やめればいいじゃん。え?本気で言ってんの?
そんなわたしも、貴族令嬢の端くれ。じつは婚約者もいる。
この世界、だいたい、十五、六になると婚約が決められる。
わたしの婚約者はアンディ・ブランドン。同い年の十八才。ブランドン伯爵家の跡取りだ。そこに嫁に行く。
嫁に行って伯爵夫人としてのおつとめを果たす。
「おつとめ」とはなんぞや。
領地経営のおてつだい(書類や伝票の整理)とか、貴族同士のお付き合いとか。たとえばお茶会や夜会。
へえ。
事務仕事ならいい。若いころ営業事務やってたし。どっちかっていうと、ひとりでもくもくと作業するほうが好き。電卓叩いて集計とるとか。
まだエクセルなかったし。
人づきあいはなるべくご遠慮したいなぁ。
なんかね、子どもたちが小学生のころ、子ども会とかPTAとかでのもめごとやらなすり合いやらで、すっかり人づきあいがいやになってしまった。
ほら、もめるじゃない。役員決め。仕切ろうとするボスママがいたり、それの対抗勢力がいたり。「激しい舌戦」という名のケンカがあって。
けっきょく、どのグループにも属していないわたしみたいなのが押し付けられるのだ。
だれもわたしのいい分なんか聞いてくれない。
「仕事で時間が取れないんですけど」
「そんなこと言ったらキリがないでしょ!」
精一杯のお断りも一刀両断。
いや、あんたたちさっきそう言ってやらないことになったよね。
なんで、あんたたちはよくて、わたしはダメなの。
いかに押し付けられたといっても、やらなきゃいけないことはやるしかない。
勝手もわからず、ほうほうのていでやっているのに、ボスママのチェックが入る。
なんでだ。
押し付けたくせに、ああだこうだと文句をつけてくる。
なんでだ。
いい訳でもしようものなら、格好の餌食になる。
「親切にアドバイスしているのに、その言いかたなんなの?」
「引き受けたんだから責任もってやりなさいよ」
「子どもたちのためなのよ」
取り囲まれて喧々囂々。
やってるじゃん。
夫に愚痴れば
「たかがPTAだろう。いやならやめればいいじゃん」
やめれないから困ってるんだよ。子どもの立場だって危うくなるし。仲間外れにされるかもしれないし。
そんなことになるなら、わたしが我慢するしかないんだよ。
「くだらねぇ」
夫のこの一言は、わたしの心を折るには充分だった。
中学に行ったらなくなるかと思ったのに、今度は部活の父母会でおなじことが起きる。
まだ続くのか、これ。
いっそ、なくしてしまえばいいのに。毎年思った。
そんなこんなで、人間不信というか、人間嫌いになってしまった。
結論。
むかしからの友だちがいれば、それでいい。ママ友なんていらん!