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49話 お菓子な子供


「スリに失敗したから逃げた……」


 繁華街の雑踏の中、アラファはロチュに言われたその言葉を咀嚼していく。


 スリ……っていうと、ぶつかりざまに物を盗んでいく行為のことよね? それをさっきの子供が……?

 でもそう考えると辻褄は合う。走って私にぶつかる際に物を盗もうとして、でも結界に阻まれて転んだ。盗もうとしていた相手に手を伸ばされて、捕まると思ったから一目散に逃げた。

 全然微笑ましい一幕では無く、物騒な話であった。ロチュさんの結界は正しく警備として役に立ってたのね。


 それにしてもスリって……日本では名前こそ聞いたことはあったけど実際に被害に遭ったことは無かったし、王国で暮らしている間も無かった。

 それが共和国にはあって……しかもあんな子供が行っている……。


「共和国ではよくあること。気にしないで」


 ロチュが慰めをかけるが。


「……そんなのよくあっちゃいけないでしょ」


 逆効果だった。




「だったらどうするつもり?」

「さっきの子供がいそうなところって分かるかしら?」

「分かる。案内してもいい……けど」

「けど?」

「追加料金。いちご大福ちょうだい」

「それならお安いご用だわ」


 少々雰囲気が和んだ。




 ロチュの先導の元歩くアラファ。繁華街を離れて人気の少ない方に向かっていく。


「そもそもアラファは共和国の現状をどれくらい認識してるの?」


 道すがらロチュが質問する。


「ええと水の精霊と雷の精霊がいて……あ、そうそう。お米や小豆がよく取れるのよね」

「後半は関係ない。パラク宮殿があるこの周囲は水の精霊の地域。そしてさっきの子供はおそらく雷の精霊の地域に住んでた子供」

「水の精霊の地域に……雷の精霊の地域の子供がいるの?」

「現在共和国は水の精霊の地域の方が栄えている。人が集まっている。でも全員受け入れられるわけ無い。溢れた人たちがあんなことして生活している」

「スリだったり……犯罪をしないと暮らしていけないのね」


 先ほどの子供、酷く怯えていた。だから自分が怖がられたのだとアラファは落ち込んでいたのだが、事情を知ると問題はより深刻だ。

 かわいそうだと思った。だからお菓子を分けてあげたい、と思って案内をお願いした。でもそれくらいの感情で首を突っ込んでいい問題かしら……。




「それにしてもロチュさんは詳しいのね」

「結界魔法の使い手として色々な場所に連れられてきたから。今回の会議にあたって情報を仕入れたのもある。でもどちらかというとアラファが知らなすぎ」

「うっ、それは……」


 グサリと刺される。もうちょっとお菓子のことばかりじゃなくて他にも目を向けた方がいいかしら。




「着いた」


 二人は町の外れ、薄寂れた巨大な廃墟の目の前にやってきていた。

 石づくりの建物は外郭こそ保っているもののそこかしこが崩れている。およそ人が住むのに適していない。なのに多くの人の気配と声高に何か主張する声が聞こえてくる。


「行く当ての無い人がここで寝泊まりして……でも何の話をしているのかしら?」

「外まで聞こえるなんてよっぽどの大きさ」


 二人は廃墟に足を踏み入れてその声のする方向に向かう。元は中庭だったのだろうか、開けた場所に出たところで明かり代わりに灯されている篝火とその前に立って主張する女性、それを聞いている子供たちという光景に出くわした。




「さあ、皆さんでシエモス神に祈りを捧げましょう……!!」




 修道服を着たその麗しい女性が呼びかける。格好や身なり、立ち振る舞いから高貴さを感じられる。こんな廃墟で寝泊まりしているような人物ではなさそうに見える。


「あの人は……」


 その女性を見てロチュは驚きを見せる。


「もしかして知ってるの?」


 アラファの疑問に対してロチュが応える。




「あの人はシエモス教の高等神官のカプラ神官。北のプーナ神国を代表して大陸全土会議に参加する偉い人。なのに……どうしてこんなところに?」

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