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6話 お菓子な恋話


 スカフ王子が外交に向かう前日のこと。


「疲れた……ようやく終わったわね……」

「はい……」


 アラファとノーナは朝から晩まで作業を続けること2日、どうにか要請のアップルパイ100個を作り上げた。


「二人でやる作業じゃ無いわよ……」

「ロチュさんも手伝ってくれたから3人ですけど……それでもきつかったですね……」


 ロチュさんとは結界魔法の使い手だ。

 作り上げたお菓子を保存する方法に現代日本なら窒素ガスを充填させたり、冷蔵やら冷凍やらあるが、この世界では中の物の時間経過を止める結界魔法一択だ。

 ロチュさんはスカフ王子が派遣してくれたヘルプで、出来上がったアップルパイを箱に詰めることから結界魔法をかけることまでやってくれた。

 基本無口でザ・仕事人といった女性だったが、手伝ったお礼ということでアップルパイを食べている間微妙に相好を崩していたし悪い人では無いのだろう。




「とりあえず今日は休みましょう、帰りましょう。明日からの外交に私も付いていかないといけないみたいだし」


 アップルパイの製作責任者として、スカフ王子から同行を指示された。アラファとしてもアップルパイを食べた人たちがどんな反応をするのか気になっていたのでありがたい申し出だった。


「いいなー、私もザフト連邦行ってみたかったです」

「あなたはお留守番ね。私がいない間にやっておいて欲しいことはまとめといたから」

「頑張ります! ……って、あの人だかりは?」


 昼間の王城をゾンビのように項垂れながら歩いていると人が集まっている区画を発見する。その中心にいるのは。


「あれ、王子様じゃない」


 スカフ王子のようだ。




「ああ、明日からザフト連邦に行ってくるんだ……大丈夫、大丈夫。そんな危険なこと無いよ」


 どうやら王城に訪れた一般人や働いているメイドなどファンに囲まれているようだ。そんな中でも如才なく対応している。




「心配されてるみたいね」

「何か連邦ってごたついてるらしいですからね」


 独り言のつもりで呟いたアラファだが返答があった。


「ん? ノーナ詳しいの?」

「父親が騎士団の関係者なので。色々聞いてる内に情勢についてはふわっと知ってて」

「なるほど。そういえば何か言ってたような……」


 指令を出したときにスカフ王子がザフト連邦には少々問題があると言っていた気がする。


「そう。何かあるんですよ」


 ノーナもそこまで父の話を真剣に聞いてたわけでは無いのでふわふわ会話となる。


「よく分からないけど大変ねえ。……まあおいしいお菓子を食べればみんな幸せでハッピーよ!」

「ですね! アラファ先輩のお菓子にかかれば敵無しです!」


 呑気な二人である。






「僕の目標は『世界平和』なんだ。そのために一歩一歩進むだけさ」


 そんな間にスカフ王子の方は決め台詞のようなものを残してその場を去って行く。追っかけようとするファンもいたがマギニスにブロックされていた。


「世界平和……って今も平和じゃない。そんな求めるものなの?」

「何か実際の戦いこそ起こってないけど、水面下での争いや小競り合いは以前より多い……みたいなことを父が言ってた気がします」


 ノーナのふわふわ注釈。

 よく分かんないけど……目標は世界平和? そんなこと求めるような人かしら? 建前か、それとも裏に隠されたものがあるのか?




「何にしろ人気者は大変ねえ……」


 スカフ王子のいつもの本性を思い出してしみじみしていると。


「アラファ先輩って……その……」

「ん、どうしたの?」

「いえ、その聞いて良いのか分からないんですが……真昼の王子様とどういう関係なんですか?」


 ノーナがおずおずと問いかける。


「どういう関係? って言われても……上司と部下じゃない?」

「でもでも、何かすごい気さくにしてるじゃないですか!? あの完璧な真昼の王子様ですよ!?」

「完璧……そういえば世間的にはそういう印象なのね」


 アラファ的には愉快な青年でしかないのだが。


「まあこの前アップルパイを食べに来たときの印象は私も目を疑いましたが……」

「あれがあの王子の素よ。良かったもの見れたわね」

「でもその素をアラファ先輩には見せてるんですよね?」


 食い下がるノーナ。先ほどのふわふわ情勢会話と変わって、恋愛話になってからフルスロットルだ。


「それは……まあ色々あって素の王子様を見る機会があって」


 呪いについて王子の知らないところでバラすのも良くないか、と伏せて話すアラファ。だがその歯切れの悪さをノーナは違う意味に取ったようだ。


「何ですか、その間。やっぱり二人には特別な関係が……」

「無い無い、そんなの無いって。王子様は私のお菓子を気に入って、私はお菓子を作る立場をくれた王子に感謝している。それだけよ」


 アラファは手を横に振りながら心からの本心を話す。




「えーそんなの面白くないですよ」

「本当ぐいぐい来るわね。まあ立場で遠慮しなくていいって言ったのも私だけど……。そんなに面白い話したいなら、ノーナ。あなたの恋愛話でもしてもらおうかしら?」

「そ、それは……わ、私の話したって面白くないですよ」

「私が面白いわ。ほら、吐きなさい!」


 そうして二人はワイワイしながら帰るのだった。

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