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74話 護衛な急報


 マギニスがその報せを受け取ったのは深夜十二時頃だった。


「共和国の使者はどういう用件だ?」

「それが直接見てもらえないといけないの一点張りで」

「王国代表の王子ではなく、私でも大丈夫だと?」

「はい、そのように言っています」

「……分かった。窺おう」


 共和国からの使者が王国の夜間見回りに接触して、深夜にも関わらず代表者を呼ぶように言ったようだ。

 とはいえスカフは真昼の王子様、何があっても夜に姿を見せないことは有名だ。故に見回りが難しいと渋ったところ、その次の立場の者でも良いと言われ、マギニスに話が回ってきた。


 明日に備えていた早めに寝たところを起こされたマギニスだがいつだって対応出来るように鍛えている。早速頭をフル回転して事態の理解に努める。




(スカフが動けない夜は私が代表代行として動くのは元から決めている。……だがそれは王国内だけの決まり事。共和国側が納得したのが解せない。あの大統領ならどうしてスカフが応じないのかとねちねち攻めるように指示していてもおかしくないが……)


 深夜に代表を呼ぶほどの重大案件なのに、代表代行でも許した理由。それほど切羽詰まっているからか、それともスカフが来れないことを織り込み済みなのか……。


「何にしろ事態を把握してからか」




 マギニスが共和国使者に付いていって歩くこと数分。

 場所は変わらずパラク宮殿。その内のソップ大統領が居住している区画に案内される。




「……っ!」


 いつもはあまり感情が表情に出ないマギニスだが、そこにあった光景に流石に驚きを隠せず目を見開いた。


 寝室のベッドの上。

 胸を突かれたのか服に穴があきその周辺は血の滲み広がっていて、顔からはすっかり生気が失われて、一切動かない……ナップ婦人の死体が横たわっていた。

 スカフ王子に害意や殺意を見せていたし死んで良かった、と思えるほど鬼畜ではない。昼間、舞踏会では普通に生きていた人物が死んでいるというのは普通にショックの方が大きい。




 部屋にはマギニス以外にも各国の代表関係者が集められているようだった。


「……デニサを連れて来なくて正解だったな」


 ザフト連邦からは菓子職人ブロスが。


「戦場なら死体も慣れっこだが……これは……」

「……ふむ」


 ポーディニア帝国からオグネー将軍とその脇に護衛が控えている。お茶会のときと同じ兜で顔を隠した皇帝だろう。


「どうして私が……」


 最後に特徴の無い男性は…………プーナ神国、カプラ聖女付きのスルザ従騎士だったか。聖女本人は来ていないようだ。




「…………」


 王国だけでなく集められていたか。……だがそれほどの事態だ。大陸全土会議が行われていて警備も厳しいはずなのに大統領夫人が殺された。

 一体、いつ誰がどうして殺したというのか?




 流石に死体のある部屋にずっといるのも居心地が悪く、皆でリビングに戻ったところで。


「深夜にも関わらずご足労いただき申し訳ありません。大統領が傷心で動けないため説明はワタクシ、側近のオトゼが行います」


 マギニスたちの前に立ち話し始めた30代前半、物腰柔らかい態度ながら隠しきれない野心が見え隠れする、線が細くつり目の男性オトゼ。

 ソップ大統領の側近で心酔しており、大統領のためなら何でもするという話を聞いたことがある。


 大統領の居住スペースなのに姿を見せないとは思ったが……いやそれもそうか。妻が殺されたとなれば立ち直れないのも当然で…………いや、しかし夫婦仲は冷え切っていたはずだが……。




