27話 お菓子な後輩
ある昼の外交特務室にて。
「ご、ごめんなさい!」
ガラガラガシャーン、と連なった金属音が外交特務室に鳴り響く。洗って置いていた調理器具の山をノーナが倒した音だった。
「いいのよ、いいのよ」
慌てて拾うノーナにアラファは声をかけながら手伝う。
アラファとノーナ。外交特務室のフルメンバーである。
現在、お菓子作りの腕を磨くこと以外にやることがない二人は日中ほとんどを共に過ごしていた。たまにスカフ王子が訪れる以外は二人きりだが、二人の波長はあっていたようで苦で無かった。まだ出会ってから一ヶ月もしていないというのにかなり仲が深まっている。
「はぁ……どうしてノーナはドジなんでしょうか……」
片付けを終えたところでノーナは落ち込みテーブルに突っ伏す。
「出会った当初に比べたらマシになった方だと思うけど」
アラファは慰めと取れるような取れないような言葉で返す。
「そうですかね……?」
「お菓子作りも結構出来るようになってきたじゃない。震えながら皮剥きしていた頃に比べれば進歩だわ」
「地獄のアップルパイ作業のおかげですかね? ……でも今日一人で作ったカップケーキも砂糖入れ忘れましたし……」
また落ち込むノーナ。
「………………」
アラファは分析する。
実際ノーナの腕は上がっている、一人でカップケーキの作業を一通りこなせたのがその証拠よ。
でもそれが自信に繋がっていないのよね。
理由は想像が付く。ノーナには成功体験が無いのだ。
作ったお菓子を食べてもらって、おいしいと言ってもらうのは大事だ。
私にとってそれはお母さんだった。お菓子作り始めたての頃、失敗もあったはずなのにお母さんは何でもおいしいって食べてくれた。
そんなお母さんを喜ばせたくてお菓子作りを頑張ろうと思えた。
ザフト連邦の菓子職人ブロスだってリンゴ村の村長デニサのためにお菓子作りに励んだはずだ。
でも、ノーナにはそれに当たる人がいない。
アップルパイのときは王国にお留守番していて色々話はしたけど実際に見てないわけだし。私がおいしいって食べても、ノーナにとって教わる人だからどうしても響かない。
ノーナも自分の作ったお菓子をおいしいと食べてくれて、この人のためにお菓子を作りたいって思える人が出来るといいんだけど……。
「そういえば先輩、今日って魔力冷蔵庫の部品の受取日じゃなかったでしたか?」
「あーだったわね」
魔力冷蔵庫はその名前の通り魔力を使った冷蔵庫なのだが、ザフト連邦からの果物を貯蔵したり、ゼリーを冷やすのに使ったりと酷使していたら壊れてしまった。
スカフ王子に相談したら『修理業者に依頼しておくよ』とのことで見てもらったところ部品の交換だけでなんとかなるらしくその受け取りが今日だったはず。
「でしたらノーナが行ってきます!」
ノーナが勢いよく手を挙げる。
魔導具店、王城から微妙に遠いから行ってくれるならありがたいし……何よりノーナがこうして積極的に行こうとしているのは迷惑をかけた分を取り返したいと思っているのだろう。
実際私は迷惑だなんて全く思ってないけど、言ったところで気遣われるだけだと思うだろうし。ノーナの中で折り合いが付くのが重要で、これで出来るなら一石二鳥だ。断る理由も無い。
「それじゃあ頼もうかしら。帰ってきたときに一緒に食べれるように何か作って待ってるわね」
「それは楽しみです! ではノーナ行ってきます!!」
ノーナは元気よく外交特務室を出て行った。
「…………」
残されたアラファは考える。
ノーナはドジと言ってもそこまで壊滅的なわけではない。頼まれた物を受け取ってくる、三歳児でも出来るおつかいを失敗するわけはない。
ただ別の点で心配するところがあった。
そういえば魔導具店に行くまでの道に治安があんまり良くない場所があるのよね……あーでもノーナなら大丈夫かしら。
ノーナはこの外交特務室の掃除でも役立った『怪力』魔法の使い手だ。棚も片手でひょいと持ち上げるあの力なら不審者が寄ってきても返り討ちに出来るだろう。
「うん。それなら私はノーナが帰ってきたときのためにおいしいお菓子を作るだけね! さて何を作ろうかしら」
アラファは作業に取りかかった。




