恩を売るべきか。それとも見過ごして王子が落ちぶれて、行く宛の無くなった彼女を拾うべきか)




「報告です」


 ソルト帝が考えていると、連絡員が『とある情報』を伝えてきた。ソルト帝はその情報が意味するものをしばし考えて。


「なるほど……これは面白いことになるかもしれませんね」


 小声でぼそりと呟いた。


「何の報告だ?」


 様子が気になったのかオグネー将軍が小声で問う。将軍は代表として会議に参加中だが発言のほとんどは共和国と王国が占めており、さっきからぼーっと聞いているだけだ。このくらいの私語をしていても注目は全然集まらない。


「オグネ-、頼みがあります。タイミングを見て議論に介入して、この会議の結論が出るまでを引き延ばしてください」

「時間稼ぎか。将軍のすることでは無いが……弁論の立場では素人。このくらいの作戦がお似合いか」

「出来る限りでいいですからね」

「承知だ」


 意味の分からない頼みだが、その意図を聞かず快諾するオグネー将軍。


(いつものふざけた様子では無い。皇帝の言葉だった。ならば将軍として従うだけだ)


 皇帝の命を遂行するため、会議を耳を傾け介入するタイミングを計るオグネー将軍だった。




ーーーーーーーー




「つまりこのガラスが部屋の中に落ちていない理由はどう考えますか?」

「そんなの掃除して捨てただけでは無いのか!!」

「あれだけ部屋を荒らしておいてガラスだけは掃除したのは不可解でしょう。

 そもそも大統領は側近のオトゼと二人で死体を確認する直前に聞いた何か割れるような音がしたのですよね。それが窓を割った音だとすると掃除する暇がありませんよ」


 昨夜マギニスが調べた現場の情報は今朝の内にスカフにも伝えられており、そこから皇帝が推理したものと同じ結論を導きだしている。


「それは……それは……ええい屁理屈ばかり並べおって!! 貴様が殺したのでは無いのか!?」

「ワンパターンですね。僕は殺していませんよ」


 白熱する議論の中、スカフ王子はどこまでも冷静だった。

 そもそも焦る要素が無いね。本当に妻を失ったかのような大統領の熱量にはビビるけど勢いだけだ。僕に殺人容疑を擦り付けるための証拠も論理も不足している。




「困ったら怒鳴るのは止めたらどうじゃ?」

 折を見てザフト連邦のデニサ村長が援護してくれるのは心強い。


「…………」

 プーナ神国のスルザ従騎士は本当に興味無さそうだ。目が泳ぎだしたしその内寝るかもしれない。


「…………」

 帝国の将軍と皇帝は……何やら小声で話し合っている。しかし、特に現時点で発言するつもりは無さそうだ。




 会場の様子を改めて把握した後、スカフは議論を進めることにした。


「僕の話は止めて他の話をしませんか?」

「他の話だと!? 妻の死はどうでもいいというのか!?」

「勝手に合点しないでください。僕の話を止めて、事件の本当の犯人を探そうという話です。そちらの方が大事でしょう?」

「だからそれが貴様で……!!」


「一旦落ち着きましょう、旦那様」


 またも激昂しようとした大統領を諫めたのはその隣に立つ側近のオトゼだった。


「オトゼ、何を」

「これ以上は埒が明きません。問題点も整理出来ました。あとは真実を明らかにすればいいだけです」

「………………それもそうだな」


 ソップ大統領は一転、感情の一切を削ぎ落として頷く。




「…………」


 ついに動いたか。

 大統領の側近オトゼ。マギニスの話からしてこの策謀の主犯の一人。会議が始まってからずっと静かにして大統領の好きにさせていたみたいだけど……一体何をするつもりか。




「集中が必要なため大統領の代わりに説明します。このスート共和国の大統領がどういう立場なのかはまあこの場にいる皆さんならご存じでしょう。共和国を司る精霊、雷の精霊、水の精霊。その力を使うことが出来る権能者なのです。

 今から使うのはその内の一つ――共和国内における全ての真実を映し出す精霊魔法です」




「うぐぐ…………現れよ!! 『水の御鏡』!!」




 魔力を集中させていたソップ大統領が宣言するとその背後の空中に突如沸いて出た水が渦を巻いて行き、次第に形と表面が整えられて――巨大な円形の鏡となる。

 その鏡面は『真実の間』の光景を反射しながらも、水面のように揺れている。

 水であり鏡である。魔法の産物。




「かなりの魔力を感じるけど……その鏡でどうするつもりかな? 真実を映し出すとか言っていたけど」

「ええ、それはもう……言葉の通りですよ」




「昨夜の凶行。その真実を映したまえ!!」


 ソップ大統領がさらなる宣言をすると、鏡面であり水面だった表面が波立っていく。波は徐々に大きくなっていき、一際大きな波が映っていた『真実の間』の様子を覆い隠すと――次の瞬間、暗い部屋の光景がその鏡に映った。




「っ……これは死体が発見された寝室か?」

「ええ。それも昨夜の寝室の様子です」

「なっ……!?」


 時を遡りその様子を覗き見る。普通では事象改変度が大きすぎて魔力がいくらあっても足りないだろう。

 それを平然とやってのける精霊魔法。

 だとしたらどうして最初からその魔法を使わなかったのか気になるけど……。




「今さら貴様の犯行が暴かれることに震えたか?」


 ソップ大統領が煽る。


「……別に問題無いさ。真実が明かされるならそっちの方が好都合だ」

「ふんっ。その調子がいつまで続くか見物だな」


 会場中の視線がその鏡に注がれる中、寝室に二つの人影が現れた。

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