32話 お菓子な精霊
夜の外交特務室で進む魔法・精霊についての講義。
「ノーナも『時間』魔法なんて初めて聞きました、事象の規模が規格外だと思うんですが……」
「事象の規模って、どういうこと?」
アラファの質問。
「魔法は起こす事象によって魔力の消費が変わるんです。例えば風魔法ですと、風は自然にも発生しますからそんなに魔力は使いません。ですが時間を操るなんて自然には起こりませんから魔力をより多く消費するんです」
「大変なことにはたくさんエネルギーを使いますよ、ってわけね」
「そこで消費した魔力を回復させるのが精霊ってわけさ」
スカフ王子がバトンを引き継ぐ。
「精霊っていうと……ザフト連邦の精霊は気まぐれだから色んな気候に分かれて、色んな果物が育っていたって話よね」
「ああ、ザフト連邦の『豊穣』の精霊だね。精霊ってのは世界のシステムだ、理を決定付ける。ちなみにここハルカネン王国の精霊が何か、アラファは知っているかい?」
「えっ、あー、いや、その……」
アラファは思い出そうとする素振りこそ見せるが、そもそも覚えようとしていないため出てくるわけが無かった。
何かよく分かんないってことで完全に覚えるの放棄してたのよね……。こんなことならちゃんと覚えとくんだったわ。
「はぁ……。『光』の精霊だよ。『豊穣』の精霊のような特徴は無いが、安定していることが特徴だね。アラファが魔力オーブンだったり魔力冷蔵庫を使えるのも『光』の精霊がアラファに魔力を供給しているおかげなんだから感謝するんだよ」
「ははぁ。いつもいつもありがとうございます」
空中に向かって大仰に礼をするアラファ。
「つまり『光』の精霊はこの広いハルカネン王国全ての魔力をまかなっているんだけど……その対となる『闇』の精霊がゼラフ個人に付いているんだ」
「精霊が個人にですか!?」
ノーナが驚いている。
「詳しくは分からないけど何か凄そうね」
「もう凄いなんて言葉じゃ表せないほどさ。ハルカネン王国に住むたくさんの人々が使うのと同等の魔力を個人で使えるんだからね。それは膨大な量さ。
だからこそ事象の規模が大きい『時間』魔法でも乱発出来るってわけだ」
「『闇』の精霊ですか……でもどうしてゼラフ個人に付いてるんですか?」
「それは分からないな。『闇』の精霊については不明瞭なことの方が多いんだ。分かってるのは他にそうだな、対となるこの『光』の精霊が治めるハルカネン王国内では魔法が使えないらしい」
「つまり王国にいる限り、時間停止からいきなり目の前に現れるってことはないんですね」
「それと呪いも『闇』の精霊によるものだけど、その詳細までは分かっていない」
スカフ王子の答えを横で聞いてアラファは考える。
呪いの詳細が分からないのは痛いわね……。分かれば穏便な手段で解除出来るかもしれないのに、分からないから殺せば解除出来るだろうと強硬手段に出ている……。
「僕が知っているのはこれくらいかな」
「ありがとうございます、スカフ王子」
「それにしてもノーナ嬢がここまで魔法に詳しいとは思わなかったね。君は魔法を使えないんだろう?」
「……? あれ、でもノーナって『怪力』魔法の使い手で?」
「ああああっ!! それは……!!」
スカフ王子の確認にアラファが答えてノーナが慌てるが既に言葉は放たれている。
「あれ? 言っちゃいけなかった?」
「ふむ……。つまり採用面接のときは魔法を使えないって嘘を吐いてたのかな?」
「それは……その……はい」
『怪力』魔法を隠していたノーナは認めて項垂れた。
「ご、ごめんなさいノーナ。秘密にしているとは知らずに……」
「いいんです、アラファ先輩。ノーナが隠してたのが悪いんですから」
「んー……別に魔法を使えることを隠していたって僕は気にしないけど…………いや、隠してた理由は気になるかな。
そうだな、『怪力』ってなると…………女らしくないからってところかな?」
「……そんなところです」
スカフ王子はすぐに核心を言い当てる。
「えーいいじゃない。力持ちの女性がいたって」
「まあそうだね。みんながアラファくらい単純なら……いやそしたら世界が滅びてるか」
「どんなディスり方ですか」
「僕も呪いについて黙ってもらう立場だ。ノーナ嬢の『怪力』魔法について誰にもバラさないことを誓うよ」
「そういうことなら私もこれからは黙っているわ!」
「ありがとうございます、王子、先輩。…………あーでもそれなんですけど」
ノーナは頭を下げた後、急にもじもじし始める。
「どうしたのかな?」
「その黙っているのって護衛のマギニスさんにも黙っていてもらえますか? その王子からすると身内で近しい人に秘密を抱えさせて心苦しいんですけど……」
「それなら大丈夫。マギニスに話せない事なんて今でもいっぱいあるからね」
「そんな誇って良いのかしら?」
アラファが呆れる。
「それよりもマギニスを名指し……か」
王子が愉快そうにノーナを見つめる。
「な、何でしょうか?」
「いや身内ってだけなら僕の父、ハルカネン国王もいるのにわざわざマギニスだけを指摘した理由は気になるかな」
「そ、それは、その……いや、国王のことを忘れていたって事では無くて……」
「分かるよ。マギニスにだけはバレたくなかった。女らしくないって思われたくないって事だろう?」
「え? そういうこと? ……あらあらあら。ノーナ、最近お菓子作りに精力的だなあって思ってたけどそういうことだったわけ?」
スカフ王子とアラファがニヤニヤとして笑みを浮かべてノーナに詰め寄る。
「そ、そ、それは…………ちょ、ちょっとおトイレに行ってきます!!」
耐えきれなくなったノーナは逃亡を選択した。
「あらあらやりすぎちゃったか。……きっかけはこの前部品を取りに行かせたときかな? 面白いことになってるみたいだね」
「ちょっとからかい過ぎたかしら。誰かのために、ってのはお菓子作りにおいていいことだし見守りたいわね」
二人は今後が楽しみだ、とノーナの去っていった方を見やった。




