47話 後輩な新お菓子
キッチンに残された後輩のノーナと護衛のマギニス。
「…………」
「…………」
嵐のように状況を変えて去っていったアラファに、二人ともしばし面食らっていたが。
「ええと……それじゃお菓子持ってきますね」
「頼む」
何かお菓子をもらえたら、というマギニスの頼みに応えるためにノーナは動き出した。
「…………」
い、一体どうしたんだろう、マギニスさん。スカフ王子は呪いで動けないから一人で来たんだろうけど……でもそもそも一人なのに来るなんて。
それにしてもアラファ先輩も先輩だ。気を利かせたつもりなんでしょうけど、強引すぎる。……というか気を利かせるってどういうこと? 別にノーナとマギニスさん二人きりにされたって……されたって……。
グルグルとしだした思考を抱えながら取り出したお菓子はいちご大福。
餅米から出来上がった白玉粉を求肥にして、小豆から作ったあんことザフト連邦産のいちごを一緒に包んだお菓子。
明日のお茶会のために用意したのだが必要数以上に作っている。先輩の作った形が完璧なのは先ほど結界魔法で保存して、ノーナの作った不格好なものは残っている。
先輩と一緒に食べる予定だったんだけど……それをマギニスさんに振る舞う、ってこと?
保存されてるのを勝手に開けるわけにも行かないってなると今出せるのはこれしかないし……でも形が……大体初めて作るお菓子でそんな完璧に出来るわけ無いし……やっぱり止めにして……でもマギニスさんがせっかく訪ねてきたわけだし…………。
「こちらいちご大福です、どうぞ!!」
ノーナはええいままよ、と最後は勢いでマギニスの前に出してその対面に座った。
「これは……初めて見るお菓子、それだけで無く今までと違う系統のお菓子に見えるな」
「先輩の話だと和菓子、の一種だそうです」
「和菓子……和とは?」
「分かりません。ノーナも聞いたんですけどはぐらかされて」
先輩のお菓子の知識はどこから来てるんだろう、といつも疑問に思っているノーナ。
「では早速……」
「…………っ、ノーナも!」
マギニスがいちご大福を一つ掴む。その様子を見ていて心臓がバクバクと早鐘を打ち出してきたノーナは見守っていられず自身もいちご大福を食べることで誤魔化すことにした。
「……おいしい」
緊張でいっぱいいっぱいだったがそれでもいちご大福の味を堪能する。もちもちの皮に包まれた甘さ控えめのあんこ、いちごの甘酸っぱさが奏でるハーモニーが素晴らしい。味見と称してそれぞれ素材では食べたが、合わさるとこんなお菓子になるとは。
マギニスさんも味わっているだろうか、とノーナがそちらを見やると。
「………………」
マギニスの手元からいちご大福が消えていた。
あれ、さっきノーナと一緒に手に取って食べ始めたはずなのにもう無くなっている。皿に戻したなら数が合わないし……ってことは、もしかしてもう一個食べ終わったの?
「ミガヘ殿……もう一ついただいてもいいだろうか?」
「この皿に乗ってる分は好きに食べても構いませんけど……」
もう一つ、そう言った。やっぱりあの一瞬で食べきったってこと? 別にお菓子は嫌いでは無いが特に好きでも無いってスタンスのマギニスさんが……それほど夢中になっているってこと?
マギニスがいちご大福を掴む姿を、観察していることがバレないように上目で盗み見るノーナ。
マギニスさんがいちご大福を一口かじって……やっぱり僅かに目を見開いている。口元を固く引き締めているけど……おそらくそうでもしないと緩んでしまうから必要以上に力を入れているのだろう。それでも隠しきれず緩んで待ちきれないとばかりに二口目で残りを放り込んで二個目を完食する。
見ていて分かった、マギニスさんはいちご大福のことをとても気に入ったらしい。そのことにノーナも表情が緩んできたところで。
「ミガヘ殿、何か気になることがあるのか?」
「えっ!?」
いきなり話しかけられてビックリするノーナ。
「何やら私の様子をずっと窺っていたようだが」
「き、気付いて!?」
「職業柄、視線には敏感でな。何か気を悪くさせていたようなら謝る」
「そ、そんなことないですよ! ただ……その、いちご大福気に入っている様子だったので」
「……そうだな。味わったことのない食感、上品な甘み、いちごの酸味……大層気に入った。なるほど好みのお菓子となるとこうなるのか。
やはりステンス殿が作ったお菓子はすごい、あの馬鹿が入れ込むのも分かる」
マギニスは口々に讃えるが。
「……そのいちご大福はノーナが作った物です」
「っ、それは……」
アラファから勧められてノーナが作ったとは言っていない以上、マギニスが勘違いしても仕方ないことではある。
「まあ準備したのもレシピも完全に先輩の受け売りですけど…………いや、そうか。だったら、ほとんど先輩が作ったようなものですよね……」
ノーナは急速に気持ちが萎んでいく。
自分の作ったお菓子で喜んで貰えたとはしゃいでいたけど、そんなことない、先輩がいないと絶対に作れなかった物だ。なのに勝手に自分の功績にして……。
それにわざわざこの場で言う必要も無かった。喜んでいるならそれでいいじゃないか、なのに水を差すようなことを言って、マギニスさんを困らせて。
本当に自分が嫌になる、何をしているのか。
ノーナの思考がグルグルと回り、どんどん落ちていくところで。
「申し訳なかった」
マギニスは深々と頭を下げて謝罪した。
「そんな……謝らないでください。ノーナが悪いんです」
「いや、悪いのは私だ。護衛という職業はその功績を主に奪われがちだ。その辛さ、分かっているはずなのに同じ事をしてしまったのだから」
「…………」
「本当に申し訳なかった」
マギニスさんに謝らせている。どうにか立ち直らないと。
ノーナはそう思う一方で。
申し訳無さそうなマギニスの様子を見て、自分の頭の中で何かカチリとスイッチが入る音がした。
「……マギニスさん、まだお腹に余裕はありますか?」
「夕食もそんな取れていないので余裕はあるが……」
「なら口を開けてください」
「……?」
マギニスは怪訝に思いながらも謝罪中なため逆らえず口を開くと、席を立ったノーナが手に持ったいちご大福をマギニスの口めがけて――。
「っ、ミガヘ殿?!」
「食べてください」
「んあっ、んむ……」
勢いそのまま押し込まれたいちご大福を咀嚼するマギニス。女性にあーん、されるという今まで体験したことも無い状況だが、それでも変わらずいちご大福はおいしい。
「おいしいですか?」
「あ、ああ」
「ノーナの作ったいちご大福おいしいですか?」
「……ミガヘ殿の作ったいちご大福、美味だった」
「駄目です、その言い方距離を感じます、誠意が感じられません」
「……」
距離とはどうすれば、と目に見えて困惑するマギニスだが、少し悩んで思い当たるところを見つける。
「ノーナ……殿。いちご大福おいしかった」
「……そうですか。マギニスさんに喜んで貰えて良かったです♪」
満開の笑みを浮かべるノーナにどうやら正解を引けたようだ、と安堵するマギニスだった。




