52話 2日目
大陸全土会議二日目の朝。
スカフ王子は自室にて身支度を整えて時間を待っていた。
昨日は王国から共和国への移動、ゲンツやサミーと会ったり、その他視察を行った。
今日は各国代表とのお茶会という名の事前交渉の連続だ。気を引き締めないとね。
「そろそろ時間のはずだけど……おっ」
自室の扉の前に立っていると魔力の気配が部屋全体に走る。かけられていた結界が解除されたようだ。
「時間通りだね。ありがとう、ロチュ嬢」
「別に。ただ仕事をこなしただけ」
扉を開けて部屋を出るとそこには結界魔法の使い手ロチュがいた。呪いによる子供状態の姿を誰にも見られないように昨夜部屋に結界を張ったのを、今解除してもらったということだ。
スカフとロチュは結界魔法の使い手として何度か関わったことのある。故に彼女が無愛想なのも分かっていたし、仕事以外の会話をすることは滅多に無い。
「そうだ。王子様の耳に入れておきたいことが」
「……珍しいね。何かな?」
だからロチュから会話を振ってきたことで何か起きたのだろうと身構える。
そしてロチュは昨夜結界を張ってからアラファと合流して廃墟でカプラ神官と出会った出来事を語った。
「はぁ。アラファがプーナ神国の聖女と問題を起こしたのか……」
スカフ王子は頭を抱える。
話の中に色々気になることはあったが、一番大きな出来事はそれだろう。プーナ神国の神官、聖女とも呼ばれるカプラ高等神官とアラファが出会った。
……シエモス教の概要は理解している。お菓子を愛するアラファとは相性が悪く、邂逅させるのには慎重を期する必要があると思っていたけど、僕の知らないところで会ってたとは本当想像も付かないって。
「別にあっちは気にしていない様子だった」
「それは不幸中の幸いだけど。もう本当に聖女様に楯突くなんて無茶するねえ……」
「最後は子供たちに囲まれる中、黙ったままのアラファを引っ張って帰ってきた。そんなところ」
「分かった。報告ありがとう」
スカフ王子が感謝を伝えると、ロチュはわずかに頷いた後去って行った。
そしてスカフも動き出すとその背後に護衛のマギニスが付き従う。
「まずは食堂か?」
「ああ、腹が減っては戦も出来ないって言うからね」
ロチュがいる間もずっと脇に控えていたマギニスの言葉に応えるスカフ。
「マギニスはアラファと聖女の騒動についてどう思うかい?」
「貧富の差の問題は根深い。余所者が軽々しく首を突っ込んでどうにか出来るものじゃない」
「それはアラファに対してかい? それとも聖女に対してかい?」
「恐れずに言うならどっちもだ」
「なるほどね……まあ僕も同意見だ」
アラファは特に何も考えずに首を突っ込んだのだろうが、聖女の方はよく考えて首を突っ込んだのだろう。お人よしといえばそれまでだが、布教のためなら惜しまないということか。
「本当よくやるよ。まあ共和国で飢えや貧しさで苦しんでいる人がいようが僕らには関係ない」
「……」
ばっさりと切り捨てたスカフ王子にマギニスは特に反応しない。
「それよりマギニス。さっきの話で気になったことがあるんだけど?」
「何だ?」
「君とノーナ嬢のことだよ。アラファとロチュ嬢がいなくなったあとどうしたんだい?」
好奇心100%で聞くスカフ王子。
ノーナ嬢がマギニスのことを気になっていることは知っている。堅物な部下に訪れた春をからかって……いや応援してやらないとね。
……うーんでも奥手なノーナ嬢とこの女心なんて理解していないマギニスだ。特に何も起きなかったんだろう。『ただお菓子を食べただけだ』とぶっきらぼうに言われる想像が付いて――――。
「………………」
マギニスが腕を組んで空を見る。何やら悩んでいるようだ。
「何かあったのか!」
スカフ王子は想定外の反応に食いつく。
「……ちょうどいい、貴様に聞いてみたいと思っていた。昨夜、私はいちご大福というステンス殿たちが作った新お菓子を振る舞ってもらったのだが」
「いちご大福? それは気になるな。後で食べたいね」
「そのとき失礼を働いてしまってな。機嫌を悪くした彼女に謝ると何故かいちご大福を口に押し込まれて感想を求められたんだが…………これはどういうことだと思うか?」
「それは……僕にもよく分からないかな」
「ならなおさら私に分かるわけが無いな。ふむ、女性の心というのは本当に分からん……」
ノーナの行動に頭を悩ませる男たち二人だった。




