7話 呪い
ザフト連邦外交、前日夕方。
スカフ・ハルカネンは珍しいことに父親であるアンフィロ・ハルカネンと共に食事を取っていた。
「明日からザフトか。すまないな、儂の代わりに」
「いいって、父さん」
父はハルカネン王国の国王。しかしあまり体調が良くないため王城を長く離れられない。そのため外交などの外回りの仕事は息子であるスカフ王子が積極的に行っていた。
「連邦はゴタついている。関係が良好でもない我が国が訪問するのもどうかと思ったのだが……」
「逆さ、逆。問題を解決してその恩で国交を正常化させる。僕にはその道筋が見えている」
王を中心にまとまっている王国と違って、連邦は集合体。その内の一つとスカフは連絡を密に取り合っていた。
「そうやっておまえの野望『世界平和』を推し進めて……」
「…………」
「……いや。自分の影響力を各地まで広めて自由に捜索出来るようにして……今も隠れ潜む魔女を見つけるつもりなのか?」
「その通りさ。僕にこの呪いをかけた魔女。やつは必ず殺す」
スカフの拳に力が入る。表情に隠しきれない憎悪も浮かぶ。
アンフィロは王としてでは無く、親として言葉をかける。
「そのようなことは騎士団に任せるべきではないか? 何もおまえ自身が危ない橋を渡らんでも……」
「もう十年以上も経つのに影すら捕捉出来ないやつらに何を期待しろと?」
「…………」
「僕がやらないといけないんだ。やつの執着は僕に向いている。僕が動くことは探すと同時に餌としてやつを誘き出すことになる」
スカフの覚悟の決まった目に親としても何も言えなくなったアンフィロ。
仕方ないので親らしく息子の交友事情に首を突っ込むことにした。
「ところで聞いたぞ。今回の件にも関わっているおまえが立ち上げた外交特務室。その室長とのことを」
「……ああ、アラファのことか」
「何やらおまえが熱心に誘ったのだろう? 惚れてたりするんか? ん? 別に構わんぞ、儂も母さんとは――」
「その何十回も聞いた話はいい。そしてアラファとはそんな関係じゃない。
彼女は……いや、あれは僕の野望を達成するのに役立ちそうな道具だから手元に置いた、ただそれだけだ」
「それは……」
「ごちそうさま。……そろそろ子供になる時間だから失礼する」
そうしてスカフ王子は部屋を後にした。
「……」
扉を出たところで控えていた護衛のマギニスがスッとその背後に付き従う。
「アラファのこと、父に報告したのか」
スカフは振り返らないままマギニスに問いかける。
「……はい」
「別に責めるつもりはない。お目付役がおまえの仕事だからな。ただ……」
「……?」
「どうにも報告に脚色が無いか? あれに僕が心を許したと?」
「ただありのままを報告しただけだ。国王様がどのように受け取ったのかは存じないが」
「……ふん、そうか」
ありのままの僕、とは何なんだろうか?
それは真昼の王子様として民に有名な完璧な顔か。
愉快なことが好きな身内向けの顔か。
母を見殺しにした父さんや魔女、敵対する者に向ける冷酷な顔か。
「自分のことなのに……さっぱり分からないな……」
自室に戻ったスカフ。マギニスも護衛の任を解いて一人となる。
そして迎えた夜7時。
「ぐっ……」
胸に刻まれた呪印が輝きだし時間遡行の魔法が強制的に発動される。その糧となる魔力は呪いの対象者であるスカフ自身の物。魔力光に包まれる中、スカフの身体が作り変えられていき。
「何度やっても慣れないね……」
スカフは子供の姿となる。
身体の縮みに合わせて服も縮むように魔法がかけられている。この魔法が出来るまでは子供になる度に裸になって大変だった。
「お腹空いたな……」
魔力を一気に消費した事による空腹。いつものことなので常備してある市販のパン、味も食感もパッとしないエネルギー補給の用途しか満たさないそれを口に放り込んで水で流し込む。
そしてそのままベッドに横になった。
明日はザフト連邦外交。朝早くから準備する必要がある。
子供状態になるのは夜の7時固定だが、子供状態の解除は寝ている間に魔力が回復次第勝手に行われる。そのため早めに戻るためには早くに寝る必要がある。
日中、外交前に必要な仕事を片付けて疲れていたこともあって早速ウトウトしてきたスカフの口から。
「ああ……お菓子食べたいな……」
はっきりとした意志からではなく、半ば寝言のように漏れ出た呟き。
ここ二日はアラファたちがアップルパイ作りに忙しかったのもあってスカフはお菓子にありつけていなかった。
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次回からザフト連邦編です。