58話 お茶会 2回目
始まったポーディニア帝国とのお茶会。
スカフ王子とオグネー将軍の会話は弾む。
「帝国統一の際の勇名は伺っています。生きる伝説と会えるなんて光栄です」
「そちらこそ若いのに対した立ち振る舞いだ。顔だけだと揶揄する声もあったが実際に見てみると間違いだと言うことがすぐに分かるな」
何とか好印象は掴めたようだけど……しかし凄まじい女性だ。身体の鍛え方も凄いがそこから来るのだろうか、自信に満ちあふれているようで相対していて圧が凄い。
「マギニス、彼女と戦ったら勝てるかい?」
オグネー将軍が護衛と何やら話しているようなので、スカフ王子の方もマギニスに聞く。
「それは……」
「私の方が勝つだろうな」
マギニスよりも先に正面から答えが返ってくる。
「すいません、聞こえてましたか」
「ああ。まあそちらの護衛も鍛えているようだ。10年もすれば負けるかもしれないな」
「……差し出がましいですが聞かせてください。10年とはどのような根拠ですか?」
たまらずマギニスが聞く。
「もちろん10年後には私が引退する予定だからだ」
この先10年は現役でいるつもりで、その間は強くあり続けるという自負と自信に満ちていないと言えないだろう。
冗談では無さそうだね……本当化け物みたいな人だ。
「私よりも強い存在……というと気になってたのは共和国の権能者だな。
精霊の力を一部使える、とはどれほどのものかと思っていたが……使い手が少し脅されたくらいで情けない声を上げるあの大統領では期待出来無さそうだな」
「っ……!」
オグネー将軍の言葉。それは先ほど王国と共和国のお茶会であった一幕を指しているのだろう。
「どうした?」
「知っていましたか……いや当然ですね。それでその件を帝国はどのように捉えているのですか?」
「政治はからきしだ。ちゃんとした判断は事務官たちに任せるが……私個人の意見を言うならどうでもいい。王国と共和国が多少争おうが関係ない、どうせ最後には全て帝国になるのだからな」
「それは……侵略宣言と見なしますが?」
「お茶会上での個人の戯れ言だ。聞き流せ」
スカフ王子の鋭い返しにも涼しい顔をしているオグネー将軍。
今の大統領になってから野心を見せている共和国。
でも帝国はもっと昔から、それこそ周辺諸国を統一して帝国となったときから、さらにこの大陸全土を統一するという野心を隠していない。
今だって王国との国境でも小競り合いはあるしね。
「仰るとおりここはお茶会。開幕から喋りすぎましたね。ここらで一旦お菓子でもいただきながらお茶でも飲みましょう」
スカフ王子が合図をすると給仕の人がお菓子を運ぶ。
オグネー将軍を相手にアラファが選んだお菓子はショートケーキだった。
スポンジにクリームを塗りたくって、上にいちごと砂糖菓子の乗った特に変哲も無いショートケーキ。
アラファが作ったんだからもちろん質は高いだろうけど……こんな普通のショートケーキでオグネー将軍は満足するだろうか………………。
「将軍?」
「……ああ、いただくとしよう」
ふと声をかけると、食い入るようにケーキを眺めていたため返事が少し遅れるオグネー将軍。先ほどまでの威厳が少々薄れる。
まさかそれほど気に入るとは。もしかしてケーキが好物なのか? 見抜いたアラファもすごいな。
スカフ王子は感心しながらケーキを口に運ぶ。アラファの作ったケーキはもう何度も食べている。いちご大福の新たな味覚も良かったが食べ慣れたケーキもおいしい。
そこからしばらく情報交換となった。
お互いの国の情勢や今回の会議開催における見解など、話せる範囲でやりとりしていく。
そのやりとりの中で、どういうわけか分からないがオグネー将軍は気がそぞろで結構踏み込んだことまで話してくれた。ちらちらとケーキの方に目線が行って、どう見ても気になっているのは明白だった。
ここまで効果があると恐ろしいな……。
スカフ王子は少し畏怖しながらケーキを食べ終えようとしていた。綺麗な所作で食べ進めたケーキは残りいちごと砂糖菓子の部分だけとなっている。スカフはいちごを最後に取っておくタイプだった。まずは砂糖菓子から行っていちごでフィニッシュを決めようとしたそのとき。
「ちょ、ちょっと待った……!」
「……どうしましたか?」
オグネー将軍の切羽詰まった声に食べる手を止めて聞き返す。
「そ、その……ケーキの上に乗っているやつは食べられるのか?」
「……ああ、そういえば説明してませんでしたね。これは砂糖で出来ているから食べられるんですよ」
砂糖で出来ているそれは黄色いネコ? ネズミ? のマスコットのようになっている。かわいい見た目にねんど細工のような質感で確かに食べられるか不安になる気持ちも分かる。
オグネー将軍のケーキを見るとすでにいちごは食べられていたが、砂糖菓子の方は皿の隅にちょこんと大事そうに置かれている。
そういえば僕も初めて見たときは食べられるか分からなかったな。アラファこんな物まで作れるなんて本当に器用だ。このデザインも愛くるしい感じだし。
「た、食べる? 本当か? こんなにかわいい……これを?」
オグネー将軍が慄いている。確かに言われても信じられないかもしれない。だったらこっちが実践してみせるか。
「ええ、食べられますよ」
言いながらスカフは砂糖菓子の部分を口に運び、ガリッ、ゴリッと噛み砕いていく。
クリームとは違った甘さ、固い食感が良いね。もちろんいちご程では無いんだけど。
「え、本当に食べて……食べて……ああ……」
スカフがケーキを堪能している間に、オグネー将軍がスカフと自分の皿の上に乗った砂糖菓子の間を何度も視線を行き来させていることには気づけなかった。




