77話 開始宣言
パラク宮殿、中央本殿の奥まった場所に位置する『審判の間』。中央に大きな円卓とそれを囲むように傍聴席が置かれている。過度な装飾も無い実直な作りで共和国における重要な話し合いはほとんどこの場所で行われる。
「王国で言えば王座の間と同じくらい権威のある場所ってことかな」
「円卓、共和制……話し合いを前提としてるのだろう。ちゃんと機能しているかはさておき」
スカフとマギニスは部屋を一通り見回す。概要は聞いていたがこの『審判の間』に入るのは初めてだった。事務員たちが慌ただしく会場を整えるために走っている中、各国代表たちもほとんどが既に会場入りしているようだった。
「王子、昨夜のことは聞いた。何やら大変なことになっておるようじゃな」
「ザフト連邦は絶対に王国の味方をするからな!」
「ああ、頼りにしているよ」
「感謝する」
デニサ村長と菓子職人ブロスがスカフたちを見つけて声をかけてくれる。
「スカフ、ワイらも信じてるからな」
「そうだよー、あのタヌキさんやっつけちゃって!」
傍聴席から飛んできた声はグズモ党のゲンツと秘書のサミー。国の代表ではない二人は議決権は無いが発言は出来るオブザーバーとしての参加だ。
いやはや絶対に味方してくれるというのはありがたいことだね。
「…………」
「…………」
対して動きが読めないのがポーディニア帝国。代表者のオグネー将軍、横にいる仮面を付けた護衛に扮したソルト帝は遠くからこちらを眺めている。
マギニスの話だと側近のオトゼと論争になっている間に現場検証をしていたのだとか。何をどこまで知っているのか、そして王国と共和国の争いにどう介入してくるか。ひとまず声をかけてこない辺り現状は静観のようだ。
「はぁ……」
大陸北のプーナ神国。シエモス教の布教のため会議に参加したため中立を貫くカプラ神官。ならば会議にも関係ないと気にするつもりは無かったのだが……そのカプラ神官の姿が見当たらないとあっては話が別だ。
本来カプラ神官に仕えているはずのスルザ従騎士が一人でため息を吐いている。
「カプラ神官はどうしたんだろう?」
「探りを入れるか?」
「うーん……そうしようか」
スカフとマギニスは二人でスルザ従騎士のところへ向かう。
「少し聞いてもいいかい?」
「聖女様なら『罪をなすりつけあう低俗な場に興味はありません。それより興味深い動きがあるようなので会議は欠席します』とのことだ」
スカフが声を変えた瞬間、聞かれることが分かっていたのだろう、先んじてスルザ従騎士が答える。
「欠席……」
「そのため私が代表を代行する。立場は変わらず中立だ、味方もしないが敵対もしない。気にせず会議を進めてくれ」
面倒そうにそのまま続ける。
質問する手間が省けたね。まあ聖女様が居ようが居まいが変わらないけど……それにしても聖女様が言う興味深い動きとは何だろうか?
「私からも一つ良いか?」
「……何だ?」
考えているとマギニスが発言する。
「カプラ神官ではなくスルザ従騎士、あなた本人に聞きたい。この大陸全土会議に参加した理由は何だ?」
マギニスは少々の圧を込めながらその質問をぶつける。
「っ……。聖女様と同じくシエモス教を布教するために決まっているだろう」
「……そうか」
少々たじろいだ後に答えるスルザにマギニスは満足したようで、そのまま二人はその場所を去る。
「プーナ神国には何か裏の思惑があるって話だったね」
「ああ……内容は分からないが、雰囲気からして会議に興味なさそうなのは確かだ」
「だったら敵はやっぱり……共和国だけか」
スカフ王子とマギニスが円卓での王国の定位置に戻ってきたところで、会場に最後の代表者が到着した。
「…………」
「おやおや皆さんお早い集まりのようで」
スート共和国。黙ったまま歩くソップ大統領、側近のオトゼはペコペコと周囲に頭を下げながら入ってくる。
そのまま円卓の一番奥、共和国の定位置まで向かうその最中。
「…………」
「何でしょうか?」
ソップ大統領は立ち止まり、スカフ王子の方を振り向いてじっと見つめてくる。その形相は非情に険しいものだ。
対してスカフ王子は涼しい顔で聞くが、ソップ大統領は気にした様子も無く。
「おまえが……妻を殺したのか?」
「言いがかりは止めてください。というよりそれを話し合うのはこれからの会議でしょう」
腹から絞り出したような暗い声音に呑み込まれないように、努めて軽く返すスカフ。
僕は誓って殺してなんかいない。全く、自分たちが殺したっていうのに面の皮が厚いね。
ソップ大統領は気に入らなそうに視線を戻すと円卓に付く。
会議前から行われた小競り合いにより高まる緊張感。誰も固唾を飲んで見守る中、静粛な会場にソップ大統領のその宣言は響いた。
「ただいまより大陸全土の行く末を決める大陸全土会議の開始を宣言する……!!」




