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23話 お菓子な大団円


 その後は流れるようだった。


 『フルーツタルト』

 見た目からしておいしそうだったが、ザフト連邦の現状から認められなかったそのお菓子。

 しかしリンゴ村の村長デニサがそれを食べて顔を綻ばせた。

 彼女が様々な果物を乗せたそのお菓子を認めた、それほどのおいしさがあるのかと、民たちの興味は抑えきれなくなりモモの村のスペースに人が殺到した。


「う、うめえ!!」

「なんだこれは!」

「色んな果物が合わさって……こんなおいしいものが作れるのか」


 人々が口々に『フルーツタルト』を褒め称えて、それを聞いた他の人がまた興味を持つ。その好循環の結果、大量に作っておいたが瞬く間に無くなった。




「つまりモモの村が一番精霊への奉納がすごかった=偉いということになるらしい。これまでの祭りの風潮からしてな」

「へえ、良かったじゃない」


 ブロスの言葉を他人事のように聞き流すアラファ。

 アラファは自分も手伝った『フルーツタルト』をみんながおいしそうに食べて喜んでいた光景の余韻に浸っていた。


「つまり君も祭りの打ち上げに呼ばれるのかな?」


 スカフ王子がブロスに聞く。


「ああ。……それでアラファにお願いしたいことがあって。その打ち上げの場で『フルーツタルト』のレシピをみんなに共有してもいいか?」

「いいわよ」

「軽っ!?」

「別に減るものじゃないんだし」


 仰々しい雰囲気で頼むブロスに対して即答で返すアラファ。


「なるほどそういう考え方なんだな、アラファは」


 隣でスカフ王子は納得したように頷いている。




 アラファたちが現在いるのは祭りの貴賓席だ。高台を組んで祭りの会場である広場を見下ろせるようになっている。

 警備が常駐していて許可を持っていない人は入ることが出来ず、フルーツタルトで民から注目度が上がった一同が一息付ける場所となっていた。




「戻ったぞ」

「おかえりデニサ。アップルパイの方はどうだった?」

「ああ、ちょうどさっき品切れたようじゃ。フルーツタルトからは遅れたが、これでも2番のようじゃ」

「良かった。別に順位は気にしてないけど、気にしているやつを黙らせられるのは大きいからね」


 そこにリンゴ村のスペースの様子を見に行っていたデニサが戻ってきて、流れるような動作でブロスの隣に座り身体を預ける。


「……デニサ。真面目な話をしてるんだからちょっと離れて……」

「嫌じゃ。この場所はわらわのものじゃ。アラファ、フルーツタルトを教えてくれたのは感謝するがブロスは渡さんからな」

「一ミリもそんなこと考えてないですから、どうぞお幸せになってください」

「……昼食会で何やらブロスと仲良さげにしてたのを見たときはムッと来たがお主いいやつじゃな」


 人のイチャイチャは良い栄養素になると二人を拝むアラファ。

 それにしても昼食会のときの会話見られてたのね。……ああそうか、それでその後お礼を言いに行ったときに私の顔じっと見られてたんだ。




「そのままでいいけど話を続けるよ。二人はアップルパイとフルーツタルトのレシピをザフト連邦全体に公開する、ってことかな?」


 スカフ王子が話を戻す。


「ああ。フルーツタルトをザフト連邦全体で作るプロジェクトを打ち立てる。そもそも色んな果物を必要とする関係で協力は必要だからな」

「アップルパイの独占と違ってフルーツタルトは共有。反発する者もおらんじゃろう。そうして国内外に販売していく」

「へえ、そんな大きなことするのねー」


 一国の産業になる。という大きな事態に、どこまでも呑気なアラファは『大変そうだけど頑張れ』くらいにしか考えていない。




「もちろん王国への恩は忘れておらんぞ。正式に国交を結ぶ手はずも整えておく。また連邦に出来ることなら何でも協力するからな」

「……そうか」


 スカフ王子は小さく頷く。


「当初の想定とは違うようだが目的は達成出来そうで良かったじゃないか、王子」


 これまで静かに見守っていた護衛のマギニスだがそう口を挟んだ。


「気分が良さそうだな、マギニス」

「そういうおまえは機嫌が悪いな。どうした、願い通りじゃ無いか……全部ステンス殿のおかげで」

「分かってて言ってるだろう?」

「もちろんだ」


 マギニスとしてはアップルパイで連邦の覇権を狙うスカフの計画は今回外交に訪れて初めて知ったものだった。覇権ルートを取った場合にデニサの身が危険に晒されそうだったのも気に病んでいたし、裏で暗躍していた計画がアラファによって打ち砕かれた様は個人的にいい気味だった。




「まあまあ、難しい話はそれくらいにして。一個フルーツタルト取っておいたの、みんなで食べましょう」


 アラファが後で食べようと取っておいたフルーツタルトを取り出して五人分に切り分ける。


「おお、もうちょっと食べたいと思っていたところじゃ」

「俺も味見くらいしかしてないしな」

「……お菓子に罪は無い。僕もさっきは食べそびれたから良かったよ」

「フルーツタルトはただただおいしいだけさ、ってことか」


 四人が感謝の言葉をアラファに述べながら皿を取る。マギニスはスカフ王子に「うるさい」と小突かれていた。


「やっぱりおいしいぞ」

「食べて改めて思うけど本当色んな技巧が詰まっていてすごいレシピだ」

「ああ……くそ。おいしいんだよなあ」

「だいぶ屈折してるな」


 そして早速四人は食べ始めて口々に感想を述べて。


「さて私も……うーんおいしい♪」


 アラファもフルーツタルトに口を付けて、記憶の中にある味を再現できていることに喜ぶ。


「作り手のアラファも普通に喜ぶんじゃな」

「もちろんですよ。ザフト連邦の果物あってこそ作れた物ですし。……あっ、そうだ。王国にもこのザフト連邦の果物とか欲しいんですけど……」

「それくらいならお安いご用だ。こっちもレシピを教えてくれた礼をしたいと思ってたしな」

「本当!? ありがたいわ!!」


 アラファは喜ぶ。

 これで色んな果物を手に入れることが可能になった。この世界でケーキバイキングを開く、というアラファの野望へと一歩進んだといえるだろう。


 みんな笑顔で問題も解決して進歩もあった。本当に大団円って感じね。


 アラファは満足そうにフルーツタルトを頬張る。


 ただ一つ。もう少しだけのわがままを言うとしたら。














「あのおばあさん……ゼラフさんにもフルーツタルト食べて欲しかったなあ」


「……アラファ? 今、何て言ったんだ?」


 アラファの呟きに対して、スカフ王子は呆然としてその手に持っていたフォークを取り落とした。


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