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72話 護衛な舞踏会


「そういえばノーナ殿と落ち着いて話すのは一昨日以来になるか」

「一昨日というと……っ、あのときの。それにさっきもでしたけどノーナ殿って……」

「あのとき距離を感じるという話だったからこの呼び方を続けたが……違ったか?」

「いえ、それで大丈夫です!」


 舞踏会のホールをマギニスとノーナは二人並んで巡回していく。


 マギニスはノーナを助けてすぐに解散しようとしたが呼び止められた。曰く、頼み事があるから抜け出したのに一人でいたらまた見つかったら面倒になるからしばらく一緒にいさせて欲しいとのこと。


 確かにノーナ殿の言うとおりだ。この舞踏会の最中に警備のための巡回に付き合わせても悪いと思い、去ろうとしたのだが考えが足りなかったな。


 というわけで二人は同行している。




「そういえば今さらなんですけど王子の護衛は大丈夫なんですか」

「王子とステンス殿は今ダンス中だ。あのホールのど真ん中で踊っている背後に護衛がいたら色々と台無しだろう」

「あー、それもそうですね」

「開けた場所、警備は厳重、となれば何事も起きないだろう。最悪何かあってもすぐ駆け付けられる距離だ。それでも警戒に超したことはないとこうして巡回を行っている」

「仕事熱心ですね……」


 マギニスはノーナと会話しながらも周囲に気を配っている。


 この舞踏会に招待されたのはまず会議に参加している各国の代表とその随伴員。そして会議の関係者だけで無く、共和国の上流層と中流層の上澄みも招待されている。ソップ大統領の支持基盤に当たる人たちだ。

 ソップ大統領は王国に敵意を向けているが、支持している人たちはそうでも無いようだ。階級が高いこともあって穏当な人たちが多く、舞踏会は賑やかにそして和やかに進んでいる。

 表面上は。


「……………」


 どこからか感じる淀んだ雰囲気。私のように警戒を高めているからではない。

 害意をあの馬鹿とステンス殿に向けている者がいる。


 どこからだ? 感じ取れるほどに漏れているのに、どうにも発信源が読みづらい。

 もっとあの馬鹿とステンス殿に近づければ分かりそうだが……。




「先輩とスカフ王子何とか踊れているみたいですね」


 マギニスの視線の先を見て、ノーナが語りかける。


「昨夜特訓していたようだ」

「それにしてもさっきから二人を幾度となく見てますけど……マギニスさんは踊ったりしないんですか?」

「踊るように言われているのは各国代表だけだ。護衛の私には要請されていない。……しかし、ホールの中央まで行けなくとも、フロアに出られればいいのだが……」

「……? よく分かんないですけど、踊りたいならノーナがパートナーを務めましょうか?」

「そうだな、頼めるだろうか?」

「なんて冗だ………えっ!?」


 ノーナ殿がこちらを見て驚いている。言い出したのはノーナ殿なのに……?


「もしかして冗談だったか?」

「いや、その、断るだろうと思って……で、でも! OKなら行きましょう!」

「しかしノーナ殿は目立ったら王国の人に見つかるのでは?」

「そんなのどうとでも言い訳しますから! ほら、ちょうど次の曲が始まるみたいですし!!」


 舞踏会のダンスは会場や演奏こそ本格的だが、参加している人々の意識は緩く途中参加も途中離脱も特に問題ないようだ。

 ノーナに引っ張られる形でフロアに出たマギニス。


「って勢いで来ましたけどマギニスさんは踊りの自信のほどは?」

「昨夜、二人の特訓の様子は見ていたから完璧だ」

「見ていただけでですか……」

「ノーナ殿の方は?」

「自信は無いですけど、もし一緒に踊れたらなあと練習してたので一通りは大丈夫なはずです」

「そうか。……、……? 一緒に、とは誰を想定して――」

「あ、始まったみたいです!」


 マギニスの疑問は始まった演奏の大音量にかき消される。

 速いテンポの曲に乗って、ノーナと向かい合いながら踊る。


 ……妙な成り行きになったな。


 護衛を外れている間、少し巡回するだけのつもりがどうしてこのようなことになっているのか。ほんの十分前には考えもしていなかった事態だ。




「マギニスさんは誰かと踊る予定は無かったんですか?」


 踊りながらノーナが質問する。


「無いな。そもそも元々はあの馬鹿も舞踏会に出る予定が無かったから一緒に欠席のつもりだった」

「あー、夜開催予定だったからスカフ王子の呪いで……」

「……そういえばノーナ殿も存じていたか」

「先輩と王子に教えられまして。マギニスさんも呪いを解くために協力してるんですよね」

「ああ。主が苦しんでいる以上は当然のことだ」

「…………」

「どうかしたか?」

「いや、その……本当ふとした疑問ですけど……それだけが理由ですか?」

「……それだけに決まっているだろう」


 何でも無いように否定するマギニスだが内心では驚いていた。

 ノーナのその言葉はマギニスの秘めたものをピタリと言い当てていたからだ。


 あの馬鹿が追い求めているから……だけではない。

 個人的にもゼラフには因縁がある。

 呪いをかけられた際に私もその場にいた。幼かったとはいえ、ゼラフに何も出来なかった無力な自分。今もときおり夢見るあの光景を払拭したい。


 あの馬鹿にも話したことのないのに……どうしてノーナ殿は言い当てることが出来た……?




「マギニスさんって無表情だと思ってましたし、自分でもそう思ってるんでしょうけど」

「…………」

「思ったよりも顔に出るんですね。近くで見てよく分かりました」


 踊りの動きの中、二人が密着すれすれまで行くその瞬間、ノーナはマギニスの耳元で囁く。

 次に離れてマギニスの目に映ったのはノーナのにんまりとした笑顔。


「そうか。私は逆にノーナ殿の考えていることが分からないことが多々あってすまない」

「いいですよ、それくらい。……というか分かられたら困るというか」



「そのせいで色々迷惑をかけるかもしれないが、それでも良ければこれからもよろしく頼む」


 スカフ王子とアラファの関係が拗れている以上、その護衛と後輩である自分たちも長い付き合いになりそうだ、とマギニスは特に考えもなくそのセリフを吐く。


「……っ!? もういきなりそんなこと言うの禁止です!!」


 『これからも』『よろしく』『頼む』。

 立て続けにクリーンヒットしたノーナが顔を真っ赤にして。


「…………?」


 やはりノーナ殿の考えていることはよく分からないとマギニスは思うのだった。

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