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67話 大統領の悪巧み


 大陸全土会議二日目、夜。

 スート共和国、パラク宮殿、ソップ大統領の自室リビングにて。


「くそっ、王子風情が舐めおって……!!」


 昼間のお茶会での出来事を思い出したソップ大統領はその怒りのままにドンと机に拳を叩きつける。


「私は共和国の大統領だぞ。だというのに生意気にも剣を向けおって。そんなこと許されると思っているのか……!!」


 憤るソップ大統領の脳裏からは先にいちご大福を踏み潰そうとして、自分から煽ったことは抜け落ちている。

 スカフ王子の気迫に対して情けない声を上げたソップ大統領。大統領故に直接言うような輩はいないが、誰もが自分のことを蔑んで見ているように感じられて腹が立つ。




「この借りはきっちり返させてもらうぞ……」


 細かなところで気に食わない点はあったが、大きな流れとしてはここまでソップ大統領の思い描いた通りに進んでいた。

 王国のスカフ王子を煽ることで負い目を作って、そこを突くことで会議で有利に立つ。大陸の盟主は共和国だと思い知らせてやる。


 今回の大陸全土会議では『各国が協力して大陸のこれからの未来を考える』という目的が掲げられているが、もちろん建前でしか無い。


 ただそれだけではこの癇癪は収まりそうも無い。スカフ王子……やつを追い詰めるためにもっと何か良い方法は無いか……。




 ソップ大統領が考えていると、ガチャとリビングの扉が開いた。


「……あら、あなたいたの」


 ソップ大統領の妻、ナップ婦人。小太りなおじさんであるソップ大統領の妻らしく、小太りなおばさんである。

 開いたのは外に通じる扉。つまり夜遅い今の時間に帰ってきたということだ。


「おまえ……また夜遊びか」

「…………」

「無視するな! ええい、明日の予定は分かってるんだろうな!」

「ええ、舞踏会でしょう。分かってますわよ」


 それだけ答えるとナップ婦人は自分の寝室へと姿を消していった。




「ったく……」


 結婚から15年、ソップ大統領とナップ婦人の夫婦仲は完全に冷え切っていた。かろうじて外面のために離婚していないだけだった。


 すっかり堕落しおって……。

 若い頃は美貌を誇っていたナップ婦人も時の流れには勝てずすっかりおばさんとなったことを嘆くソップ大統領。

 もちろん自分もすっかりおじさんとなったことは抜け落ちている。


 ナップ婦人は大統領夫人という立場を利用して遊び歩いていた。今日もその帰りだろう。

 色々言いたいことや怒りの感情もとうの昔にすっかり忘れてしまった関係。今のも数日ぶりの会話、否、やり取りだった。

 ただ明日だけは舞踏会、パートナーとして参加してもらわないといけない。まあそれも体裁を保つためだけで、何だかんだと理屈を付けて踊るつもりは無かった。




 そもそも始まりが政略結婚のようなものだ。

 ソップ大統領が大統領になる前、各地へ賄賂や根回しをしていく中で決まった結婚。

 そうまでして手に入れた大統領という地位への疑問の声や、政策の結果、雷の精霊の民が貧困に喘いでいることに対して批判する声、歴代大統領で一番無能じゃないかと揶揄する声。

 全てソップ大統領は把握していた。


「何とでも言え……これは正当な権利だ」




 スート共和国は今でこそ裕福な水の精霊の民、貧しい雷の精霊の民となっているが……一昔前は逆だった。


 社会が発達していない昔のこと。力が正義という時代。


 雷の精霊の地の恩恵、強い魔力を持った子供が生まれやすいというものにより圧倒的な力を持っていた。

 対して水の精霊の地は今ほど環境が整備されておらず、洪水や氾濫などに悩まされていた。


 故に雷の精霊の民が水の精霊の民を力で支配して言うことを聞かせる……今とは逆の上下関係が築かれていた。


 争いを鎮めたいと二つの精霊によって権能者が作られてもその構図は変わらなかった。力により支持を集めた雷の精霊の民がリーダーとなってこの地を率いるだけだった。


 搾取されるだけの日々に私の祖父はどうにかしてその構図を引っくり返してやると決意した。

 リーダーに媚びへつらいながらどうにか水面下で勢力を広げていき、あるとき支持の数が逆転。祖父は権能者となった。


 それでも認められずにいつも通り力で対抗してこようとした雷の精霊のリーダーを、精霊の力を使って退けて……こうして力関係は逆転した。

 そうして水の精霊の地に発展も富も集中させて、雷の精霊の地は転げ落ちるように貧しくなった。

 だがそれも自業自得だ。先に好き勝手したのはあっちなのだから。


 その祖父の基盤を父が引き継いで、また自分が引き継いで今に至る。




 富裕層を中心に私は支持を得ており盤石だ。まあグズモ党のゲンツとやらが足掻いているのは目障りだがな。

 もちろん精霊の力を使えば反対勢力を潰すことも簡単だが、あまり目立つことをやると次は自分が粛正されるかもしれないと萎縮したり、やりすぎだと批判されるかもしれない。

 支持が離れて権能者の力を失ったら終わりだ。過ぎた力故にあまり気軽に振るえないのである。

 だから放っておいてるが……そもそもひっくり返せるはずもないだろう。




「精霊の力……そうか、その手があったか」


 強すぎるが故に身内に使うわけには行かない力。

 だが敵ならばどうだ?

 共和国の敵、王国のスカフ王子に対してならその力を使っても軋轢は少ない。


 もちろん直接的に攻撃するわけには行かない。仮にも相手は国賓だ。

 この力を悪用して間接的に貶める方法。




「真昼の王子様。夜にその姿を見た者はいない。

 舞踏会のスケジュール変更と同様にまたその弱点を突けば良いだけでは無いか。

 つまりやつに夜間のアリバイは存在しない。

 事件をでっちあげて、その罪をあの憎たらしいガキになすりつけて、精霊の力で暴いたということにすれば………………」


 ソップ大統領は悪巧みをまとめ始める。


「…………いいんじゃないか? よし決行は明日、会議三日目の夜だな」

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