75話 将軍な現状把握
オグネー将軍は頭を抱えていた。
(全く……一体どういうことだ?)
大陸全土会議で各国から人が集まっている中、大統領夫人が殺されたってだけでも大事件なのに、その犯人が王国の王子様だとは。
「オグネー、話に付いてこれてますか?」
「一応。本当大事件だな」
「……はあ、付いてこれてないじゃないですか」
護衛に扮したソルト帝と小声で話をしていると呆れられる。
……いつもながらイラつく様だ。
共和国からの使者が来た際に興味深いとこの場に付いてきたり、先ほど発言してみんなの注目を集めていたり。
本当に立場を、自分が皇帝でお忍びでやって来ていることを理解しているのかと問い詰めてやりたくなる。
「どういう意味だ?」
「説明をするためにも、もっと現場を詳しく見せてもらえないか尋ねてくれませんか」
「…………」
やっぱり理解していない。本当目立つ行動ばかりしたがって……!
オグネー将軍は声を荒げたかったが、現在共和国の側近オトゼと王国の護衛マギニスがスカフ王子を巡って口論中だ。
怒鳴ってはそれこそ注目を集めることになる。
「すまない、現場をもう一度見させてもらっても良いだろうか? 帝国としても情報を整理したくてな」
「ええ、いいですよ。しっかり誰が犯人かを見極めてください」
「……スカフじゃないとはっきりするだろう」
オグネーは二人の舌戦の隙を縫ってどうにかそのように提案して、ソルト帝と二人寝室に向かうのだった。
「これが殺人現場ですか。ミステリーは好きでよく読んでましたが実際に見るのは初めてですね」
「何を言ってるんだ?」
ナップ婦人の寝室に入ったのはオグネー将軍とソルト帝の二人だけ。そこでソルト帝が頓珍漢なことを言い出す。
ミステリー……? 全く何言ってるか分からないが……まあ元々こいつは最初に出会ったとき戦場だというのに無防備な状態で『ここは? 死後の世界ですか? ……ああいえ、今のは死後とデスをかけたわけじゃなくて。早く戻らないと仕事が……ぷぷっ、死後と、仕事って……』と喚いたかと思えば勝手に笑い出したような男だ。今さらこの程度の発言を気にしていたらやってられない。
早速ソルト帝はぶつぶつ呟きながら部屋中を見回っていく。
「タンスやテーブルの引き出しの中まで荒らされて…………見た感じ物が盗られてそうですね。部屋には入ってきた扉と窓が一つ。窓は十分に人が通れる大きさで一箇所だけ割られている。中の鍵を外から回せる位置ですが、その破片が……。死体の服装に乱れは無く争いの形跡は無し……一撃で不意を突いて殺した……? しかし……」
「おい、いい加減にしろ。さっきの説明はまだか?」
しびれを切らしたオグネー将軍が催促する。
「改めて確認してはっきりしました。では話しますが……まず今回の事件は共和国によるものです」
「……殺されたのは大統領夫人だぞ?」
「ええ。ですが夫婦仲は冷え切っていました。犠牲にしても気にしなかったのかもしれません」
「クズだな」
「目的は現在嫌疑をかけられていることから分かるように王国の王子の失脚です。お茶会で揉めてたみたいですしね」
「……確かにそうか。あの王子もお茶会で話した感じ凶行に走るような人柄ではないと思ったが……いや、しかしそもそも何故断言出来る? 特に何か情報を貰ったわけじゃないだろ」
帝国は王国にも共和国にも諜報員を潜らせてはいるがそれでも全てが分かるわけでは無い。現にスカフ王子が何故真昼の王子様と呼ばれるほどに夜中に姿を見せないのか分かっていない。
「現場を見れば分かることです。今回の事件、側近のオトゼさんが言うように進んだとしましょうか。まず犯人は最初何をしたと思いますか?」
「それは窓を割って鍵を開けて侵入したんじゃないか?」
「ええ。ですがその割られた窓の下を見てください」
「下……? 何もないが」
「その何も無いのが問題なのです。外からガラスを割ったら、破片が部屋の中に飛び散るはずでしょう」
「……っ。それもそうか。……だったらどうして破片は」
「簡単です。窓は部屋の内部から割られたからです」
「……それはおかしくないか? 部屋に入るために窓を割ったのに、割る前から入れているなんて」
「それが自作自演の証拠というわけです」
「なるほどな」
窓からじゃなく、扉からこの寝室に入った……つまり鍵を持つ共和国の人間にしか出来ないこと。
「それともう一つ共和国が付いた嘘が窓から分かります。それが犯人を目撃する前に聞いたという物音です」
「物音? それはガシャンという音がしたからこの寝室に入って犯人を見たんだったか……って、あ」
「窓の割られた箇所は一箇所。侵入するために窓を割ったのだとしたら、去り際の何か割れたような音は何ですか、という話です。寝室を見た感じガシャンと割れるような物は窓しかありませんし」
「つまり嘘ということか」
「そういうことです。そもそも犯人を見つける経緯なんて存在しなかったんですから、全部捏造したものですからね。
その過程でミスしたということでしょうが…………そもそもそれほど杜撰な計画なのか、何かアクシデントがあったのか……」
ソルト帝は何か考え込む。何を悩んでいるのか分からないが……。
「それだけ分かったなら十分だろう。あの側近に突きつけてやればいい」
「待ってください」
意気揚々と皆が揃っているリビングに戻ろうとして止められる。
「どうした?」
「この騒動は王国と共和国の問題です。帝国が介入する必要がありません」
「……分からないでもないが、王国に恩を売っておくのはいいことじゃないのか?」
「代わりに共和国の不興を買ってもですか? ……あとそれだけじゃありません。共和国がこの杜撰な計画を実行した自信の源が気になります」
「確かにおまえが少し見ただけで分かるような話。そして王国も徹底して王子様の無罪を主張するだろう。そう簡単に犯人に仕立て上げられるはずがない」
「それでも行けると考えた理由があるとしたら」
「…………計画に大統領は関わっている。なら……精霊の力を使うということか?」
「ですから今は様子見です。何が起きるか分かりませんからね」
ソルト帝の言うことももっともだ。世界のシステム、精霊を個人の意志で使用出来る……それがいかほどのことか。
「それに…………事件にはまだまだとびきり不可解なところが残っていますしね。本当……これはどういうことでしょうか?」
ソルト帝は夫人の死体を丁重に触りながらボソッと呟いた。
それからオグネー将軍とソルト帝がリビングに戻るとまだまだオトゼとマギニスが言い争っていたが。
「双方、一旦落ち着いた方がいいんじゃないか」
「気持ちは分かるが深夜だ。考え話す時間では無い。……ちょうど明日話し合いの時間があるそこでやり合えばいいじゃないか」
ザフト連邦の菓子職人ブロスとプーナ神国のスルザ従騎士が仲裁に入る。
「夜の内に話をまとめたかったですが……」
「スカフがいない内にか?」
「奥方の無念を一刻も早く晴らすためにです。……ええ、分かりました続きは会議でやりましょう」
「そうだな。スカフ本人にしっかりやっていないと言ってもらう」
バチバチではあったが、どうにかその場は解散することになった。




