78話 お菓子な心残り
大陸全土会議が開始したのと同じ頃。
「よし、見えてきたわね」
アラファ・ステンスの姿は共和国の繁華街の外れにあった。
「ここが先輩たちが三日前に訪れた場所で……こんなところに人住んでるんですか……?」
「明るいときに来ると寂れ具合がよく分かる」
後輩のノーナと無口なロチュも一緒である。
三人の目的地は一日目の夜にも訪れた貧困層の子供たちが住んでいる廃墟である。
スカフ王子が殺人容疑をかけられて大変なことになっているが、そもそもアラファたちにはその情報は届いていない。
会議に参加するようにも言われていないため今日一日完全にフリーだ。
そのためアラファは個人的な心残りを済ませるためにこの場所にやってきていた。
ノーナとロチュはその付き添いである。アラファがやろうとしていることを聞いて、そしていつも世話になっているアラファからの頼みということで協力することを快諾していた。
アラファの心残り、この廃墟たちに居着いている子供たちだった。お腹を空かせた子供たちに少しでも笑顔になって欲しいと与えたお菓子は量が全然足らずにかえって争いを生んでしまった。
アラファは考えた。子供たちの笑顔を見るためにはどうすればいいのか?
共和国の繁栄の裏で切り捨てられた貧困層の子供たち。国としての構造をロチュに解説してもらったが全く理解出来なかった。解決策なんて思いつける訳もない。
あの日出会ったカプラ神官は、シエモス教に入信して欲を捨て去りやり過ごすべきだと言った。
アラファとしてはそんなお菓子を捨てる考えに納得出来るわけが無い。
だから考えに、考えに、考えて――。
『お菓子よ!! お菓子は全てを解決するわ!!』
本当に考えたのか分からない結論を出していた。
「あれ、お姉さん。どうしたの? 何かすごい荷物も持ってるみたいだけど……」
廃墟に辿り着いたアラファたちを見つけたのは見覚えのある少年。アラファからスリをしようとして結界魔法に阻まれ、シエモス教の教えにより謝罪して和解した少年であった。
「久しぶりね、ちょっと用事が――」
「って、何かすげーいい匂いがする!」
「ふふっ、話が早いわね。実はここにいるみんなのためにお菓子を作ってきたの。呼んでくれるかしら?」
「マジで!? おーいみんなあああっ!!」
少年は目をキラキラと輝かせると、廃墟中を駆け回って呼びかけていく。
「元気いっぱいなんですね」
「今のうちに準備」
「そうね、押しかけて怪我しないようにあの開けた中庭で振る舞いましょ」
三人は場所を中庭に変えて持ってきたお菓子の入ったカゴを置くと、ちょうど話を聞きつけた子供たちが集まってきた。
「なあなあ、お菓子もらえるって本当?」
「この前のお姉ちゃんだ! お菓子おいしかったよ!」
「へえ。俺食えてねーんだけど」
「あのときは手持ち分しか無かったけど、今日はちゃんと用意してきたわ! 今から配るから順番に並んでちょうだい!!」
「「「はーーい!!」」」
並んだ子供たちにお菓子を手渡していくアラファ。
お菓子の種類は様々でクッキーやビスケット、アップルパイにフルーツタルト、ようかんに大福、これまでに作ったことのあるお菓子が大量に用意されていた。
「うーんおいしー!!」
早速食べ始めたのか、そこかしこで上がる快哉。
(うんうん、やっぱお菓子には喜びの声よね。争いなんてもっての他だわ)
アラファは満足そうに頷く。
「ねえもっと食べたーい」
「良いわよ! でもちゃんと並んでね」
「何回でも並んで良い?」
「もちろんよ、何回でも来てちょうだい!」
子供の胃袋はブラックホール、ましてやいつもは貧困で満足に食べることも出来ないのだ。何度もお菓子をねだる子供たちにアラファはお菓子を配り続けて――ついにはお菓子を入れていたカゴが空になって、それでも子供たちの列は途切れない。
「まさか予想外ね……」
「みんなたくさん食べてますからね」
「本当。こんなに早く……二つ目のカゴに行くなんて」
空になったカゴが下げられ、もう一つ同じ量の入ったカゴが出てくる。ちなみにさらにもう一つ同じだけのカゴが控えていたりもする。
これだけたくさんの量のお菓子、アラファといえど一人で用意するのは不可能であり、もちろんノーナとロチュも手伝っている。
作り始めたのは昨日からだった。舞踏会の開催前、アラファが着せ替え人形となっていた間に行われていたノーナとロチュの作業はこのときのためのお菓子作りであった。
舞踏会が終わってからはアラファも作業に加わり、本日早朝、護衛のマギニスとアラファとノーナが出会ったのも早朝からお菓子を作っていたからだった。
それだけあって子供たちの中にはちらほらと満足する者も出てくる。
アラファの思惑通り進む中――廃墟を訪れる姿があった。
「噂の出所はここで……前と同じですか。全く、浅慮ですね」
大陸全土会議を欠席したプーナ神国代表、シエモス教の聖女、カプラ神官だった。




