63話 お茶会 4回目
「それでは今回は布教のためにこの地にやってきたと」
「ええ。しかし色々と難しいですね」
本日ラスト、4度目のお茶会開始からしばらく経過している。
プーナ神国のカプラ神官と相対して、スカフ王子はやりにくさを感じていた。
カプラ神官の独特な雰囲気。さらに王国に対して敵とも味方とも思っていない無関心さ。全ては自身の信じる神の布教のため。
どうにも主導権を握れずカプラ神官のペースで話が進んでいる。
頼みの綱、アラファが作ったいちご大福も並んでいるがカプラ神官は一度も手を付けていない。
「お茶会の作法としてお菓子も一緒に提供させてもらいましたが、シエモス教ではお菓子を食べないと聞きます。迷惑でしたかね?」
「お気持ちは十分にありがたいです。ただ無用な食は欲の源となりますので節制していまして」
「……そうですか」
カプラ神官、シエモス教の聖女の意志は鉄壁だ。
そこには混じり気無く神を信仰する姿勢が見受けられる。
「…………」
当てが外れたか……?
そもそもプーナ神国が全てに中立というなら、お茶会を開いてその思惑を窺ったり交渉なんてする必要もなく放っておけば良かった。
王国にも共和国にも帝国にも連邦にも与せず、ただただ神を追い求めるなら、個人的にはどうぞ気が済むまでと言うところだ。
だけど……僕の勘ではどうにも神国には何か裏があるように感じていた。
だからこの場で色々探りをかけてみたけど特に何も反応は無く、自身の勘を疑い始めたところで。
「しかし、このお菓子……そうですか。
昨夜出会ったお菓子職人。王国出身とは言ってましたが、このお茶会を任されるほどの人物だったのですね」
「アラファ・ステンスのことですか?」
カプラ神官がふと出した話題。
お菓子自体が食べてもらえなくても、アラファの人柄の方から突破口が開けるか――。
「ええ、シエモス教の教えからは反しており、方法こそ拙かったですが、見ず知らずの子供を助けたいと思う気概を持った善人でしたね」
スカフは期待したものの、カプラ神官は良くも悪くもアラファのことを冷静に評価していた。
その後も聖女に隙は無く、特に収穫も無いままお茶会は終了するのだった。
「鉄壁だったな」
「そうだね」
護衛のマギニスの感想にスカフ王子は頷く。
「カプラ神官は裏表も無い敬虔な信徒みたいだな」
「ああ。つまりプーナ神国は敵でも味方でもなく放置して良いと……」
「いや」
「……?」
スカフ王子を遮るように否定するマギニスは続けて述べる。
「貴様はカプラ神官の反応に注目していたから見えてなかったと思うが……やつの従騎士は興味深い反応をしていたぞ」
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「本日のお茶会はこれで終了です」
掴み所の無く平凡な風貌の男性、スルザ従騎士はカプラ神官に仕えており、その身の護衛からスケジュールの管理までこなしている。
お茶会の間もカプラ神官の背後に立って付き従っていた。
「ようやく現世のしがらみから解放ですね」
カプラ神官は特に感情も無く淡々と述べる。
「今夜も特に予定はありませんが……昨夜のように勝手に町に出ないでください」
「それは確約出来ませんね。神を求める声があれば向かう。それだけですので」
「……はぁ」
カプラ神官の掴み所の無さにはスルザ従騎士も辟易していた。
昨夜も特に護衛も無しに町に出て、廃墟に足を運んでいたと聞いて肝を冷やしたものだ。
「それでは一度部屋に戻り身を清めてから夜の祈りを捧げようと思います」
「承知しました」
スルザ従騎士はカプラ神官をパラク宮殿でプーナ神国が拠点としている一角、その自身の部屋まで送り届ける。
一人になったスルザ従騎士は。
「………………」
懐からいちご大福を取り出した。
カプラ神官はお菓子を食べない。それはそれとしていただいたものを突っ返したり残しては失礼だという感情はあった。
そのため一応は受け取り、スルザ従騎士に預けて処分するように言った。
受け取ったスルザ従騎士が捨てるか、また誰かに譲るかは分からないが、同じシエモス教を信じるものとして良いようにやるものだと思っていた。
そのように任されたスルザ従騎士はいちご大福を前にして。
「……中々にウマいな」
特に躊躇いも無く食べた。お菓子を食べることを禁止するという戒律を無視して。
「しかし王国も結構疑り深く探ってたな」
全く面倒くさいことだ、と吐き捨てる。
「スカフ王子……中々才覚はありそうだ。それだけにかわいそうだな。子供になるなんて面倒な祝福をかけられているなんて」
何故かスカフ王子の現状を知っており。
「それにしてもその張本人、『妄執の魔女』ゼラフはどこにいるんだ?
執着している真昼の王子様を追って、この会議に潜入しているという情報だったが……」
ゼラフを追い求める。
プーナ神国もまた色々と抱えているのだった。




