70話 お菓子なダンス
ホールに流れる優雅な曲に合わせてゆったりと踊っていく参加者たち。
中央で踊るのは共和国代表の大統領を除いた各国代表の4組。
「っと、うまく出来てるか?」
「ああ、その調子じゃぞ」
完全に息の合ったパートナーぶりを見せている連邦代表のデニサ村長とブロス。
「腰が引けてますよ、オグネー」
「うるっさい! どうしておまえはいつも通りなんだ!?」
帝国代表、ソルト帝と翻弄されているオグネー将軍。
それよりも一際目立っているのが。
「…………」
一人で熱心に踊っている聖女、カプラ神官だった。
最初こそ一人でどうするんだという方面で注目されていたが、そこから繰り出された舞の美しさに目を奪われている。
おそらく神に捧げるものとして慣れているのだろう。
形式的にはどうかと思われるが、元々が大陸全土会議に合わせた舞踏会なため気にするような格調の高さは無い。
「聖女様、キレイやなー」
「ちゃんとパートナーのあーしを見なきゃだーめ☆」
「いたっ、変に引っ張るなや!?」
代表者以外にも誰でも一緒に踊ることが出来て、グズモ党の党首ゲンツとその秘書サミーも視界の端に捉えながら。
「えっと、こっちがこうで、次は……」
「ははっ、足を踏まないでくれよ」
「善処します!」
アラファは踊りに付いていくだけで精一杯だった。
狼狽えるスカフ王子が珍しくてちょっとテンション上がってダンスが始まる前にあんなことを言ったけど、昨日付け焼き刃した程度の自分の踊りの技術を舐めていた。
心なしか王子のリードも昨日よりいじわるな気がするし。
「着飾ったりさっきの見透かしたような言動だったり珍しい様子だったけど、すっかりいつものアラファだね」
「王子もすっかりいつも通りですね……!」
「ふふっ『踊りましょう、そして暴きましょう』だったかな。いつ暴いてくれるのかな?」
「ああもうあのときはちょっとテンションがおかしかったんです! 思い返させないでください!」
会話は音楽にかき消されて外には届かない。二人だけのものだ。
「あまり慣れないことはするものじゃないよ」
「分かってますって。私にあるのはお菓子作りの才能だけ。踊りだって、人の心を見透かすようなことも合っていない。
それでも王子の力になりたかったんです、言わないといけないと思ったんです」
「…………」
「私がさっきした発言みたいに、王子だってゼラフを助けて呪いをかけられたことを後悔しているんですよね。
そしてそれを毎夜、呪いで子供になる度に強制的に振り返させられる。それはもう想像も付かないくらい大変でしょう」
幼い頃の忘れたい思い出なら私にだってある。小学校で先生に対して『お母さん』と呼んで、クラスメイトたちに笑われた。
もうすっかり昔で自分くらいしか覚えてないだろうし、今思い返すとちょっとしたミスでしかないのにふとしたときに思い出しては頭をかきむしりたくなる。
それをスカフ王子は毎夜繰り返している。
まさしく呪いだ。
「自己を否定され続けた果てにスカフ王子は自分の価値を信じられなくなったんじゃないですか?」
「……まあありがちな悩みだよ。自分の価値を信じられないなんてね。
幸いにも僕には王子という立場があった。それに漠然とした自分の価値とやらを取り戻さないといけない他の人と違って、僕にとって対処法は明確だ」
「………………」
「ゼラフを殺して呪いを解く。そうすれば全て解決するんだからね」
「……そうですね、王子の言うとおりです」
「だろう?」
「でも間違ってもいます」
「……?」
「呪いを解かなければ自分の価値を取り戻せないと思うなら……どうして私がそんな王子に協力するのか? 考えたことはありますか?」
「それは……」
ピンと来ていない様子のスカフ王子。
アラファはこれ以上言葉を尽くすか迷ったところで――ちょうど一曲目が終了した。
「おっとと」
「しっかり動きを止めて」
喋りながらも続けていたダンスも一度フィニッシュの形を決める。
ホール中に拍手が鳴り響いた後に、静寂がやってきて、続きの二曲目が始まる。
「……スカフ王子、私から色々言っておいてすいませんが、ダンスに集中しましょう」
「……そうだね。二曲目はテンポの早い曲、昨日の練習だけで何度足を踏まれたり、釣られて転んだか」
「昨日帰ってから自主練もしたから少しは大丈夫なはずです……!」
「その言葉はあまり信用しないでリードするよ」
その後二人は話す余裕も無いくらいダンスに集中するのだった。




