37話 出発前夜
共和国へと出発する前夜のこと。
「…………zzz」
王城の自室にて呪いで子供になったスカフ王子が、明日朝早くから行動するために早めに寝て、うとうとしだしたところで。
ゴンゴン、と強いノック音が部屋に響いた。
「っ……何だい……?」
驚いて目が覚めるスカフ王子。眠気からぼーっとしていたのはほんの数秒。すぐに頭をフル回転させ始める。
曲者……ではないね。こんなところまで入ってこれるほどやわな警備じゃ無い。王城内部の者で……僕が子供になっているこの夜の時間に訪れられるのはマギニスか父だけ。父ならこんな強いノックじゃないからマギニスで確定だろう。
用件はおそらくかなり緊急なもの。明日から共和国に出発するって分かっているのに、それでもこんな夜に僕を起こさないといけないほど重大な何かが起きた。
さて、これは心してかからないといけないね。
「失礼する」
「とりあえず中に」
スカフ王子は部屋のドアを開けると予想通りそこにはいつになく焦った様子のマギニスがいた。部屋に上がらせてドアを閉めるや否や話始める。
「夜分遅くにすまない」
「その様子からしてよっぽどな何かが起きたんだろう? 用件から先で良い」
「……先ほど大陸全土会議について共和国から通達があった。二日目の夜に行われる予定だった舞踏会を三日目の昼に動かすとのこと」
マギニスによるそのスケジュール変更の通達に。
「……何だと!?」
スカフ王子は心の底から驚いた。
舞踏会を夜から昼に。
ただそれだけの通達でどうして二人は焦っているのか?
それはスカフが『真昼の王子様』だからだ。
絶対に夜に姿を見せないことから付いたその異名は他の国にも届いており、それでもって各国の代表者たちが揃う舞踏会に不参加というある種ワガママと取られてもおかしくない行為も、しょうがないという雰囲気に受け取ってもらえていた。
だが夜から昼に変更になっては不参加の理由が無くなってしまう。
スカフ王子も異性のパートナーと共に舞踏会に参加しないといけなくなってしまうわけだ。
「話が急すぎるね。前日だよ、どうして変更になったのかな?」
「通達には何も書いていないな」
「……まあ実際にスケジュールが変更している以上、理由を考えても仕方ないか。対応策を考えないとね」
「欠席をごり押すか?」
「うーんどうだろう……評判が悪くなることは避けられなさそうだね」
スカフ王子個人の評判だけではない。今回王国を代表して行く以上、王国の国際的な評判に関わってくる。あまりにも急な変更だから情状酌量があるだろうとはいえ、最終手段にしておきたい。
「参加した上でダンスは踊らない、とか」
「マギニスは僕を見世物にしたいのかい?」
どう考えても注目の的だろう。
「なら……参加した上でパートナーとダンスを踊る」
「だからそのパートナーがどこにいるのかって話で……」
呪いもあって僕には特定の仲の良い異性がいない……いや仲良くするつもりが無い。だからこそこうして困っているのであって――。
「パートナーをでっち上げれば良いだろう? 状況を話せば協力してくれるだろう人材に心当たりがある」
「…………」
呪いのことを知っていて、今回の会議にも同行していて、パートナーを演じるということもどうにか了承させられるだろう異性。
マギニスと同様に僕にも心当たりが一人いる。
「最終的に決めるのは実際に参加する貴様だがな」
「本当に人が悪いね、マギニス。最初からこれに誘導するつもりだったのかい?」
「通達を聞いて状況を整理した結果、一番王国にとって丸く収まるのがこの方法だと思った」
「…………」
「それは貴様も同じじゃないのか?」
マギニスの問いかけはその通りだった。
舞踏会に参加せざるを得ない状況になった以上、それに足りないパートナーという存在を補うのに一番手っ取り早い選択肢に僕もすぐに気付いていた。
ならばどうして最初から提示しなかったのか。
それがはなはだ不本意だから、だ。
「……一応、彼女のドレスを用意してもらえるかい?」
「分かった。連絡は?」
「いい。折を見て僕から話すよ。それにどうにか参加を回避する方法だったりも思いつくかもしれないしね」
「そんなもの見つかるのか?」
「……言うな。僕も分かっている、悪あがきだってね」
胃がキリキリと痛む。ストレスに強い子供状態を貫通するほどの負荷をスカフは感じていた。
「全く、酷い話だ。実際どうして舞踏会のスケジュールは変更したと思う? マギニス、予想でいいから話してみて」
「そうだな……考えられるのは三つ。
一つ、何らかのミス。だが大陸全土会議には国の威信もかかっている。ただのミスが起きたとは考えにくい。
二つ、のっぴきならない事態の発生。どうしようもない何らかのアクシデントの発生により変更せざるを得なかった」
「うんうん。それで三つ目は?」
「三つ……貴様やハルカネン王国の評判を落とすための策として仕掛けてきた可能性」
「……そうだね」
「いずれにしろ暗雲が立ちこめてきたな」
早速悪い予感が当たったな、とマギニスは眉間にしわを寄せるのだった。




