66話 価値
「その後、辺りを捜索したがゼラフの行方は掴めなかった。時間魔法で時を止めて逃げられたんじゃ追いかけようも無いね。
こうして僕に呪いだけが残された。
この呪いはあの過去まで肉体年齢を遡らせるもの。だから子供から子供でほとんど戻らない最初の頃は呪いの効果が分かっていなかった。
だから最初はゼラフのことを必死に忘れようとした。変なおばあさんに絡まれただけだって。
でも徐々に戻される年齢が大きくなり呪いの意味が分かって大変になってきた。
そしてこの呪いを解除するためにゼラフを探し出して殺すしかないと決意して……今に至るってところだね」
僕は過去についてアラファに話し終える。
自分の未熟さを晒すようで気が進まなかったが、話し終えてみて意外と気分は悪くなかった。
普段はあまり思い出さないようにしているからこそ、過去を振り返りながら話していく内にふつふつと自分の心の内で再燃する感情があった。
人に優しくするなんて損するだけだということ。
そして自分にこんな大変な呪いをかけたゼラフへの殺意。
もちろんどっちの感情も忘れたことは無いけど……今一度気を引き締めて頑張ろうという気持ちになれたのは良かったね。
「本当、どうしてあのときゼラフに優しくなんてしてしまったのか……。子供だったから酷だけど見抜いていればこんなことにならなかったのにね。
話ちょっと長くなったけど大丈夫だったかな?」
「……ええ、理解しました」
アラファは堅い表情で頷く。あまり見たことの無い真面目な様子だ。
事情を知らないのに巻き込んでしまっているから今回改めて打ち明けた。
とはいえアラファ自体に得のある話じゃない。
なのにここまで真剣に向かい合ってくれるとは……どうしてそこまでしてくれるのか?
……まあいい、これで続きの話が出来る。
「アラファにこの話をしたのは情報を共有するためだ。気になるところがあるだろう?」
「……はい」
「そう、どうして僕と出会う前にゼラフは血まみれになって衰弱していたのか、というところだ。つまりゼラフを追い詰めていた何者かが存在するということになる。
また過去ここで呪いを食らったように、ゼラフは共和国に侵入することが出来る。光の精霊の力が行き渡っている王国と違ってね。
この会議にも潜入しているかもしれない。気休めかもしれないけど、気を付けるようにね」
「…………」
僕の言葉に対してアラファは無言だった。
リアクションが無いのは悲しいね……どういうつもりだろうか? 話は聞いてくれてる雰囲気だったけど……。
少ししてからアラファは口を開いた。
「一つ質問いいですか?」
「何かな?」
「もしスカフ王子は自分から身分や立場が無くなった場合、自分にどれほどの価値があると思ってますか?」
「…………えーと?」
今話した過去話について聞かれるかと思っていたスカフは予想もしない質問に虚を突かれる。
身分、立場、価値……?
「すいません、変な質問しました。やっぱり無しで。……そろそろ私も明日に備えて部屋に戻って寝ようと思います」
「……そうだね、結構な長話で夜も更けてきたし」
「王子もわざわざ私に打ち明けてくれてありがとうございました。失礼します」
アラファは一礼すると部屋を出て行った。
「何かアラファらしくない様子だったね」
「…………」
スカフ王子はずっと黙って聞いていた護衛のマギニスに話しかけるが無言だ。
「マギニス……もしかして寝てる?」
「直立不動で寝れるほど器用では無い。ステンス殿は……いや、私から言うことじゃないか」
「……?」
何か言いかけて止める。マギニスにはアラファの様子の理由が分かってるのか……?
「話が終わったなら私も退室する。部屋には結界をかけるから明日の朝まで出られないが大丈夫だな?」
「ああ、大丈夫だよ」
そうしてマギニスもそそくさと去って行った。
部屋に一人残された僕は子供状態の身体をベッドに投げ出す。日中のお茶会の緊張、話の前に行ったダンスレッスン。溜まった疲労がすぐに眠りへと誘う。
そのまどろみの中で僕はアラファの質問を思い返していた。
『もしスカフ王子は自分から身分や立場が無くなった場合、自分にどれほどの価値があると思ってますか?』
つまりは僕が王子でも無くただの一般人だったらどうなのか?
アラファが何故そんな質問をしてきたのかは分からないけど、答えは決まっていた。
ゼロだ。無価値に決まっているじゃないか。