「奥方は本日夕方まで行われていた舞踏会に参加されていました。帰宅後、疲れたので休むと言い残して寝室に引っ込みました。

 ワタクシと旦那様は細々とした仕事があったためもう一度出て、帰ってきたのは今から一時間ほど前の23時のこと。

 部屋に入る直前にガシャンと大きな物音が鳴り響き、慌てて音が鳴った方向、奥方の寝室に駆けつけたところあのようになっていたというわけです」


 オトゼによる経緯のまとめ。

 つまりナップ婦人が寝室に一人でいるところに誰かが侵入して殺した……ということなのだろうが、色々気になる点はある。




「質問いいだろうか?」


 マギニスは挙手して発言する。


「はい、ワタクシに答えられることなら何でも」

「賊の侵入経路の特定は? 神殿内の警備の状況は? 奥方を失ったところに悪いが、同じように王国の人間が襲撃されることも警戒しないといけないのでな」

「ええ、もちろん懸念するところだと思います。部屋は閉まっており鍵も無事だったため、侵入経路は寝室の窓からでしょう。外から割って鍵を開けて侵入した。

 警備は現在増員して強めています。が、そもそも犯行可能時刻も神殿の外から不審者が入る隙は無かったと報告が上がっています」


 ひとまずさらなる惨劇が起きるということは無さそうだ。そもそもスカフの部屋は本日も結界を張ってもらっているため問題ないが、使節団含め王国の人員はそれ以外にもいる。

 そして今の説明が本当ならば――。




「外から侵入が難しいということなら、つまり犯人は元から神殿内にいた……会議の関係者ということか?」


 マギニスは淡々と言ってのける。

 各国代表を集めたのは、警戒を呼びかけるのと同時に犯人捜しのための情報提供でも呼びかけるつもりだったか。

 マギニスはそのように考えるが。


「ええ、舞踏会で招いた人が全員外に出たのは確認しているため……その通り、だと言えますね。……いや犯人探しを、疑心暗鬼をばら撒きたいわけではないのですが」

「……?」


 オトゼの返答を上手く飲み込めないマギニス。

 犯人を一刻も早く捕まえたいんじゃないのか?




「発言よろしいでしょうか?」


 そのとき手を挙げたのが将軍の護衛、つまりは皇帝である。横でオグネー将軍が『目立つ真似するな……!』と言わんばかりに顔を歪めているがどこ吹く風のようだ。

 オトゼとマギニス、両方が首だけで頷いたため皇帝は話し出す。


「今のオトゼさんの説明で気になるところがあります。部屋に入る直前に鳴ったという物音の正体です。

 それは犯人が逃げた音だったんじゃないですか? 説明の感じからすっかり殺されてから時間が経ったかのように錯覚しましたが……犯行はあなたたちが踏み込む少し前くらいに行われたのでは?」


「……っ」


 皇帝の話に息を呑むマギニス。


「……え、ええ。その通りで………………言うか迷っていましたが、逃げる犯人の後ろ姿をワタクシと旦那様は見たのです」


 少しキョドりながら衝撃的な話をするオトゼ。


「何でそれを最初から言わないんだ」


 菓子職人ブロスからの真っ当なツッコミ。


「それが……その姿が信じられないもので…………」


 歯切れ悪そうにしながらマギニスの方をちらちら見てくるオトゼ。


 何のつもりだ? とマギニスがその様子を訝しんでいると、少しして決心したようにオトゼはその爆弾を落とした。








「奥方の寝室に侵入、殺害して逃げるように去っていったその犯人の後ろ姿は…………王国の、スカフ王子のものだったのです」








「――――――」


 その言葉を聞いた瞬間、マギニスは言葉を失った。

 主が人殺しの犯人として疑われた……からではない。

 共和国が仕掛けてきたことの大きさに気付いたからだった。


(スカフが犯人? あり得るはずがない。深夜23時、スカフは部屋の結界内にいたはずだし、もし抜け出したとしていても夜なため子供状態だ。もし大統領とこの側近が見てもスカフだと分かるはずがない。

 どう考えても目撃したという証言は嘘だ。

 つまりこれは事件ではない。……共和国がスカフを貶めるために実行した策謀だ。

 そのためにナップ婦人を殺したっていうのか……? そんなことのために……?)




 唖然とするマギニスだが黙ったまま容疑を認めたと思われてもマズい。


「あり得ない。スカフは明日の会議に備えてずっと部屋で就寝中だ」


 毅然と反論するが。


「……それを客観的に証明出来るのですか?」

「何?」

「いえ、ワタクシとしても信じたくはありませんが見たのですからしょうがありません。こちらの言い分を否定する……アリバイを示していただかないと」

「アリバイ……だと?」

「ええ、とりあえずこの場にスカフ王子を呼んでもらえませんか?」


 オトゼは申し訳なさそうに手をもみながら……しかしながら若干ではあるものの口の端をつり上げながらマギニスに要求する。

 こいつ……いや共和国は、スカフの弱点……呪いのことを存分に突くつもりで……。




「もちろん真昼の王子様と呼ばれ夜に姿を見せないことは知っています。しかしそんなこと言ってる場合じゃありません。人が、奥方が死んでいるんです。捜査に協力してもらわないと」

「…………」

「それとも出来ないんですか? 何か後ろめたいことがあるから姿を現せないと?」


 このキツネ野郎が…………!!

 マギニスは奥歯を噛み砕かんばかりにギリギリと食いしばりながら、どのように対応するべきか必死に考える。








「……なるほど。そういうことですか」


 そんな王国と共和国の様子を眺めながら、皇帝は誰にも聞こえないようにそう呟くのだった。

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