69話 舞踏会
「スカフ王子のパートナー、名前は何て言うのですか?」
「アラファ・ステンスです。お菓子職人をしています……ってこの自己紹介何回目かしら」
大陸全土会議の舞踏会が始まった。とはいえすぐに踊るわけではなく、しばらくは食事しながら各自交流する時間である。
広いホールではあるが、各国の代表者とそのパートナーは注目を集める存在であり人だかりが出来ている。
特に僕のパートナーのアラファ、そして帝国のオグネー将軍のパートナー……仮面を付けているが間違いなくソルト帝は一際目立っていた。
「出会いはどのような経緯でしょうか」
「王城で働いていましてその縁で」
僕も将軍も恋人がいないと思われていたのに、パートナーを連れてきたから気になる人が多いのだろう。色恋沙汰に対する人々の興味はやはり強い。
「ぶっちゃけどこまで進んでますか!?」
「ふふっ、それを口にするのは野暮というものだね。想像にお任せするよ」
僕とアラファ、そして背後に立つ護衛のマギニスは完全に囲まれて質問攻めされている。アラファに集中する質問の一部受け持って負担を軽減するように動く。
舞踏会もまだ始まったばかり、ここでアラファに消耗してもらっても困るからね。
「申し訳ありません、席に戻るのでお通しください」
頃合いを見てスカフ王子たちは移動を開始する。マギニスが人混みをかき分ける後ろをスカフ王子とアラファは付いていく。
ホールの片隅に設けられた各国代表の関係者しか近づけないスペース。そこに戻って小休止をするためだった。
「つ・か・れ・たー。もう人多すぎでしょ…………あ、このケーキまあまあおいしいわね」
アラファはイスに座ってノビをしながら、給仕の人が取っておいたのだろうケーキをつまんでいる。
「お疲れ様、アラファ」
「スカフ王子ってよく人に囲まれてますけど、こんな感じなんですね」
「まあ慣れたものかな」
「ああもう踊るだけだと思ってたのに」
「王国を代表する者として、全く参加者と交流しないってのもそれはそれで印象が悪いからね」
「というかこれから踊るんですよね……」
「ファイト、ファイト」
アラファの愚痴をなだめていくスカフ王子。
付き合わせてるのはこっちだし、これくらいのケアならお手の物さ。
「…………」
「…………」
やがて不満も尽きたのかアラファは静かになった。スカフ王子も特に喋ることが無く黙る。
しばらくして。
「ありがとうございます、スカフ王子」
アラファはポツリとこぼした。
「いきなりどうしたんだい?」
「そのままの意味です。王子って立場なのに私のことをこうして気にしてくれて」
「……そんなことないよ。ただパートナーとして付き合わせたのはこっちだからね。潰れられても困るってだけさ」
スカフ王子は否定して謙遜……と見せかけた本音を話すと。
「ええ、その通りですよね。あくまで利害と計算によるもので優しさからの行動じゃ無いんですよね」
「アラファ……?」
さらに否定されて善意の押し合いみたいな会話になるかと思っていたスカフ王子は当てが外れる。
アラファは座り直して背筋を伸ばしスカフ王子を正面から見つめる。
「王子の母の教え『人に優しくしなさい』でしたか。何でもないようなことですけど、大事なことですよね」
「……ああ」
いきなりの問いかけだがそれくらいで崩れる仮面ではない。
ここは頷くべきところだろうと判断して、首を縦に振ったところで。
「嘘吐き。本当はそんなこと思ってないですよね?」
「…………」
「王子は人に優しくしたことでおばあさん、ゼラフに構ってしまい呪いをかけられてしまった」
「…………」
「その結果王子は人に優しくするなんて馬鹿のすることだと思っている」
断定で言い切るアラファ。
人の心を勝手に決めつける酷い言い分だが……もっと酷いことはそれが合っているというところだ。
そのときホールに拍手が響き始めた。
ホールの一角、楽団の前に指揮者が立ち一礼をしたようだ。
つまりは今から演奏が、ダンスが始まる。
「リードお願いしますわ、スカフ王子」
「あ、ああ……」
アラファが先ほどまでの態度から打って変わって手を差し出す。
このときのために参加した舞踏会だ。動揺しながらもスカフ王子はアラファの手を取ってホール中央へと進んでいく。各国代表者は目立つように中央まで来るように言われている。
他の代表者も集まる中。
「すまん、すまん。腰が痛くてなあ」
スート共和国代表、ソップ大統領の言い訳がましい言葉も聞こえてくるが……それ以上にスカフ王子は正面に立つアラファに引きつけられる。
「さあ踊りましょう、そしてあなたのことを暴きましょう」
クローズドポジションで向かい合ったアラファが微笑を浮かべた。
ダンスが始まる。




