5話 お菓子な野望
翌日。
「ああ、リンゴ!! ようやく出会えたわ!!」
外交特務室に届けられた箱一杯のリンゴ。現代日本以来となる出会いに感極まったアラファはそのまま一つ取り出して齧り付く。
「アラファ先輩、もう二つ持ってきました……ってそのまま食べてるんですか?」
同じ箱二つを両脇に軽々持ったノーナがアラファの行動に目を見張る。
「こんなにたくさんあるんだし一つくらい大丈夫よ、それに素材の味を見るのも大事だしね」
「そんなこと言ってただ食べたいだけじゃ……」
「そうでもある!」
「もう……」
「うーん、でも……」
齧り付いたリンゴを見ながらその味を吟味する。
日本のリンゴよりも小さいし中がスカスカだ。まあ日本のリンゴは農家の技術の賜物、対してこの世界ではそこまで技術が発達していないのだろう。
大きさは数でカバー出来るし、スカスカなのは味付けを濃い目にして……全体を考えて調整をしないと……。
「とりあえず試作よ、試作! まずは皮を剥いて剥きまくるわよ!」
「はい!」
アラファとノーナの二人は手分けしてリンゴの皮を剥き始める。皮を付いたまま作る方法もあるが剥く方がアラファの好みだった。
「ノ、ノーナ!! 手を切らないように慎重にでいいからね!!」
「は、はい!!」
滑らかに皮を剥いていくアラファの一方で、不器用なノーナはリンゴに当てたナイフのスピードが不規則に進んだり唐突に止まったりする。
アラファがハラハラしながら見守る中で、どうにか怪我することなく一つ剥き終えた。
「ノーナ、よくやったわ!!」
「でも形がデコボコで……」
「カットするから大丈夫よ。その調子でやってね」
「分かりました!」
その後、剥き終えたリンゴをカットすると鍋へ。砂糖、バターを入れて焦がさないように注意しながら煮詰めていく。
「うーんいい匂い」
「おいしそうですね! これで完成ですか?」
「いやいや、まだ序の口よ。まあこの時点でもおいしいとは思うけど」
出来上がったリンゴのコンポートを昨夜作っておいたパイシートに乗せる。また上からパイシートをかぶせたあとに焼き色を良くするために卵黄を塗ってから魔力オーブンへ。
「後は焼き上がりを待つだけね」
「楽しみです」
「うーん待ちきれないね」
二人に加わるもう一つの声。
「……って、王子!? どうしているんですか!?」
いつの間にか外交特務室を訪れていたスカフ王子。
「何やらおいしそうな匂いに釣られてね」
ひらひらと手を振る王子。
「全く、こんな余裕があるなら事務作業の一つでもやって欲しいんだが」
その後ろには護衛兼お目付役のマギニスも控えている。
「本当フットワークが軽いですね……まあちょうど手土産の試作が出来たので食べて……いや検品して欲しいと思ってたところなのでちょうどいいですが」
アラファは焼き上がったアップルパイを四つに切り分ける。自分、ノーナ、スカフ王子、マギニスの分だ。
「どうぞ、お召し上がりください」
アラファが勧めると三人ともすぐに一口食べて。
「んっ!! おいしいです!!」
「旨い!! これまた食べたことのないおいしさだね!!」
「サクッとした生地と柔らかい果実……良いハーモニーだな」
三人が口々に褒める中アラファも口に運び。
「ん~、おいしい♪ やっぱこれよね!」
記憶の中にある味を再現出来ていることに喜ぶ。
ああ、アップルパイ……この世界に転生してから食べることが出来なくなって、もっとたくさん食べておけば良かったと後悔までしてたのに……もう一度出会えるなんて。
「ザフト連邦には何度か行ったことあるけど、それでもこのアップルパイほどおいしいと思えるものに出会ったことは無い。
この手土産で外交も円滑に進むはずだ」
「よし!」
アラファはガッツポーズを取る。
どうやら指令もクリア出来たみたいね。
リンゴが手に入ったのもこの外交特務長という地位、スカフ王子のおかげ。その期待に応えられたのは嬉しいしホッとする。
お菓子を作るだけでいいという仕事ももちろん魅力だけど、それ以外にも私の個人的な野望のためにもこの立場は手放したくない。
リンゴの他にも、まだまだこの異世界で手に入れられてない食材はたくさんある。
分かりやすいところで言うとチョコレートだ。カカオのカの字も聞いたことが無く、この世界にあるのかも不明な食材。一市民では到底辿り着けるとは思えない食材でも、この立場ならあるいは……。
そうやって日本と変わりないほどに食材を集めたその先に――。
(ケーキバイキング……!! お菓子好きのお菓子好きによるお菓子好きのための空間、それをこの異世界でも実現させる!!)
そんなアラファの野望もこれで一歩進んだといえるだろう。
おいしいアップルパイも加えて幸せを満喫しているアラファだったが。
「手土産にはこれが100個あれば足りるだろう」
「100……?」
マギニスの言い出したことに目が点となる。
「ん? 当然だろう。手土産なのに1つだけでは先方も誰が食べるかで争うことになるだろう?」
「そ、それもそうですが……期限はその3日先で……」
「ああ、だから頑張ってくれたまえ」
「そのためにこれだけのリンゴを取り寄せたからな」
確かに箱一杯のリンゴが3箱分って多いとは思ったけど……。
「ノーナ」
「は、はい!」
「これから死ぬ気で作業よ!」
「わ、分かりました!」
アップルパイを平らげるとさっそく二人は作業に取りかかるのだった。