55話 お茶会 1回目
「ああ、すまん。遅くなった」
お茶会に30分遅れで到着したソップ大統領。
「ハルカネン王国のスカフ王子です。それでどうして遅れたか聞いてもよろしいでしょうか?」
礼儀として一応名乗りながら遅刻の理由を問いただすスカフ。
お茶会と銘打ってはいるけど、その実は国同士の会談。友達との約束なんかじゃない、遅刻なんて言語道断である。
よほどの事態でも無ければ到底納得出来ない中、ソップ大統領は――。
「どうしても髪のセットが決まらなくてな。この今の感じ良いと思わないかね?」
髪をかき上げながらそのように言う。
つまりは僕を……いや、王国を舐め腐っているということだ。
王国へ敵意を持っているとは分かっていたけどここまで露骨に来るんだね。まあ舞踏会のスケジュール変更もこの人の仕業らしいし隠す気も無いってことか。
感想を聞かれたが、ぶくぶくと贅沢太りして腹の出たおっさんが髪を気にしても滑稽だとしか思えないが口に出すわけにもいかない。
「とりあえず座りましょうか」
「そうだな。立ちっぱなしは疲れるぞ」
腰と一緒に気持ちも落ち着かせようと試みるスカフ王子。
想定出来ていた事態だ。相手は挑発して僕の心を乱して足下を掬おうとしている。どんなことがあっても平常心でいないと。
給仕の人が動きスカフ王子とソップ大統領それぞれの前のカップにお茶を注ぎ、皿にアラファの用意したお菓子いちご大福が置かれる。
「ん、これは?」
「我が国の菓子職人が共和国の名産品を使って作った、いちご大福というお菓子です。是非ご賞味ください」
言いながらスカフ自身もいちご大福を食べ始める。
初めて食べるお菓子……外のもちっとした食感、中の上品な甘さ、際立ついちごの美味さ……とてもおいしい。
ここがお茶会じゃなければ大声でウマいと叫んで、アラファを褒めちぎるところだ。
本当にアラファの作るお菓子はすごい。それに糖分を取ることで少し落ち着くことが出来た。おそらくまだまだ挑発行為を辞めないだろうけど余裕を持って対処して――。
「……どうされましたソップ大統領?」
スカフ王子は思わず声をかける。というのもソップ大統領がいちご大福を摘まみ上げたかと思うと、それを口に運ばずに眼前にまで持ってきてじーっと眺めているからだ。
「何なんだ、このお菓子は?」
「と言われますと?」
「共和国の名産がこんなよく分からんお菓子に使われているのか?」
「外の白い部分に米と中の黒い部分に小豆が……」
「そんなのどうでもよいのだよ。私は共和国のトップなのだぞ。だというのにこんな得体の知れないお菓子を振る舞うとは。この白さカビてるんじゃないかね。全く、王国の菓子職人のレベルは低いな」
ソップ大統領が手を離すといちご大福が地面に落ちた。
お菓子としての尊厳を奪う行為だけに飽き足らず、その上から足で踏み潰そうとして――。
「その汚い足を退けろ」
瞬間、ゾッとするほど低音の脅し文句と共にスカフ王子はその身に宿す光魔法を発動。
収束した光が実体を持った剣となってその手に収まり、切っ先をそのままソップ大統領に向ける。
一国のトップに向かって剣を突きつける。どのような理由があってもやってはならない行為。
それでもスカフの中の怒りを表す方法はこれしかなかった。
「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!!?」
突然の害意にソップ大統領は情けない声を上げて後ずさる。
一触即発。
ソップ大統領の護衛たちもそれぞれ臨戦態勢に入り、マギニス含めたスカフ王子の護衛たちもそれに応じる。
怯えるばかりで何も出来ないソップ大統領。
故にこの場を動かせるのはスカフ王子ただ一人。
全身に注目を浴びる中、ゆっくりと口を開く。
「共和国の態度はよく分かった。貴様たちと交渉することは一切無い。元々そちらの遅刻で時間も押していたしな、お茶会はこれでお開きとする」
スカフ王子は踵を返してお茶会会場から去るのだった。




