50話 お菓子な神官
共和国繁華街の離れ。行く当ての無い子供たちの暮らす廃墟。
そんな場所に似つかわしくない麗しい女性、カプラ高等神官の姿。
北のプーナ神国代表、大陸全土会議の参加者。王国で言えばスカフ王子と同じ立場。そんな偉い人がどうしてこんなところに……?
「どうやら来訪者のようね。何用かしら?」
カプラ神官の方もアラファとロチュの姿を見つけたようで壇上からそのように言う。
「アラファ、ほら」
ロチュがアラファを前に押し出してその背中に隠れようとする。
「え、私ですか!?」
「アラファが来たいって言ったんでしょ」
「そ、そうだけど……でもそんな偉い人がいるなんて思わないじゃない。私が話して大丈夫?」
「非公式な場だし、よほど失礼じゃ無きゃ大丈夫」
「だ、だとしてもロチュさんも一緒に……」
「知らない人と話すの苦手」
人見知りなロチュはテコでも動くつもりは無いと頑なな姿勢だ。話しかけられて答えないのも失礼なため、仕方なくアラファが答える。
「ええと……この場所には――」
話し出してから何の用事でこの場所に来たと答えるべきか迷ったアラファは。
「その、先ほど私からスリをしようとした子供を追いかけてきたんですけど……」
迷った挙げ句そのように言ってしまう。
あぁ……ミスったかしら。こんなこと言われてカプラ神官も何て答えていいか分からないんじゃ……。
「なんとそのようなことがあったのですか……!」
しかし、カプラ神官はカッと目を見開いて大仰に嘆くと。
「子供たち、あなたたちは先ほど教えを知ったばかり。悪に対する心構えが無かったのは仕方ありません。
心当たりのあるものは懺悔しなさい。隠しても無駄です。シエモス神はいかなる悪行も見逃しません」
そのように周囲に呼びかける。
すると子供が一人おずおずと出てきて。
「ぼ、僕です……」
「あなたはさっきの……」
アラファに頭を下げるのは、確かに先ほど逃げ去った子供と同じだった。
「ごめんなさい」
「いいのよ。それよりすごい勢いでぶつかったけど怪我は無かった?」
「大丈夫」
「頑丈なのね。良かったわ」
アラファがその子供を許すと。
「よくぞ心を改めましたね。あなたはまた一つ善行を積み重ねました。さあ、この小さきものの勇敢な行いをシエモス神に捧げましょう」
カプラ神官が呼びかけて祈るのだった。
祈りを終えてその場の空気も弛緩したところで。
「その身なり、大陸全土会議の関係者ですか?」
カプラ神官が壇上を降りて、アラファの前までやってくる。
「はい、王国の関係者ですけど」
「なるほど、私はプーナ神国の代表のカプラです」
「ええ、存じ上げています」
ロチュに言われて知ったことだが、もちろん知っていましたよという雰囲気を醸し出すアラファ。
「ところで一国の代表がどうしてこのような場所に?」
「場所は関係ありません。私は迷える子羊がいるなら教えを説くだけ。シエモス神の御心を少しでも多くに伝えるために此度の会議にも参加したのです」
「なるほど……」
カプラ神官の言葉に裏は感じられない。本当に教えを広めるためにこの場にいたのだろう。熱心な伝教者だ。
「ここの子供たちは悪に染まりかけていました。何が悪かったのか、それは信じる物が何も無いこと。シエモス神を崇め、善行を積み重ねれば、必ず救われるのです」
そのように説くカプラ神官。心意気は高く、実際にここの子供たちに教えを根付かせたわけで能力も高いのだろう。
「………………」
それでもアラファが懐疑的に思ってしまうのは日本で暮らしていた記憶からだろうか。どうにも宗教というものに偏見を持ってしまう。
「お姉さん……その、ごめんなさい」
そのとき声をかけられる。振り向くとそこには先ほどの子供が再度謝りに来たようだった。
「そんな何度もいいわよ」
「悪行を許してもらわないとシエモス神に顔向け出来ないから」
カプラ神官のご高説を聞いてここまで反省しているなら本当凄い事ね。
アラファが感心していると、その子供のお腹がぐーっと鳴った。お腹が空いているのだろう。ろくに食べる物も無い貧困状態だから物を盗むしか無かったわけで。
「大きな音が鳴ったわね」
「こ、これは……」
「お姉さんがいいものあげるわよ。これ、いちご大福ってお菓子なんだけど……」
アラファがお菓子を取り出して渡そうとしたところで。
「なりません」
アラファと子供の間にカプラ神官が割って入った。
「なりません……って、」
遮られたことに少しむっとしながらアラファが聞くと、カプラ神官は毅然と言い放った。
「1日3食で十分に人は足ります。
お菓子、そのような無益なものを食べるのはシエモス神の教えに反しています」




