73話 舞踏会終幕
舞踏会も終盤、演奏が終わりダンスの時間は終了。
お開きまで飲食や歓談して過ごす時間となった。
(もう十分に義理は果たした。あとはゆっくりさせてもらうか)
スカフ王子も長時間のダンスから流石に疲れがあり、会の最初のように人に囲まれないように各国代表の関係者しか近づけないスペースにアラファと一緒に戻る。
するとそこには。
「ノーナちゃん、ノーちゃん……うーん語呂が悪いし……そうだノンちゃんでいいかな!?」
「な、何でも大丈夫ですから」
秘書のサミーが後輩のノーナのあだ名に迷っていて。
「それにしてもこんな娘を捕まえてたとかやるやないか。堅物過ぎてジジイか、思ってたけどやることやってたんやな」
「……?」
グズモ党の党首ゲンツが護衛のマギニスをからかうがのれんに腕押しだった。
「ノーナにサミーさんも! ねえ、二人とも時間があるならお菓子食べにいかないかしら! 色々忙しくて全然食べられてないのよ!」
アラファは二人の姿を見かけてすぐそう提案する。舞踏会は立食形式で色々な料理の他、お菓子やデザートも取り揃えられていたがアラファはスカフと共に行動していたためほとんど手を付けられていない。
「アラちゃん、やっほー。それならあーしもオトモしよっかなー。問い出すことはそこでも出来るしね☆」
「先輩お疲れ様です。ノーナもご一緒させていただきます。それとサミーさんは何とぞお手柔らかに……」
「よし! それじゃスカフ王子」
「ああ、行ってらっしゃい」
女性三人、すぐに結束すると連れ立ち去って行った。
そうして残されたのは男性三人。
「ゲンツ、マギニス、ご苦労。それで二人は何の話をしていたんだ?」
「そうそう、聞いてくれやスカフ。マギニスがさっきのノーナって娘をパートナーにダンスを踊っていてな」
「それなら僕も踊りながらちらりと見たよ。僕の護衛の任を解いてからは巡回するって話だったけど……どうしてノーナ嬢と?」
スカフ王子とゲンツは結託してマギニスを問い詰めるモードだ。
浮いた話を一切聞かないマギニス。二人とも付き合いは長いが、異性と親しくしている様子をとんと見ない彼に訪れた春に興味津々である。
「巡回の途中でノーナ嬢のことを助けた。そして気になることの調査のためにダンスに付き合ってもらっただけだ」
対してマギニスはどこまでも落ち着いたまま言葉を返す。
「調査って何や?」
「なるほど、そういう体裁なんだね?」
二人とも追及の手を緩めないが。
「フロアに出て見通しも良くなり分かったことがある。
ソップ大統領の妻、ナップ婦人。彼女がずっと貴様とステンス殿のダンスする様子を暗いまなざしで見ていたようだが……心当たりはあるか?」
マギニスはノーナと踊りながらもしっかりと周囲の観察を怠っていなかった。その結果感じ取っていた敵意が誰から発せられていたものかを見抜くことに成功していた。
「……何や、真面目な話か?」
「ふむ、それは気付かなかったけど……ちょっと待ってくれ。話を整理しようか」
シリアスに続けるマギニスに二人もすぐにテンションを合わせて応じるのだった。
「あんたらなら分かってるやろうけど、一応おさらいや。
ソップ大統領とナップ婦人は若い頃に政略結婚した。その夫婦仲は現在冷え切っていて、今日みたいな公的な行事にこそ妻として出るけど政治に口を出すことはあらへん。夜の町で遊んでいるのがよく見られるみたいやな」
「スカフ、貴様とは特に関わりがなかったはずだな?」
「まあ大統領夫人だから見たことこそあるけど、特に喋ったことも無いね」
夜に行われる行事は全部欠席していることもあって顔を合わせたことすら少ない。
「噂通り男好きな人やけど……」
「ファンだからステンス殿というパートナーを連れてることに嫉妬した……。いやそもそもファンならもっと交流したいと思うべきだし無さそうか。
そもそも接点が全く無い人に敵意……いや、あれは害意や殺意とまで言っていい。そんな感情を向けられるものか……?」
「そこまでか……気付かなかったな。……もしかして、僕はアラファと踊っていたわけだし、彼女の方と混同したんじゃ無いか?」
「あートラブルメーカーだとは聞いとるけど」
「その可能性も考えたが、ノーナ殿に聞いた範囲ではステンス殿とナップ婦人にも接点は無いそうだ」
「そうか……二日前の夜に一緒に出歩いたロチュ嬢も何も言っていなかったし関わりは無さそうだね」
スカフ王子は腕を組み考える。
元々僕と大統領との仲は良くなかったけど、お茶会のことで決定的となって敵対している。
だからその妻であるナップ婦人からも嫌われていておかしくは……いや、夫婦仲が悪いならその線は薄いか? それとは別のところで殺意を持たれて……でも会話したことも無い相手にそんなことあるのか……?
「うーん気になるけど……特に何か行動したわけでもなし、明日の会議にも出てこないんやろ? なら放置でええんやないか?」
「……特に出来ることも無いか。警戒だけはしておく」
「ああ、頼むよ。それよりも明日の本会議のことだ」
大陸全土会議日程、四日目。ここまでは全て前座、明日こそが今回の日程で最重要となる。
「頑張ってーな。ワイもどうにかオブザーバーの権利をもらったから参加こそするけどな」
「各国のスタンスとして、大きいところがまず私たちハルカネン王国とスート共和国の真っ向からの対立だろう。
そこに付随してザフト連邦は精霊祭のこともあって完全に王国の味方。ポーディニア帝国は積極的な中立、情勢を見極めて関与してくるだろう。最後にプーナ神国は完全な中立……各国の動きに興味が無さそうに見える」
「実質的にあのタヌキ大統領と僕の一騎打ちってことか。燃えるじゃないか」
スカフは燃える。大陸全土の未来をみんなで考える……といえば聞こえはいいが、とどのつまりは主導権を賭けた争いだ。
ここで勝つことで大陸のリーダーとなれば、各国で協力して『妄執の魔女』ゼラフを追い詰めることも可能になるはず。
「それにしてもワイが共和国大統領にさえなれれば簡単な話やったのに……くそ」
「共和国の富裕層が完全にソップ大統領を支持しているんだったか」
「まあズブズブな関係だしね。グズモ党支持のメインとなる中流層への働きかけはどうなんだい?」
「まずまずやけど、かんばしくないのも事実や。どうにも富裕層からの切り崩しを受けてる印象やな」
「下流層へのアプローチをしては?」
「パッと見だと難しそうに思えるけどね。人数こそ多いけど明日のことを考えるのもやっとなほど貧困が深刻化している。国の行く末まで考える余裕は無さそうだけど」
「スカフの言うとおりやな。人数だけなら下流層が多いけどアプローチがどうにも……」
三人は舞踏会終了まで政治談義をするのだった。
=========
その日の夜、大陸全土会議の会場、パラク宮殿には静寂が訪れていた。
昼間の舞踏会を終え、明日の本会議の前夜。
濃密なスケジュールの谷間とも言えるそのタイミングに――内々でショッキングな報が飛んだ。
その内容は。
ソップ大統領の妻、ナップ婦人が……何者かに殺害された、というものだった。




