61話 お茶会 3回目
結界から脱出した後、王国と帝国の間で少々問答があったが、結局僕らもオグネー将軍も無事だったということで特に何も無くお茶会は終了した。
スカフ王子は結界の中で何があったのかと周囲に問われたが全て曖昧にはぐらかした。
そもそも話をしている余裕が無かったというのもある。息つく暇も無く次のお茶会の準備に取りかかり、三度お茶会は開かれた。
今回の相手は――。
「久しぶりじゃな、アラファ」
「王子もご無沙汰しています」
大陸の西、ザフト連邦。
会議に出席する代表はデニサ村長とその恋人で菓子職人のブロス。
直接会うのは精霊祭以来だ。
「デニサ村長、お久しぶりです」
「二人とも仲睦まじそうで良かったよ」
アラファと僕で二人を迎え入れる。
そもそも王国とザフト連邦は精霊祭の一件で国交を結んでいるため、駆け引きや交渉の必要が無い。そのためお茶会は本当にただのお茶会でしかなく、だったら二人と親交の深いアラファも最初から一緒に参加しているという次第だった。
「早速だけどアラファに評価して欲しいんだ。今、俺が作れる最高のフルーツタルトを!!」
「ほほう、いいじゃない。受けて立つわ!!」
ゲストのはずだがブロスの方からフルーツタルトを出す。
ブロスはアラファからフルーツタルトのレシピや作り方を教わった。いわば菓子職人としての師匠と弟子の関係である。
アラファは一口フルーツタルトを食べて。
「……流石ね。腕を上げたじゃない。おいしいわ」
「よし!」
「でも! まだまだ甘いわね!」
「……? フルーツタルトは甘い物だぞ?」
「そうじゃないわよ! まず一つ目、タルト生地の焼きが少し足りないわ」
「っ、それは……」
「クリームの配分も微妙に良さを殺しているし、果物のカットもまだまだ洗練出来るわね」
「……まだまだ道は遠いようだな」
ブロスとアラファがお菓子談議に花を咲かせる一方で。
「そういえば共和国の大統領と一悶着合ったようじゃな」
「どうやら目の敵にされてるみたいでね」
「舞踏会の時間変更も狙い撃ちした物じゃろう。ダンスのパートナーだったり大丈夫なのか?」
「それならアラファと出るから大丈夫です」
「ほうほう? アラファとか! 何じゃ何じゃ、面白いことになっておるじゃないか」
「別に村長の思うような物はありませんよ。舞踏会に出ないといけない僕にアラファが協力してくれているだけです」
「…………? うーむ、何か様子が……」
「……」
「その、何じゃ。精霊祭ではすっかり助けられたからな。連邦はいつだって王国の味方だからな」
「ありがとうございます」
様子の少し変なスカフとデニサは会話がぎこちない。
「さて弟子の成長を見届けた今、師匠の私も自信作を披露と行きましょう!! フルーツあんみつです!!」
「ほほう、これは果物の彩りが鮮やかじゃな」
「この白いのと黒いのは?」
「白玉とあんこよ。いちご大福の副産物ね」
アラファの出したフルーツあんみつを食べる一同。
「………………」
スカフも食べながら少々物思いに耽っていた。
さっきの結界内での出来事。
まさかポーディニア帝国の皇帝がこの会議にやって来ているとは思わなかった。
滅多に人前に姿を現さない皇帝。僕だって初めて見たが、あんなに物腰引くそうな男が本当に皇帝なのか疑わしくて……いやオグネー将軍が慕っていた以上本物だろう。
ソルト帝の用事はアラファだった。アラファのお菓子を褒めた後、大胆にも僕の目の前で行われた引き抜き交渉。相手が皇帝でさえなければ即刻割って入って突っぱねていただろう。
アラファも当然そんなのは断ったが、その後ソルト帝の渡した何かを食べてから雲行きがおかしくなった。アラファの興味を引く何か……となると十中八九お菓子関連だろう。
どうにか時間が来たことを告げるマギニスのおかげで話は流れたけど……もし時間があったらアラファは頷いていたかもしれない。
アラファの夢をちらりと聞いたことがある。ケーキバイキングなるお菓子が溢れる夢の空間を作ること。
そうだ、アラファは別に王国に忠誠を誓っているわけじゃない。たまたま自分がお菓子を作るのに適した環境を王国が提供したからいるだけ。
現に帝国が同等以上の環境や、未知のお菓子の材料を提示したところで揺らいでいた。アラファにとって王国も帝国もそう違いがないことに気付いたのかもしれない。
そうだとしても……。
「スカフ王子?」
「……ん、どうしたかな?」
アラファの呼びかけに対して、考え事をしていたため少し反応が遅れる。
「その、あんみつ食べたのに黙ったままでしたから。お口に合いませんでしたか?」
「……あまりのおいしさのあまり言葉を失っていただけさ。おいしいよ、アラファ」
「そうですか! なら良かったです」
すらすらと嘘を述べる自分の口に感心するスカフ……いや実際おいしかったため嘘では無いのだが。
安堵しながら自身のお菓子を褒められて嬉しそうにするアラファを眺めながらスカフは改めて思う。
アラファ・ステンス。王国の外交特務室長。その影響力の大きさはこれまでで示された。僕の目的を達成するためにも彼女を手放すつもりはない。
「……なーんか歪んでおるんじゃよな、あの二人」
「まあ王子には立場やら呪いやらあるし仕方ないんだろうけど」
そんな二人の様子を見てデニサとブロスは小声でやりとりした。




