24話 お菓子な急転
『あのおばあさん……ゼラフさんにもフルーツタルト食べて欲しかったなあ』
『……アラファ? 今、何て言った?』
アラファの呟きに対して、スカフ王子は呆然としてその手に持っていたフォークを取り落とした。
「何……って言われても? フルーツタルト食べて欲しかったなあ、って」
すごい緊迫した雰囲気だけど……いや流石に私何もおかしいこと言ってないわよね? 復唱しながらアラファは自分の発言を振り返る。
「違う、その前だ! おばあさん……ゼラフって言わなかったか!?」
スカフ王子は立ち上がってアラファの肩を掴みながらまくし立てる。
「言いました……けど……」
アラファにとってこれまでスカフ王子は飄々としていて愉快な人という印象だった。その仮面をかなぐり捨てた様子に気圧されながらアラファは肯定する。
「ゼラフ……まさかこの国に来てるのか……だとしてどうしてアラファに接触を……」
肩を掴んだままブツブツと呟くスカフ王子。
やはりスカフ王子の様子はおかしい。ここはマギニスさんに納めてもらおうとアラファはスカフ王子の背後の方を覗き込んで。
「…………」
帯剣された腰に手を当てて厳重に周囲を警戒しているマギニスが見えた。さっきまで一緒にフルーツタルト食べて和やかだったのにすごい豹変だ。
王子と同じ雰囲気を感じる。緊張しているのにどこか『ようやく』『待ち望んだ』という高揚感。
「ゼラフさんが…どうかしたんですか?」
雰囲気に当てられたアラファはおそるおそる聞く。
「…………」
スカフ王子は周囲をちらっと見た。
精霊祭の貴賓用の高台。周囲には私、王子、マギニスさん、デニサ村長、ブロスの5人しかいない。警備の人は遠巻きに見守っているだけだ。
デニサ村長とブロスの二人も一体何が起きたのかと固唾を呑んで見守っている。
「……まあ、いいか。ゼラフというのは――」
デニサ村長とブロスにも聞かせて良いと判断したのだろうか。スカフ王子が告げようとして――。
「『妄執の魔女』ゼラフ。スカフに消えない愛を残した張本人さ、けひひっ」
しわがれた声が、先んじてその正体を暴露した。
「え?」
「なっ!?」
声はアラファとスカフ王子のすぐ隣から聞こえてきた。つい今しがた周囲を見たときに誰もいなかったその空間の方を向くとおばあさん――ゼラフがいる。
「二人とも下がってください!!」
マギニスがゼラフとアラファたちの間に割り込む。抜剣もして臨戦態勢だ。
「そんなに邪険に対応しなくてもいいじゃないかねえ。久しぶりの再会ぞ?」
曲がった腰、震える足、しわがれた声。生命が尽きようとしている老人の姿……なのにその目はギョロリと力強くマギニスとその奥のスカフ王子を捉えている。
「い、いきなり現れたぞ……!?」
「妄執の魔女……って何なんだよ!?」
デニサとブロスが周回遅れで事態を理解して驚く。
「おばあさん……?」
対してアラファは未だに現実を噛み砕けていなかった。
おばあさん……あの話が面白くて、いつかお菓子を食べて欲しいと思った人が……何故かいきなり現れて……王子とマギニスさんが敵意を剥き出しにしていて…………そしてスカフ王子に残した消えない愛って…………もしかして……。
「何が愛だ! こんなの呪いだろう!」
スカフ王子が拒絶の意をたっぷり込めて叫ぶ。
「全く、スカフったら反抗期ねえ」
しかしゼラフは全く意に介していない。
「あの……おばあさん。聞いても良いですか?」
「ん、どうしたかいお嬢さん……いや、アラファ」
頭では理解出来ても、心が追いついていなかった。アラファはつい昨夜の話の延長上として普通にゼラフに問いかける。
「おばあさんが……スカフ王子が夜、子供になる魔法をかけたの?」
「そうだねえ、愛の証さ」
「どうしてそんなことを……?」
「もうあんまり恥ずかしいことを年寄りに言わせないで欲しいねえ。そんなの――」
アラファの疑問にゼラフは得意気に宣言する。
「――私のスカフが余所の泥棒猫に奪われないようにするために決まっているだろう?」
スカフ王子の方を向いてウインクをする老婆。声に艶が乗っており恋情が込められていることが感じ取れた。
「…………っ」
その場にいるゼラフ以外の五人は『妄執』ともいえる異常な愛に対する生理的嫌悪感から鳥肌が立った。




