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22話 フルーツタルト


 その少女は次期村長になることが決まっていた。


 幼い頃からその責務を果たせるように色々と詰め込まれた。


 その結果、村を率いるのにふさわしい振る舞いを身につけて。


 その結果、村の子供たちから浮いてしまっていた。




 子供は違いに敏感だった。


 両親は少女の孤独に無関心だった。


 少女は独り精進するしか無かった。




 そんな折に開かれた精霊祭。


 村長としての務めを果たす両親から解放されてつかの間の自由を手に入れた少女は。




『おまえ名前なんだ?』


 少年と、初めて少女を少女として見る人と出会ったのである。






ーーーーーーーー




 現在。

 精霊祭、モモの村のスペースにて二組の男女が向かい合う。


「…………」

 スカフ王子は自身のこめかみを押さえて、ともすれば苦虫を噛みつぶしたような表情になってしまいそうになるのを人目があるので何とか堪えながら、現状の細かい分析を始める。




「あれ、食べないんですか? 『フルーツタルト』」


 目前にいるのはアラファ・ステンス。王国から一緒に連れてきた菓子職人だ。

 他意無くお菓子を勧める様は……本当に何も考えていないのだろう。


 アップルパイで覇権を取ろうとしている僕の思惑を理解しないままにぶち壊そうとしている。本人としてはただ求められたからお菓子のレシピを教えたんだろうけど……おそらく初対面の相手にも構わずなのか。

 アラファは僕の想定よりお菓子ジャンキーだった、これは認識を修正しておこう。


 そして僕とアラファの間にあるお菓子『フルーツタルト』。


 初めて見るお菓子だ。アラファはこんなものも作れたのか。クッキー生地のサクサクした部分とその上に乗った様々な果物が見ただけでアップルパイと同等に美味しいだろうと確信させる。

 人目が無かったらすぐに食らいついていただろうが、それは計画の破綻を意味する。


 現状『フルーツタルト』はザフト連邦の民に受け入れられていない。果物同士で争っているのに、それを全部乗せて仲良しこよしにさせたこのお菓子を認められるわけが無い。

 『真昼の王子様』として注目を集める僕がこの場で『フルーツタルト』を食べては受け入れたということになってしまう。アップルパイに匹敵するこのお菓子の存在は葬らないといけない。


(……もちろん今この場では食べられないだけだ。祭りが終わった後でこっそりアラファからもらう。絶対に。こんな美味しそうな菓子を見逃せるものか)






 スカフ王子はもう一組の男女に目をやる。


「…………」

「…………」


 リンゴ村の村長デニサ・ヤコブと……名前を呼ばれていたな、ブロス・キーニアだったか。二人はお互いの顔を見て固まっている。

 ブロス・キーニア……ああ、そうだ。僕の記憶が正しければ、昨日の昼食会のデザート部門を担当していたはず。彼がアラファからレシピを教わって『フルーツタルト』を作り上げたってことか。


 そんな彼とデニサはどうやら知り合いのようだ。

 何やら雰囲気的に二人には並々ならぬ間柄のようだが関係ない。ただ彼女が『リンゴ村の村長としてそんなお菓子は認められない』と突き放せばいいだけで――。




「良かったら『フルーツタルト』食べないか?」

「……そうじゃな」


 ブロスの提案に、デニサの瞳が揺れる。


「デニサ村長!」


 思わず声をかけてしまう。

 デニサもまたスカフと同じ立場だ。アップルパイで注目を集めている村長が『フルーツタルト』を食べてその存在を受け入れる訳にはいかない。

 彼女ほどの人物がそのことを分かっていないはずがない。だったら断るしかないはずなのに……どうして迷う!? 覇権を取りたくは無いのか!?


「王子……」


 僕の忠告にデニサも思い留まって――。




「あ、デニサ村長、こんにちは! この『フルーツタルト』ブロスさんが村長のことを思って作ったんですよ。是非食べてください!」


 そこにアラファの援護射撃が飛ぶ。


「よ、余計なことを言うな!!」


 暴露されたブロスが慌てながら否定してアラファのことを小突くが、何よりその反応がますますアラファの言い分を補強している。




「っ……」


 どうしてとことん邪魔するんだ、アラファ。と声を荒げそうになって思いとどまる。どうせ考えての行動で無いことは見て取れた。

 続いてデニサ村長の方を見る。彼女もちょうどスカフ王子の方を見ていて。


「すまんな」


 発されたのは謝罪の言葉だった。


「……何故謝るんですか?」

「ここまで用意してもらった計画を……今からぶち壊すからじゃ」

「覇権が欲しかったのでは無いのですか?」

「そうじゃな。わらわはザフト連邦の覇権を握って……」

「…………」

「連邦を統一することで村同士の争いを無くし……もう一度あの頃みたいな日々を取り戻したかったんじゃ」

「……そうでしたか」


 デニサ・ヤコブ。

 彼女の野心の源は富でも名声でも無くて……ただ一人の男性と関係を戻すためだった。

 ならばそれを見誤っていた僕の計画が頓挫するのも当然だ。




「ありがたくいただくぞ」


 デニサが『フルーツタルト』の乗った皿を手に取る。


 いつの間にかギャラリーが僕らを囲んでいた。『真昼の王子様』とアップルパイの主。一箇所に固まっていては注目されるのは当然だった。


 そんな多くの人が見守る中、デニサは『フルーツタルト』を口に運び。




「おいしい……とてもおいしいぞ」


 満面の笑みを浮かべるのだった。


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