68話 お菓子な3日目
大陸全土会議、3日目。全5日の日程の折り返し、昼前から舞踏会が行われるその朝。
「アラファ様、動かないでください」
「違う色の方がいいわね……荷物にあったかしら」
「うんうん良い感じよ、良い感じ」
「まるで着せ替え人形になった気分ね……」
アラファは王国のおしゃれ部隊によって着飾られている最中だった。餅は餅屋ということで専門家の言われるがままに動いていく。
それが一段落したところで。
「様子見に来ました……わぁ! 先輩、キレイですね!」
「……見違えた」
部屋に入ってきたのは後輩のノーナと無口なロチュ。
「そ、そうかしら」
あまり美から遠い生き方をしている自覚のあるアラファだけに、慣れない褒め言葉に照れている。
「そうですよ。本当普段とは全然違いますって!」
「つまり普段はどう思われてるかってことだけど……まあそうね、私もいつもとは全然違うと思うわ」
舞踏会、王国の代表として、スカフ王子のパートナーにふさわしいように化粧から衣装まで魔改造のレベルで手をかけてもらった。
ベタだが鏡を見て『これが本当に私なの!?』と言ったものだ。
「まさに馬子にも衣装」
「言うと思ったわ」
ロチュの発言は想定内だ。
「それにしてもごめんね。二人とも朝早くから作業してくれてたんでしょ」
アラファは話題を変える。
「良いですって。先輩にはいつもお世話になってますし……ちょうどたくさんお菓子を作ってスキルアップをしたいところだったので」
「その分お菓子もらってるから大丈夫」
対して二人はお安いご用だと軽く返す。
アラファは『ある思惑』のために大量の、とても一人では用意しきれない量のお菓子が必要だった。そのため昨夜の内に事情を話してノーナとロチュに協力を求めていた。それが今のやりとりの裏側である。
「それじゃ私、代表者とパートナーは早めに行かないといけないみたいだから」
「ええ、私たちも着飾ってから会場に向かいます」
「後で会おう」
アラファは舞踏会の会場に向かい、ノーナとロチュも着替えに向かうのだった。
パラク宮殿、中央本殿、大ホール。
本日の舞踏会の会場だ。せわしなく給仕の人たちが動いて準備をしている。
まだ一般参加者は入っておらず、各国の代表とそのパートナー、そのお付きの者だけがいる状況だ。アラファはきょろきょろを会場を見回す。
「…………」
「…………」
スート共和国代表のソップ大統領とその妻ナップ婦人。お互いにそっぽを向いているし会話も無い。
「贅の極み……気は進みませんが、これもシエモス神の教えを広めるため」
プーナ神国代表、聖女カプラ神官は相手がおらず一人だ。そもそもこの舞踏会だけでなく、神官には貞淑さが求められるためカプラ神官にそういう人はいないらしい。
「まあ周囲も事情は理解してるんでしょうけど……それでも一人で踊るらしいしすごい度胸ね……」
全く気にして無さそうな当人を見て感心するアラファ。
「全く、こんなヒラヒラしたドレスだなんて。動きにくいったらありゃしないねえ」
「でも似合ってますよ、オグネー」
「……うっさい」
ポーディニア帝国代表、オグネー将軍。お茶会のための調査では、彼女も戦場に生きる人としてそれらしい相手がいなかったはずだが、その傍らには男性の姿がある。
「あの仮面を付けてる相手の人……もしかして皇帝かしら……?」
オグネー将軍のパートナーは仮面で顔を隠しているが、体形や雰囲気からしてソルト帝のようだ。昨日は護衛に扮してお茶会を間近で見ていたが、今日はパートナーとして参加するらしい。
本当に皇帝なのか疑わしいくらい自由な人だ。
「まあ私を菓子職人として帝国に引き抜こうとしたくらいだものね……」
皇帝の正体は元日本人、社畜にしてスイーツ好き。私の腕を買ってくれてるんだし、悪い人じゃ無さそうだし、帝国にあるというカカオ、チョコレートの原材料も気になるところだけど…………。
「すごい広いな……こんなところで踊らないといけないのか」
「おどおどするでないぞ」
考え込んでいると知った声が聞こえてくる。
ザフト連邦代表、デニサ村長とその恋人ブロス。堂々としているデニサに対して、ブロスは会場のスケールの大きさにたじたじだ。
二人の手は恋人繋ぎで握られており、デニサがリードする形で歩いている。
「何かやっとまともなパートナーって組み合わせ見れたわね…………ってもしかして本当の意味でパートナーなのってデニサ村長のところだけじゃないかしら……?」
大統領のところは冷え切っているし、私たちのところも色々事情があるし……と思いを馳せたところで。
「アラファ、こんなところにいたのか」
ちょうど声がかかった。
「あ、スカフ王子。どこに行ってたんですか?」
「……それはこっちのセリフだよ。集合場所聞いてなかったのかい?」
「集合場所………………あ」
そういえば着替えさせられながら会場に着いてからの集合場所について説明をされていたような、されていなかったような……。
「全く、アラファらしいね。そんなに見違えるほど着飾ってるのに」
微苦笑を浮かべながらアラファの格好を褒める。
「スカフ王子も…………いや、あまり変わりありませんね」
「それは褒め言葉なのかい?」
アラファは褒め返そうとしたが、自分の言語野に適した言葉が無く思ったままをぶっちゃけてしまう。
いや、ちゃんと褒めたいのよ? でも元から素材がいいから、そんなに変わりないというか。着飾っている様子は公式の行事だったりで見たことあるし。
「…………」
それにしても集合場所を忘れていた私が悪いけど、おかげでいつも通りな感じでやりとり出来たわね。
昨夜、スカフ王子の過去話を聞いたアラファ。
呪いにかかった経緯を聞いたことで、アラファの内には色々と思いが浮かんでいたが。
「それではお手を拝借、お嬢様」
「……ええ、案内頼むわ」
片膝付いて芝居がかった雰囲気で手を差し出したスカフ王子にアラファは自分の手を重ねる。
ひとまずは目の前の舞踏会に集中ね。あのスカフ王子にパートナーが、って注目の的になるらしいし。……覚悟はしてきたけど荷が重いなあ。
今はまだ一般参加者が入っていないから楽だけど……。
アラファはそのように思っていたが、しかし一人だけ。
「………………」
ソップ大統領の妻、ナップ婦人がじーっとアラファのことを見つめているのには気付かないのだった。




