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76話 4日目


 荒れた深夜を越えて翌朝。

 大陸全土会議四日目、本会議開催日。




「――以上が昨夜の顛末だ」

「どうやらとんでもないことになってるみたいだね……」


 早朝、部屋の結界が解除されてすぐに入ってきたマギニスに、昨夜起きたことを説明されるスカフ王子。


「馬鹿馬鹿しい問いだが一応確認しておく……スカフ、やってないよな?」

「もちろんさ。昨夜はこの部屋、結界内でぐっすり寝て今日の会議に備えていたんだ。ナップ夫人を殺すどころか、部屋から一歩も出ていない」

「……だろうな。つまり」

「側近のオトゼは嘘を吐いている……もちろんこんなこと無断でするとも思えないし、ソップ大統領もグルだろうね」


 共和国のトップが直々に僕を嵌めようとしている。殺人容疑とは大それたことだ。成功すればダメージは大きい分、失敗すればそのまま跳ね返ってくるため考えなしでは無いだろう。

 今のところは僕が犯人だと根拠無く喚いているだけという印象だけど……一体どこに勝算を見出しているというのか?




「決着は会議で付けることになったが」

「元々共和国と王国が主導権を賭けて争うだけだったんだ。争点が殺人の嫌疑になっただけでやることに変わりは無いね」

「随分落ち着いているようだな」

「そうだね……まあ僕は実際にその死体を見ていないから現実感が沸いてないだけかもしれないけど。一応聞いておくけど偽物や作り物じゃなくて、本物の死体だったのかい?」

「ああ。一目見て分かったし、その後十分に確認もした。あの死体は正真正銘ナップ夫人だった」

「……そうか。うーんしかし…………」

「何か気になるのか?」

「いや、些細なことかもしれないけどさ……実際ナップ夫人は誰が殺したのかなって。側近のオトゼ? それともソップ大統領?」

「そのどちらかだと思うが。関わる人間を増やすような案件じゃ無いだろう?」

「……それもそっか」


 何を気にしてるんだという目で見てくるマギニスに対して、スカフは少々の違和感を覚えたが上手く言語化出来ずに呑み込んだのだった。






 その後、着替えや朝食を済ませて準備を整えるスカフ。


「ちなみに僕の殺人の嫌疑についてはどれくらいの人に知られているのかい?」

「王国なら私と貴様だけだ。そもそも事件自体がこの会議中の厳戒態勢の中、殺されたというショッキングなものだから現在は箝口令が敷かれている。知っているのは各国トップとその側近だけだろう」

「そうか。アラファに知られていないなら良かった」


 アラファ・ステンス。昨日の舞踏会ではパートナーとして踊ってもらったが、本日は会議に参加することも仕事も無いためオフとなっている。


「そういえば彼女から朝食のデザートにと預かっているものがある」

「アラファから?」

「早朝に貴様を起こしに行くときにステンス殿と出会った。ノーナ殿と一緒に慌ただしそうにしていたようだが」

「僕を起こす前ってなるとかなりの早朝だね……」


 オフのはずなのにそんな朝早くから何のために動いているというのか?


「何やら町に繰り出すという話だったが……ロチュ嬢含め護衛は頼んでいる。問題は無いだろう。それよりデザートの話だ、ちょっと取ってくる」


 マギニスは部屋から退出したが、すぐにカゴを持って戻ってきた。




「お菓子と口頭のメッセージで『会議頑張ってくださいね!!』だそうだ」


 カゴから出てきたのは全体が黒い色をしているカップケーキが3個。見た目だけだと焦がして失敗したかのようだが、きちんと甘い香りがする。

 スカフは早速一口食べると、香ばしさと甘さが口の中に広がる。


「これはおいしいな」

「ステンス殿はチョコ味だと言っていた」

「チョコ……か。初めて食べる味だけどこんなのどこで…………そうか、あれか。お茶会で帝国の皇帝からもらっていた」

「ああ。量が少なかったからここにあるので全部だそうだ。一つは私の分だからもらうぞ」

「マギニスも食べるのかい?」

「ああ。ノーナ殿が甘さ控えめのビターで一個作ったそうだ。上手く出来たか気になるから後で感想を絶対に教えてくださいね、と念押されている」

「ふーん……そういうことね」

「……美味だな。和菓子とはまた違った渋さがある」


 淡々と、しかし微妙に嬉の感情が漏れ出ているマギニス。どうやら餌付けが進んでるみたいだね……と、アラファの作ったケーキを食べながらその様子を眺めるスカフ。




「それにしても『会議頑張ってくださいね!!』……か」


 アラファのメッセージを繰り返すスカフ。


 貴重なカカオを全て注ぎ込んだチョコ味のカップケーキは全部で5個作るのがやっとだった。アラファとノーナはもっと食べたい気持ちを抑えて1個ずつ食べて、3つがこの場にある。


『チョコには集中力アップやリラックスの効果があるから。何か大事な会議みたいだし、王子には頑張ってもらわないとね!!』




「………………」


 スカフ王子はアラファのそのような鼓舞の気持ちのこもったケーキを食べながら、昨日の舞踏会での言葉を思い出していた。


『呪いを解かなければ自分の価値を取り戻せないと思うなら……どうして私がそんな王子に協力するのか? 考えたことはありますか?』


 アラファが僕に協力してくれる理由……。


「自分の今の立場を守って、君の夢『ケーキバイキングを開く』を叶えるためじゃないのか……? もしかして利害とは別のところに理由があるっていうのか……?」


 スカフの心が迷いで揺れる。




 しかし感傷に浸ってばかりもいられない。王国の運命だけでなく、殺人犯容疑という自身の処遇まで賭かった会議の開始はもうすぐだ。

 カップケーキ2個をたいらげるとスカフは心を奮わせて。


「さて、行こうか。勝負の場所へ!」

「ああ」


 マギニスを連れて本会議の会場となるパラク宮殿『審判の間』に向かうのだった。


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