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65話 過去

更新再開!


『人には優しくしなさい』


 それが母の口癖だった。


 ハルカネン王家の長子に生まれた僕は王を継承する運命だ。それでも驕らずに生きて欲しいという願いだったのかもしれない。

 その教えの通り母は誰にでも優しく、王妃だというのに親しみやすいと話題だった。





 6歳の時、母は死んだ。


 病気によるものだった。

 日に日に衰弱しているのに僕の前では気丈に振る舞っていたことを、病床にほとんど訪れなかった父親のことをいやに思い出す。


『いいのよ、あの人にしか出来ないことをしているんだから』


 僕が父に対して不満を口にすると母はそのように言った。

 寂しそうな表情をして何がいいのか? 人に優しくし続けた結果がこの末路でいいのか? 子供ながらに疑問に思った。




 母が死んでから3ヶ月ほど経ったその日。

 子供という時分に親は重要な存在だ。未だ心の中にぽっかりと開いた穴が埋まらない日々を過ごしていた僕は父や使節団の人たちと一緒にスート共和国を訪れていた。

 詳しく覚えていないが何かのイベントだったんだろう。ここ、パラク宮殿で何かきらびやかなパーティーが開かれていた。


『ワイはゲンツって言うんや、よろしくな!』

『もう相手は王子様だよ。ごめんなさいね』


 ゲンツとサミーと初めて会ったときもこのときだった。大人ばかりのパーティーで同じ年くらいの僕らは意気投合して色々と話した覚えがある。

 それでも気分の上がりきらなかった僕は途中でパーティーを抜け出した。


『あまり勝手な行動はしないでください』


 その頃から僕のお付きをしていたマギニスがたしなめた。しかし僕は無視したし、事情を知っているマギニスもあまり強く言わなかった。


 そうして人気の少ない中庭にやってきて……僕はやつと出会った。




『ぐっ……はぁはぁ……』


 全身ずぶ濡れでところどころ血に塗れていて衰弱しきっている老婆が川のほとりでうずくまっていた。


 宮殿内なのにみすぼらしい格好で、どう考えても何かあった様子で、訳ありなのは一目で分かった。

 近寄るべきでは無かった。

 でも。


『人には優しくしなさい』


 母の教えを思い出した僕は声をかけてしまった。




『どうしたんですか、おばあさん』

『子供……? ……放っておいて……ちょうだい』

『そんなこと言わないでください。酷い怪我ですよ』

『これは……仕方ないの……』

『どうしよう。医者か回復魔法の使い手かいないかな』

『…………』

『大丈夫だからね、おばあさん』


 僕は手を差し伸べながらそう言って。


『そうなの……そういうことなのね』

『…………?』

『あなた名前は何て言うの?』

『名前? スカフです』


 おばあさんはずるり、ずるりと身体を起こしながら。


『良い名前してるわねぇ、スカフちゃん』


 僕の名前を呼びながら差し伸べていた手を握ってきた。




『っ……!?』


 ただの老婆のひしゃがれた声。ただの老婆の枯れた手。

 そのはずなのに悍ましい感覚が全身に走り、僕は動くことが出来なかった。


『は、離れろ!!』


 側で控えていたマギニスにもその感覚は伝わったのだろう。震えながらも助けに入ろうとするマギニスを老婆は一瞥しただけでまた視線を戻し。 




『こんなに優しくされたこと初めてなの。嬉しいわ』


 おばあさんの身体からは黒いモヤのようなものが沸いていた。


『話にしか聞いたこと無かったけど……つまりそういうことよね』


 覆われた部分の傷が消えていく。


『スカフちゃん、あなたは私、ゼラフのことが好きなんでしょう!?』


 そうして完全に回復したおばあさん――ゼラフが恋も愛も知らない6歳児に迫る。




『す、好き? そ、そんなことないよ……』


 震えながらスカフはそのように否定することしか出来ない。


『またまたぁ。照れてるのね』


 ただしゼラフは聞く耳を持たない。そのままスカフの頬に手を添えようとして。




『何者だ、貴様!!』

『大丈夫ですか、王子!!』

『離れろ!!』


 王子を捜索していた王国の騎士団たちが事態を察知した。不審者を取り囲もうとする中ゼラフは。


『んもう、野暮な人たち。ごめんね、スカフちゃん。ちょっとの間離ればなれになるわね』


 マイペースなままスカフの胸元に手を当てて。


『離れていてもスカフちゃんは浮気なんてしない。分かってる……だから悪いのは信じ切れない私なの』

『あぐっ……!?』


 大きく黒い輝いたかと思うと、その闇はスカフの胸元に焼き付いた。




『こんな障害……乗り越えて絶対に添い遂げてみせるわ』


 そうして騎士団の人たちがゼラフを取り押さえようとしたその瞬間、ゼラフはその場から姿を消したのだった。

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