20話 精霊祭
翌日、精霊祭当日を迎えた。
広場の中央、精霊を模した巨大像の前で各村からの果物やお菓子を精霊に奉納する儀式が行われる。
儀式と言っても魔法的に何かが起きるわけではなく形式的なもので、各村の代表やゲストのスカフ王子が見守る中つつがなく終了する。
その後、奉納された品は無駄にしないために各村がそれぞれスペースを設置して祭りの参加者に無償で配られる。
その品がどれだけ人気なのかが、その年の精霊祭で一番奉納が凄い=一番偉いという風潮が根強く出来上がっている。
「というわけで順調なのはありがたいね」
スカフ王子はリンゴ村のスペースの前に多くの民が並んでいる姿を見てほっとする。
リンゴ村の奉納品はもちろんアップルパイだ。上流階級による昼食会での出来事はどうやら噂になっていたようで、一般階級の人たちが一口食べてみたいと多く詰め寄せる結果となっている。
「あまり目立つなよ。おまえの評判はザフト連邦にも届いてるからな」
マギニスが一般人に囲まれでもしたら警備が面倒だと忠告する。
「ここまでの大盛況は初めてじゃな」
そこにリンゴ村村長デニサもやってきた。
「そうなのかい?」
「ああ。リンゴ村だけでなく、全ての村の過去まで含めてこんなに人が集まったことはない。これはもう確定じゃろう」
「なら良かったよ」
「これでザフト連邦を統一して……その先に妾は……」
野望が漏れるデニサ村長。
「…………」
その姿を見てスカフ王子は少々考えを巡らせる。
そういえば考えたことなかったね。デニサ村長が野心を持っているとは見抜いたけど、その源がどこにあるのか?
うーん……まあ知らなくても悪影響は無いだろう。
「これもアラファという者によるところも大きい。改めて礼が言いたい……のじゃがどこにいる?」
「そういえば朝からずっと顔を見てないね」
儀式に参列する必要もあってスカフも朝から色々準備に追われていた。アラファのことにまで気を回す余裕が無かったし、する必要も無かった。
アップルパイを作ってもらって、そのレシピを伝授させた時点で彼女の役目は終わっている。何をしていても計画に影響は無い。
朝はおそらく祭りを楽しんでたのだとして……今この場にいないのは変だ。
自分が作ったアップルパイを色んな人が食べる姿を見るのが何よりも嬉しい、という考え方のはずだけど……。
「マギニス」
「私も王子の護衛で手一杯だったので騎士団の方にステンス殿の動向は追っておくように頼んでました。そしてちょうど先ほど報告がありましたが、どうやら彼女は現在モモの村のスペースにいるらしいです」
「モモの村……?」
アラファとモモの村。スカフ王子からすれば接点がどこにあったのかも分からないし、そこにいる理由も全く不明だ。
だが聞いた瞬間に脳裏に響く直感があった。
何か良くないことが起きている、と。
「そちらへ向かう」
「はっ」
「妾も付いていこう。モモの村ならあっちの方じゃ」
三人はモモの村のスペースへと赴くことにした。
そして辿り着いたところで三人が見たのは。
「何だこのお菓子は!? 舐めてるのか!?」
「誇りを捨てたのか!?」
「見損なったぞ!!」
何やら激昂している様子の参加者たちと。
「まあまあ、そんなこと言わないで一つ食べてみてくださいよ」
「ちょっと、アラファ! あまり刺激しないで!」
そんな人にもめげずにお菓子を勧めるアラファと諫める男性の姿だった。
「察するにアラファは彼と協力してお菓子を作った……というわけか」
現状を理解してこめかみを押さえるスカフ王子。
色々思うところは大いに、大いにあるけど………………それは後回しにして、一番気になるのはモモの村のスペースに全然人が並んでいないことだ。どころかクレーマーに囲まれている始末。
アラファが作ったお菓子なのにクレーマー? どういうことだ?
スカフ王子は首を傾げるが、そこに並んでいる品を見てすぐに事態を理解した。
アラファによる第三の選択肢。
茶色のクッキー生地で丸く縁取られて、艶やかで色とりどりな果物たちが所狭しと敷き詰められている。
どの果物が覇権を取るか争っている風潮に真っ向から対抗するような、果物たちが調和を取っているそのお菓子の名前は――。
「『フルーツタルト』食べてみてくださいって!」




